第62夜 5・21 青天の辟易
北へやって来た。明日は、田植えの日だ。今日は高原の宿に来ている。
そこには、僕の未来があった。高原で自給自足をしながら、音楽と藝術とに生きる生活。僕はきっと十年後、あんな家で過ごしているだろうと思った。
これを、宴会を抜け出して書いている。宴会と言っても、もう零時をすぎるから、話したい者だけの残った宴会だ。懲りずに、適当な議論をしている。僕は無表情でそれを嘲笑っている。標準語の、不毛な土のない大地。それは話したがりだけ残った宴会だ。それも、馬鹿みたいに大学院に残って、無意味な言葉を浪費する人種だ。不毛な議論。同じ内容を話し続け、ろくに内容が纏まりもしないくせ、二時間も同じ話をしている。そのくせ月並みな綺麗事やら、あまりに愚鈍な結論に達する。つまるとこ、想像力の欠如。
柾木はそういう不毛な言語から、逃れるために此処へ来たはずだ。だのに、どうして北へ来てまで、標準語の不愉快な耳障りな言葉に、思考を邪魔されていなければならないのか。三時間話し続けた結果、結論がないことが結論にされようとしている。その耳障りな声のせいで、書こうとしたことさえ撹乱されてゆく。殴れるなら、全員殴り殺してしまいたい。
これを書いている部屋の隣からも、気持ち悪い標準語の議論が聞こえる。おれはあの大学院生たちが、さも高尚そうに語る標準語を、馬鹿な暇人だとしか思えない。すべてが「すべき」で語られる、極めて俗的な反大衆論。僕はあいつらには辟易している。北へ来た意味を、今日は見出せない。
酔って眠くて、もう頭が回らない。何を書いたか覚えていない。今日は、言葉は、もういいや。(了)
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