2014/9/23 Tue. - 2
夜になると、藍華が財部家を尋ねてきた。
勿論、銀路の特訓のためだ。
「よし、火蜂に挑むぞ!」
勝手知ったるお隣さん。
藍華はゲーム庫からセガサターンとアーケード風のレバーコントローラである『バーチャスティック』を持ち出して、リビングのブラウン管に鼻歌交じりに接続。
『怒首領蜂』のディスクを入れてプレイを開始する。
「って、なんでそこで動き回るの! ちょっとずつ動けば簡単に避けられるのに」
「細かいことはいいんだよ。気合いがあれば、どうとでもなる!」
道中に関しては、正直、銀路の方が安定している。
敵弾の多くは基本的に自機に向かってくる。
だから、大量に飛んできても引きつけてから自機を少し移動させたり(いわゆるチョン避け)、大きく動くことで誘導して弾幕に隙間を作って逃げ道を作ったり(いわゆる切り返し)と、安定して躱すための定番のテクニックが存在する。
更に、敵の出現パターンを覚えて先手で破壊して弾を極力撃たせない、という手段も取れるので、倒す敵を制限される『レイディアントシルバーガン』に比べればずっと楽だった。
それでも、先の方の面になると敵の攻撃も激しくなり、パターン化していてもちょっとしたミスが命取りになってくる。
そういう局面になってくると、藍華の本領発揮だった。
元からパターン化を度外視して気合い避けだけで進んでいるから、難易度が上がっても関係ないのだ。冗談のように自機の見た目よりもずっと小さい当たり判定のサイズの隙間を見つけては、スイスイと避けていく。そうして、
「……来ちゃった♪」
と、火蜂に到達する。
恐ろしいことにここまでノーミスだ。
銀路にはとても無理な芸当だった。
放射状に、微妙にずれて隙間が不規則な針のような弾の雨を、高速でうねるように飛び来る弾幕を、バーチャスティックのレバーをガチャガチャ揺らして避け、台風のようにボスの周囲を画面一杯にグルグル回る細かい弾の隙間を抜け、
「おっと、これはアウトだな」
危ないとみれば冷静にボムを撃ち、危険を回避。
その判断の速さも、藍華の強みだった。
ここまでくると画面の弾幕に目がついていかなくなる。
回転軌道の弾とうねりながら飛んでくる弾とまっすぐ飛んでくる弾が、狂ったように画面内を縦横無尽に飛び回る。
「あっはっはっは!」
だが、鬼畜弾幕も藍華には通じない。
豪快に笑い。
長い黒髪を揺らし。
銀縁眼鏡の奥の瞳をギラギラと輝かせ。
全て避けてしまう。
「撃破!」
ほどなく、火蜂は墜ちた。
「と、こんな感じだけど、解った?」
「いやいや、こんなの解るわけないだろう? 正直、火蜂戦の途中から目がついていってなかったよ……」
「ん? そっか……なら、お姉さんからのアドバイスは一つ」
人差し指を立ててちょっとためを作ってから、藍華は宣う。
「弾幕は友達、怖くない!」
ネタだと思って銀路は反応に困る。
が、藍華は大真面目だったようだ。
「言い回しはふざけちゃったけど、嘘は言ってないよ。どれだけ激しい弾幕も、大前提として避けられるように作られてる。つまり、どんなに密度が高かろうと、必ずどこかに隙間はあるはずなんだ」
「そりゃ、そうだろうけど」
「だから、まずは『避けられる』って信じるところから。避けられないって思っちゃったら最初から負けてる。どんな弾幕も、『避けられそう……いや、避けられる!』ってぐらいになれば、まぁ、火蜂も倒せるんじゃないかな? 要は、気合いだよ、気合い!」
「あ、うん……気合い、ね」
結局、それしかないのだろう。
「難しく考えず、とにかく見ろ。回数見て慣れろ。そうすりゃ、自ずと道が開けるよ」
「わ、解った……」
そうして、藍華のプレイを背後から見て鬼畜弾幕に耐性をつける特訓が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます