SHINU-GA-YOI

2014/9/28 Sun. - 3

 いよいよ、最後のプレイ。

 銀路は、今一度このゲームの背景を思い返す。


 謎の侵略者に単騎で挑む銀の翼、吸収進化戦闘機 SLV-X 。

 破壊した敵機のエネルギーを吸収し、パワーアップする機体。


 エネルギーには複数の種類があり、同種のエネルギーを続けて吸収することで効果は増していく。敵機を倒すことで手に入るエネルギーはスコアとして表現される。ゆえに、同種(=同色)の敵だけを倒し続けてスコアを稼ぐことが、非常に大きな意味を持つ。


 『レイディアントシルバーガン』をモチーフとしたシステム。ただし、緊急回避のソードはなく、一般的な弾幕シューティング同様のボムである。それは、思えばラスボスへの伏線でもあったのだろう。


 藍華と乃々に見守られながら、銀路はプレイを開始していた。


 火山の火口から飛び立つ人類の最終希望兵器、 SLV-X 。

 孤独な、人類の未来を切り拓くための戦いが幕を開ける。


 一面は荒野を舞台としたステージだ。


「最初は、赤だったな」


 精密な動作で、画面の左右から登場する戦車群の中から赤い戦車だけを狙い撃ちする。乃々のプレイの完全な模倣だった。


 ここでの『撃避 ShooTinG 』の記憶は全て蓄積されている。道中でも『レイディアントシルバーガン』のノウハウを学んできた。


 努力と根性で試行錯誤。


 遊ちゃんのゲームに対して行ったそれは、確かに銀路の中に力となって積み重ねられていた。

 鍛錬は嘘を吐かない。その結果が出ているだけだ。


 要塞入り口を守る砲台を破壊し、山腹へ侵入。壁面に並ぶ無数の砲台の中から赤色のものだけを倒し続けて難なく最初のステージボス、主砲の周りに八つの砲台のついた巨大戦車へ到達。


 ここまで、赤の全繋ぎ。大量のスコアが入っており、武器の威力は十分だ。


 乃々が見つけ出した安全地帯を利用して、稼ぎに入る。戦車の砲台は一つ一つ破壊して点数を稼ぐことができる。全ての砲台を倒してから本体を撃破することで大きなボーナスが入る。


 画面最下部ど真ん中という大胆な安全地帯からホーミングレーザーを放つと、砲台が一つずつ狙い撃ちされる。特定の武器を一定時間以上敵に当て続ければ隠しボーナスが入る。


 こうしてレーザーだけで狙い続ければどんどんボーナスが入ってくる。『レイディアントシルバーガン』では俗に『炙る』などと称される稼ぎが、このボスではほぼリスクゼロで可能なのだ。


 全繋ぎの上に炙りで得られるボーナスを上乗せすることで、以降のステージが相当に楽になることはこれまでの乃々のプレイで学んでいる。


「安置とか、せこいなぁ。もっと前に出てさぁ……」

「藍華姉、安定したクリアが目的なんだから、ラスボスまでは完全パターンで無理はしないよ。気合いは最後に取っておかないといけないから」


 チマチマしたプレイが苦手な藍華は、少し退屈そうにしている。乃々のプレイの時は怒首領蜂シリーズに興じていたが、銀路のプレイは気になるのかずっと見ていた。


 時間はかかるが安全にスコアを稼いで一面ボスを撃破。


 二面。

 大空を背景にした空中要塞面だ。


 大量の戦闘機が編隊を組んで飛んでくる中から、ここでは青色だけを撃ち落とす。

 高速で迫り来るが、順番を覚えていれば簡単に対処できる。

 右、左、左、真ん中、左、右、右、右……。


 中ボスの合体巨大戦闘機も、余裕で撃破。


 空中要塞内の複雑な地形も、進むべき道を予め知っていれば同じ色だけを撃破しながらボスに到達するのは容易い。手が信じられないぐらい思い通りに動いていた。


 頬が緩む。リラックスした状態でのプレイ。


 ただそれだけのことが、銀路にはとんでもない効果をもたらしたのだ。


 二面も全繋ぎ+ボス戦での炙り稼ぎ。ダメ押しだ。


 ここまで稼げば、残りのステージは相当に難易度が下がる。

 結果的に狙い撃ち=稼ぎもしやすくなり、相乗効果でスコアも伸びる。


 かくして三面、森林地帯からの地底要塞、四面、海上からの航空母艦要塞も危なげなくクリアし、遂にやってきた最終面。


 地球を離れ、侵略者達の本拠である宇宙戦艦へ殴り込む。


 乃々のパターンを踏襲すれば、最終面に到達する頃にはラスボスを撃破するに足りるだけのスコア=レベルアップを果たしている。


 稼がなくていいなら、目の前の敵をなぎ払うのみ。難易度は激減する。


 ここからは、『レイディアントシルバーガン』から『怒首領蜂』にゲーム性が変化するのだ。恐らく、遊ちゃんは意図的にそうしたのだろう。


 宇宙戦艦から飛び出す無数の戦闘機をなぎ払い、随伴の小型艦を瞬殺して戦艦内部へ侵入。


 激しい攻撃が続くが、基本的に自機を狙う弾がほとんどだ。小さく動いて弾道を誘導し、画面の端に到達する前に大きく動いて弾道に隙間を作り切り返す。


 見かけは派手でもパターン化すればなんということはない弾幕だった。


 あっという間に、中枢のコアへと到達する。


 無数の有機的な触手のようなもので母艦壁面に接続された巨大な球体。『グラディウス』のラスボスを彷彿とさせる光景であった。


 壁面と繋がる八つの接点を破壊する。接点を破壊するたびに、青から黄、そして赤へと色を変え、全ての接点を破壊するとコアは色をなくして爆発する。


 音もなく、溶けるように戦艦内部の背景は消え、宇宙空間が現れる。


 だが、これで終わりではない。


 コアの最後のエネルギーを吸収して生み出された最終兵器が相手だ。


 画面の半分ほどを占める身長の金色の人型巨大ロボットが上部から登場する。


 光に包まれた神々しい姿は『レイディアントシルバーガン』のXIGA《サイガ》を意識しているのかもしれない。


 スマートな本体だが、大量の武器を装備している。


 各種弾幕とパンチやキックの格闘技の混合攻撃を躱しながら、装備を一つ一つ破壊して丸腰にする。最後は全身にエネルギーを纏っての高速での体当たり攻撃主体になるのも把握済み。


 これは、ロボとの距離を一定に保ってロックオンレーザーで狙い撃ちにしていれば、さほど難しくはない。


 これは、乃々のプレイの模倣ではなく、乃々のプレイを見て気づいた攻略法。


 ビンゴだった。


 余裕を持って撃破。いよいよ真ボスだ。


 切り離されたロボの頭部が、発狂弾幕を撃ってくる。

 一方で、自機の多彩な武器は封印され、正面へのショットのみになる


「おお、やっぱり弾幕はいいねぇ、風情があって」


 藍華がしみじみ口にする。


 開幕は、針状の弾が雨のようにロボ頭部からまき散らされ、やがて、その中に自機へ向かって扇型に広がる速度の遅い青く大きめの丸球が混じってくる。


 針の間を抜けながら、丸弾の通らない場所を狙って避ける。避けながら、少しでもボスの体力を削るためにすれ違い様にショットを当てることも忘れない。攻撃を与えながら気合いで避けるのだ。


 丸弾を三セットやりすごせば、次の攻撃の開始。


「ふぐ刺しとは、よく言ったモノね」


 呆れたように、乃々。


 半透明の楔状の弾がボスを中心に画面一杯に放射状に広がる様は、大皿に盛られたふぐ刺しを彷彿とさせる。


 無論、そんな暢気なことを言っていられる難易度ではない。


 ボスが小刻みに動くのに合わせてふぐ刺しの弾道も複雑に歪んでいく。


 高速で飛来する弾のわずかな隙間を縫うようにしながら、やはりボスへ少しずつでもショットを当てて削っていかねばならない。


 可能な限りボムを使い切り残機を削ってどうにか乗り切っていく。残機ゼロのボムなしだろうとクリアには違いないのだ。


 残機も半分になったところで、ボスの体力ゲージも半分となった。


 ボスの攻撃が変わる。


 自機を狙って大小入り交じった大量の高速弾がまき散らされる。


 藍華のプレイでパターンは把握済み。


 藍華は苦労していたが、これは自機狙いゆえに実は見かけ倒しだ。大きく左右に動いて躱せば何とかなる。


 続いて、画面の四方八方から細かい弾が大量に発生する。弾の速度は遅いが、密度が濃い。


 集中し、隙間を見極めて躱すことに集中しながら、ボスに攻撃が当たることを祈ってショットは撃ち続ける。


 体力ゲージが四分の一を切ったところで、いよいよ最終形態だ。


 ボスを中心に高速で撃ち出される八つの丸い青弾。触手のように連なりながら、渦のように画面内をうねる。


 その軌道から俗に『洗濯機』と言われる弾幕だ。


 だが、最初は序の口だ。弾道の間を回りながらボスの体力ゲージがわずかになるまで削ると、本気を出してくる。放射状に広がるふぐ刺し弾幕の再来。


 藍華は、触手のように連なる青弾の当たり判定一個分の隙間を抜けながらボスの正面をキープする高度なテクニックで挑んでいた。


 試みるが、あっけなく被弾。いくら何でも当たり判定一個分の隙間をスイスイ連続で抜けるようなプレイは覚醒した銀路でも無理だった。藍華は人類を辞めていたのを実感する。


 ここは試行錯誤。

 無理だと結果が出たなら次は違う方法を試す。


「お、素直に回るんだ」


 グルグルと触手状の青弾の渦に沿って頭の周りを回りながら、ふぐ刺しを躱す。恐らく正攻法と思われる対処だ。だが、回ると打ち込めるのが正面に回ったときだけだ。時間がかかる。時間がかかればかかるだけ、長い時間この弾幕とつきあう必要が生じ、ミスのリスクは増す。


 それでも、丁寧に、地道に、泥臭く。

 一周して、撃ち。

 二周目では被弾しそうになりながらもボムで凌いで。

 三周して、撃つ。

 何周も、何周も、繰り返す。想像以上に時間がかかる。


 ボスの正面を維持できる時間はわずか。

 思うようにゲージを削ることができない。


 ボムを失い、残機を失い、どんどんジリ貧になっていく。


 気がつけば、ボムも尽き、残機もゼロとなっていた。


 だが、ゲージも髪の毛一本ほどしか残っていない。あと一周凌げば、倒せる。


 藍華も乃々も、祈るようにして銀路のプレイを見守っていた。


 銀路は、必死になって強ばっていた表情を意図的に緩める。笑うことを意識した。


 それだけで緊張が解ける。笑顔は、余裕を生むのだ。


 ボムがあろうがなかろうが、躱しきればいいだけの話だ。


 これまで、ミスせずに何周かはできている。なら、もう一周ぐらいできるだろう。


 左回り。画面右上、上、左上、左下。


 後は、このまま右下へ移動しながら軌道上でボスへ弾を撃ち込めば、倒せる。


 正面に到達。だが、気が逸った。


 青弾に気を取られて、ふぐ刺しへの注意が疎かになっていた。目の前に迫る三枚の楔弾。


 集中する。


 一瞬が、引き延ばされる。


 と、当たり判定一つ分のワインダーの隙間が見えた。


 ワインダーを左へすり抜け楔弾の軌道から強引に自機を外す。


 その途上で、ボスを再度正面に捉えた。


「これで……終わりだ!」


 撃ち出されたショットが美事に入る。


 画面上の髪の毛ほどの細さになっていたゲージが、完全に消える。


 派手なエフェクトと共に、ロボの頭は爆発四散した。


 人類が、その未来を手に入れた瞬間だった。


 銀の翼が切り拓いた、輝ける路を歩んでいけるのだ。


 エンディングが始まった。

 チープなドット絵で語られる後日譚。

 SLV-X が飛び立った火口から、人類が地上へと這い出してくる。

 侵略者の手から取り戻した地上は、荒れ果てていた。


 だが、これからだ。


 新しい文明を産み出すべく、人々が山を下りていく。

 希望に満ちた中、役割を終えた SLV-X は地上へと降り、地中深くへと封印される。


 その出番が二度とこないことを祈られながら……



ShooTinG THE END.

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