第96夜 6・24 友川カズキに捧ぐ

6・24 友川カズキに捧ぐ


 あと五日。今日は、友川カズキのライブに行った。聴きたかった曲を、ぜんぶ聴けた。

 そして、声はそこにあった。狂気はそこにあった。音楽は、文学は、なにもかもは、そこにあった。

 今のこの感情を表すのには、僕の語彙は貧弱すぎる。今日、僕が何を書いたとしても、友川さんの言葉にかなわない。この夜は、友川さんに、力を貰おう。この素晴らしい夜の最後を、僕の言葉で汚したくない。それが書く者として、失格だって?そんなの、知るか。これは、おれのもんだ。




 光の粉をまぶしたように

 フランスの丘という丘が

 淡いオレンジに輝いているのは

 ポールセザンヌのせいである


 破戒なのか革命なのか

 関節のゴツゴツした音は

 たまげた構図のなかで休む

 エゴンシーレは誰なのか


 一人ぼっちは絵描きになる

 一人ぼっちは絵描きになる


 むろん正気などではありはせぬ

 赤いガランス内なるデカダン

 村山槐多 思いし夜は

 何ためらうことなく残酷になる


 覚悟など取るに足らぬのだ

 いつか君に励まされた

 長谷川利行さみしかないか

 今日のメシはさみしかないか


 一人ぼっちは絵描きになる

 一人ぼっちは絵描きになる


 確かなものなど何ひとつない

 人とて詮ない肉片

 フランシスベーコンはるかなりけり

 いつかおぼろげなハグをした


 軽きに空をちぎってみせる

 パウルクレーの欲深き指は

 甘美な鳥の爪痕か

 名もなき民の暗号か


 一人ぼっちは絵描きになる

 一人ぼっちは絵描きになる


 台風が好きだった

 黄色のパレット カタカタ鳴らせよ

 越年の雪の小窓で揺れる

 関根正二 あなたでしたか


 砂浜に輪になって揺れる

 園児らは月の宿した子供だ

 黄金の鳥に赤いリボン結んで

 中村彝がやってきた


 一人ぼっちは絵描きになる

 一人ぼっちは絵描きになる



   友川カズキ「一人ぼっちは絵描きになる」

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