2014/9/14 Sun. - 1

 日曜。


 昨日と同じぐらいの時間帯を見計らい、銀路はあのゲームセンターへと向かう。

 無論、魔女の姿を求めてだ。


「いた」


 期待通りに、花のような笑顔が今日も『レイディアントシルバーガン』の筐体前にあった。


 見つけた途端、手強いボスに挑むときのような心の高揚を感じる。

 少しでも側に寄りたい衝動に駆られるが、その気持ちをグッと押さえる。


 『レイディアントシルバーガン』は触ってみただけで全然まともにプレイできるところまできていない。彼女のプレイを見て先を知ってしまうのは銀路の中ではタブーだ。


 プレイ画面を見ないよう、昨日と同じ七つほど離れた『ゼビウス』の筐体の前で彼女の横顔を盗み見る。笑顔嗜癖スマイルアディクトな藍華でなくとも見惚れるであろう、本当に麗しい笑顔だ。


 画面は見えなくとも、魔女のプレイする姿を見ているだけで退屈しなかった。


 レバー捌きもボタンの押し方も無駄がなく、繰り広げられているのがエレガントなプレイであることは容易に想像がつく。


 豪快な操作をする藍華とはまったく異なる精密なプレイスタイルだ。


 魔女の姿を見ているだけで、あっという間に時間は流れ去った。


 エンディングを迎え、ネームエントリーを終えて立ち上がる魔女。

 銀路は、いよいよだと意を決して彼女へと歩み寄る。


 振り向いた魔女は銀路の姿を認めて一瞬驚いた様子を見せた後、無言で銀路へと訝しげな視線を向けてくる。


「あ、あの……」


 銀路は銀路で、必死に何か言おうとするのだが言葉が続かない。「え、えと……」「そ、その……」と意味のない前置きばかり。


 頭の中が真っ白だった。

 体が硬直していた。

 それでいて、胸の鼓動は高速のビートを刻んでいた。


 要するに、美事にテンパっていた。


「……」


 魔女はしばらく訝しげな視線を向けていたが、銀路があわあわしているのに呆れたように溜息を一つ吐くと、無言で立ち去ってしまった。


 ろくに会話もできず、まったく魔女に近づけなかった。


 試行錯誤第一回目の結果は「なすすべなく爆死」というところか。


 だけど、死んで覚える。最初はこんなものだろう。


 よくよく考えれば、アラフォーライクなゲーム趣味が通じないにしても、学校生活を円滑に送る程度には男子連中とはそれなりにつきあってきているが、幼なじみの藍華は別として同年代の女子と積極的に関わったことなどなかった。だから、上手く話せなくて当然なのだ。


 強力なボスを初見で倒せるような銀路ではない。

 何度も何度も試行錯誤して泥臭く攻略の糸口を探るのが銀路だ。


 なら、この結果は予定調和。次へ繋げればいい。

 いつもゲームの攻略でそうしているように。

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