2014/9/23 Tue. - 1

「わたしのプレイは一度見たのだから、もう見ることに抵抗はないわよね? なら、そこから盗めるものがあれば盗めばいい。でも、解説はしないわ。そこまでしたら、銀路君にとっては過剰なサービスよね。攻略サイトに頼るのと変わらないから」


 そんな頼もしくも突き放した言葉が、乃々の特訓開始の合図だった。


 翌日の放課後。

 生徒会の仕事で藍華が来れずに銀路一人で訪れたゲーセン。


 乃々は銀路が来るまでプレイの開始を待っていてくれた。

 これが、彼女なりの特訓らしい。


「じゃあ、始めるわ」


 そうして、プレイを始めるのだが、


「なるほど」


 惚れ惚れするほど鮮やかな動きだった。

 銀路とは、スタート直後から動きの質が違う。


 すぐに真似られるものではないが、可能な限り覚えるべく、見て観て視る。


 集中していると、時間が経つのは早い。

 乃々は淀みなくエンディングに辿りついていた。

 今日もノーミスだ。


「とまぁ、こんなわけだけれど、解ったかしら?」

「……いや、まだまだ全然だ」


 銀路は正直に答える。

 何かを掴めそうだが、まだまだだ。


「まぁ、一発で覚えられてもわたしの立場がないわね」

「そうだな。情報量が多すぎて全部覚え切るには回数が全然足りない。もっと回数をこなさいと覚えられない」

「はぁ……まぁ、いいわ。でも、わたしばかりやっていてもなんだし、一度、やってみてくれないかしら? 初回だから、その上で特別に、触りだけはアドバイスしてあげるから」

「え、いや……それは、どうだろう……」


 以前ゲームセンターの魔女に近づく手段としてプレイしていた頃、最初のステージの最後のボスに到達がやっとという程度の能力だった。


 未熟な腕前を披露することに躊躇して歯切れが悪くなるが、


「はやくしなさい」

「は、はい!」


 乃々に急かされ、思わずかしこまった返事をして筐体に座る。


 そうしてプレイしたものの、当然、最初のステージの最後のボスでゲームオーバーという結果に終わる。


「なんて悲壮感漂う顔でプレイしてるのよ……」


 ゲーム内容より、乃々はそこが気になったらしい。


「俺は自分の限界を知ってるからだよ。まだまだ試行錯誤が足りないから、現状ではこれが俺の限界だと最初から解ってたからな。余裕なんてまったくないよ。そりゃ悲壮感漂うのも仕方ない」

「ええ。そう言うのなら、そうなのでしょうね……」


 呆れたように溜息一つ。


「じゃぁ、約束通りいくつかアドバイスはしてあげるわ」


 そう前置いて、レクチャーしてくれる。


「まず、攻撃ボタンを体で覚えて。このゲームは、状況に合わせて的確な武器で攻撃するのが必須技術。どのボタンが何かとか、どのボタンとどのボタンを組み合わせると何が出るのかとか、考えながらじゃ間に合わない。体で覚えて思い通りの攻撃が出せるようにならないと」

「あ、あぁ……」


 銀路は生返事だった。

 そういう考え方をしてこなかったからだ。


 体で覚えようと意識するのではなく、回数を重ねて思考と動作の間のギャップを限りなくゼロに近づけていく、というスタンスだった。


 まず思考ありき。


 今まで他のゲームをするときも、努力と根性で試行錯誤することで、そのスタンスを変えずにどうにかしてきた。


 とはいえ、このゲームは7種類+1種類の攻撃を使い分ける必要があるのだ。なら、体で覚えようと能動的に意識して繰り返してみるのは有意義だろう。


「後は……『考える前に感じて動けるように』と意識してパターンを完全に覚えなさい」

「それは、そうだな……」


 確かに、銀路は常に記憶と完全に合致するかを考えながらプレイしていた。


 だから、少しでも記憶に疑いがでるとミスに繋がってしまう。

 そこも、やはり意識を変えていかないといけないのだろう。


 要するに、『もう少し感覚的にプレイする』ということだろう。


 それが解れば、後は反復練習あるのみ。


 乃々の模範プレイをもう一度見て、今日のところはお開きとなった。

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