TRUE ENDING

2014/9/28 Sun. - 5

 夕陽が、もう稼働せずうち捨てられた町工場を茜色に染めていた。


 気がつけば、銀路は藍華と乃々と三人で路地のどんづまりにいる。

 年季の入った板張りの塀が正面の道を閉ざしていた。


 あのレトロなゲームセンターは、どこにもない。

 異界から現実へと戻ってきたのだ。


 これまでだと『げえむ』の最後は意識が落ちて、次のシーンへ繋がっていた。


 『げえむ』を正統な方法でクリアした今、銀路は藍華と乃々と共に、意識が連続する時間の中にあった。


 勿論、記憶パワーアップも残っている。

 それは『げえむ』を通しての銀路の成長パワーアップとも言えるものだ。


「二人とも、遊ちゃんのことは覚えてる?」


 銀路が尋ねると、


「ああ、覚えてるよ」

「ええ、忘れたりはしないわ」


 記憶は、共有されていた。

 協力して『撃避 ShooTinG 』へ挑んだ、記憶が。


 嬉しかった。


 そして、銀路は、なんだかうずうずしてくる。


 昼間からゲームセンターで己の腕前の成長具合を確認し、夕方に『ふりぃうぇい』で『撃避 ShooTinG 』を自力クリアした。


 ゲーム三昧の一日だった。


 だけど、


「なんか、もっとゲームがしたいな」


 まだまだ、足りなかった。

 もっとモット、ゲームを楽しみたくて仕方なかった。


「じゃぁ、まだ夕方だし、銀くんの家でゲームしようぜ!」

「奇遇ね。わたしも、もっと銀路君と、ついでに藍華さんとゲームをしたい気分だわ」


 銀路の言葉に、藍華と乃々も乗ってくる。

 三人揃って銀路の家に赴く。


「凄い……もっと早く招待して欲しかったものね」


 乃々がゲーム庫を見て感心している。


「すげぇだろ? ここが、あたしと銀くんを育ててくれたのさ」

「ふぅん……それは、なんだか妬ましいわね」


 ゲーム庫の存在とは別のところにその嫉妬がありそうに乃々が言うが、そういう機微はまだ銀路には解らない。だけど、


「なら、乃々もこれからは気軽に遊びにくればいいよ。俺達三人で、もっとゲームを楽しみたいからな」


 的確な言葉をかけると、乃々は、哀しさと寂しさを称えた笑顔の兆候を浮かべていた。


 そんな二人のやり取りを複雑な表情を浮かべて見ていた藍華だが、すぐに破顔一笑。


「ま、そうだよな……ゲームは遊びだ、みんなで楽しもうぜ!」


 銀路と乃々の背をそれぞれの手で叩く。


 ゲームは遊び。


 その事実を銀路は噛み締める。


 努力と根性で試行錯誤して立ち向かおうと、戦略を立てて戦術を磨くことに充実感を得て熱くなろうと、遊びなのだ。


 だから、藍華と乃々とゲームで遊ぼう。

 家に友達が遊びに来て、みんなでゲームをするなんて、ありふれたことなのだから。


 リビングのブラウン管テレビには、家庭用ゲーム機の金字塔にして代名詞、任天堂ファミリーコンピュータが繋がれていた。ディスクシステムまで用意されている。


 拡張端子には、追加コントローラのジョイカード。画面に映っているのは『もえろ! ツインビー』。どうせなら三人同時プレイができるシューティングゲームにしようと銀路が見繕ったものだ。


 乃々はプレイしたことがないようだが、事前にマニュアルは読んでもらっている。追々やっている内に覚えるだろう。


 二十一世紀も十年以上がすぎているにも関わらず、十代の少年少女がプレイしようとしているのが前世紀のゲームというのは、変かもしれない。


 でも、アラフォーライクなゲーム趣味を恥じることなどない。

 また、ことさらにアピールする必要もない。


 今の銀路には、それを共有できる仲間がいるのだ。


 もう、孤独じゃない。

 ゲームの未来を勝手に憂えて寂しさを誤魔化す必要もない。


 さぁ、仲間とゲームで遊ぼう。


 スタートボタンを押し、銀路達はチープなドット絵で構成されるゲーム画面へと向き合った。


 三人とも、とびきりの笑顔だった。

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