第8話 目覚め
元の定位置<サマーはソファ俺は向かいのオットマン>に腰掛け淹れたてのコーヒーにホッと息をつく。いきなりサマーはクスクスと笑い出す。
「どうかした?」
「だってさっきの勘違いは、やっぱりないわよ」
テラスから戻ってサマーがコーヒーを淹れると言ってくれたのだが、コーヒーメーカーの使い方やカップの置き場所が分からないので、結局二人でコーヒーを淹れることにした。ミルクがない事に気づいてサマーにその事を伝えた時の事だ。
「私ならブラックで大丈夫よ。私がミルクと砂糖で甘くしたコーヒーしか飲めないお子ちゃまだとでも?そういえばさっきもお酒が飲めるのかって聞いてたわよね。」
「いや、そういう意味じゃないけど。」
「二週間後には28になるのよ。ブラックコーヒーでもお酒でも飲めるわ。吸わないけどタバコもokだし、選挙権だってあるわよ」
「なんだって?!君はまだティーンエイジャーじゃないのか?」
「はあ?!若く見られるのは嬉しいけど、ティーンエイジャーはないでしょ」と大笑いする。
「君と出会って一番の驚きだ」と今度は二人して大笑いした。
「コーヒーを飲みながら、もっと君の事を話してくれるか?」
そして、定位置に戻った。
「女性の見た目ほどあてにならないものはないってことだよ。」
「そうかもね。」
それから、いろんな話をした。
日本の神戸に住んでいて、坂道の多い街だが海と山に囲まれて、自然が適度にある住みやすい場所らしい。自宅のテラスから海と山が見える。そこで夕陽を見ながらビールを飲むのが好きだとか。実家を出て一人暮らしをしているが、二人の兄がいつまでも自分を子供扱いして心配するのが時々煩わしいとか。仕事はインテリアデザインをしていて、この家は凄くセンスがいいと褒めてくれた。サマーは日本で幸せな日常を送っていたのだろう。満たされている感じが伝わってきて、聞いている自分まで幸せな気分になる。サマーの話し方が心地いい。
部屋に朝陽が射し込んでサマーをキラキラと輝かせた。まるで陽の光を浴びて喜ぶ向日葵のように眩しかった。
そうだモールが開いたらサマーに服を買ってやろう。きっと黄色いワンピースが似合うだろう。靴や帽子も買って向日葵の花束をプレゼントしよう。
それからドライブするんだ。サマーを楽しませて、抱えている問題を束の間でも忘れさせてやりたい。心からそう思った。
「やだ、アラームが鳴ってる。もう起きなきゃ。もっと夢の続きを見ていたいのに…」
唐突にサマーがつぶやく。
「サマー何を言ってるんだ。アラームなんて鳴っていない。」
サマーの体の輪郭がぼやけて透けていく。まるで意識が薄れていく時にみる感じだ。思わずサマーの手を握りしめる。だがその手は次第に感触を無くしていき、ついには空を掴んでいた。サマーは跡形もなく消えた。
しばらくの間サマーの座っていたソファを見つめ茫然としていた。
何なんだ⁉︎何が起きたんだ⁉︎人が突然消えるなんてあり得ない。
最近疲れ過ぎていて幻覚でも見ていたのか!
じゃあ、この飲みかけのコーヒーは?この手に残るサマーの感触は?ソファにサマーが座っていた凹みが残りまだ生温かい!
幻覚なんかじゃない。幻覚ではないなら人が消えた事実をなんて説明するんだ。嫌な汗が背中を伝うのがわかる。
とにかく今わかるのは自分は疲れ過ぎている事と怯えているという事だけだ。
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