第61夜 5・20 僕の少年癖に就て
5・20 僕の少年癖に就て
柾木はもう一度、思い出そうとしていた。昨日は、また第一夜に戻った。今夜は、少年のことを思い出そう。彼と同じ名を持つ少年が、また彼の家に泊まりに来ている。明日は再び、北へ向かう。芽吹いた苗を、水田に植えに行く。
柾木の中には、少年が住んでいる。それは第一に彼自身だ。はじめは彼自身として、幼い頃自分だったものだ。ある時から柾木は自分の中に、成長を止めた部分があるのを知った。思春期に差し掛かった頃だろうか、それまで年齢とともに成長していた自己の一部が、ある時から年齢についていくことを止めた。それ以来、少年のままの柾木が、ずっと彼の中に留まっている。それが第一の少年だった。
第二の少年は、現実の少年だった。成人と呼ばれる年齢になった柾木は、自らの中の少年に固執した。それは郷愁病の原点であって、帰りたいけど帰れない姿として、彼は後生大事にしていた。そしてある時から、彼は彼の出会う、少年たちと関係を持つようになった。彼は少年と共にあるとき、その関係につける名を知らなかった。友達というには年が離れているし、親友、というのも少し違った。師弟や兄弟とも全く違うし、恋人なんぞとは呼びたくなかった。それは名もない関係だった。名づけられないまま構築されていく、少年と青年の微妙な関係。それこそが彼の少年癖だった。
同名の少年はよく金曜日に遊びに来ていた。週末は鉱物店や天文台へ出かけた。金曜日の夜にやって来る少年を、彼はフライデーと呼ぶことにした。ロビンソン・クルーソーとは関係なかった。フライデーと名もない関係を構築し、彼にしか読めない詩を献呈した。フライデーは喜んで読んだ。柾木はフライデーとの名もない関係を、この世でただひとつの関係にしようとした。
他の誰にも読めない関係。それこそが彼等の芸術だった。(了)
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