第19話 偽者

 ぼくの名前は蜘蛛塚拓馬。ネット作家である。小説投稿サイトに時々、私小説のようなものを投稿していたところ、とあるファンを名のる女の子から連絡が届いた。

 ぼくを好きなのだという。物語の中のぼくが好きなのだという。ぼくにこのまま生きてほしいのだという。物語のままのぼくが好きなのだという。

 おせっかいですよね。迷惑ですよね。突然、こんなことをいわれて困りますよね。

 彼女はそういい、連絡を絶った。

 彼女が好きなぼくは現実のぼくとは遠くかけ離れたありえない理想の男性像で、ぼくはそんな役割を行うのは無理であると判断した。いや、ぼくの判断など関係なく彼女は去ってしまった。何もせずに去ってしまった。連絡先は二度とわからない。彼女は消えた。ぼくはフラれた。彼女はもうぼくのことは忘れ、思いついた時にきままにぼくの小説を読むのだろう。そうだ、いつか彼女はこの小説を読む。

 ぼくはいいたい。

 もし、ぼくが物語の登場人物にそっくりで、あなたがぼくを物語の登場人物だと思うのなら、物語の登場人物の方が本物のぼくで、現実のぼくは偽物の作りものってことでもいいと思うよ。

 現実のぼくは偽者だ。偽者。これからのぼくは偽者として生きよう。さらば、愛しき人よ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る