第29夜 4・18 鳥はずっと飛んではいられない

4・18 鳥はずっと飛んではいられない


 今日は、うって変わって無風だ。昨日あんなに吹いていた風が、今日はぴたりと、止んでいる夜だ。風が変わっても、書くことは変わらない。プランターの吸い殻だけが増えつづける。

 鳥は、ずっと飛んではいられない。

 それは余りにも当たり前の事実だ。大陸を横断する北帰行の鳥も、永遠に飛び続けることはできない。これがぱったりと書かれなくなった日が、たぶん僕のなんらかの最後だ。鳥が羽を休めるその日は、北へ向かう風の止んだ日だ。

 長い航行を終えたその時、鳥は自らの真実を知るだろう。自らが飛んできた数千マイルには、何の意味さえも無かったことを。鳥は自らが何も成さぬことを知るだろう。その飛行はただ自分一個体のための、自らだけが意味を知る軌跡だと気づくだろう。

 その時、彼の目に映る同じ空は、飛ぶことをやめた彼に、どう見えるか。

 もう風は無いのだと知ったその時、鳥は自らの死を悟るだろうか。爪を根こそぎ切られた雄猫が、もう登れないのを知って死ぬように。

 だが鳥はまた風を待つだろう。鳥は猫ほども賢くはないゆえに、また風を待って飛び立とうとするだろう。南へと誘う懐かしい気配は、新しい風となって彼を喚ぶだろう。同じはずの青い大空は、まだ彼の知らない新しい空となり、清冷な南への風を吹かすだろう。

 鳥は風を知り、また彼方へと飛び立っていくだけだ。それが、彼に与えられた生の宿命であるならば。(了)

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