2年 夏 ⑥


「もしもし? ごめん、起きてた?」

「いま起きた。なに」

「いや急で悪いんだけどさ。前園さんを飲みに誘えないかな。できれば彼氏も一緒に」

「あ~。ん? つまり、そういうこと?」

「まあそうだけど」

「だよね」

「テスト期間も終わったことだし、お疲れ様会という名目で誘ったらどう? 呼べないかな」

「いや、普通にくると思うよ。少なくとも佐藤ふみ花よりは全然きてくれる」

「じゃあ誘ってほしいんだよね。メンバーはその二人と、おれと、藤木は大丈夫?」

「行くよそりゃ。他は?」

「あまり多くても目的ぶれちゃうかなあ」

「じゃあまあ、いまんとこ計四人くらいで」

「こじんまりとさ、個室に入れるような感じで。いざとなっても密室だし」

「いざってちょっと、暴力沙汰はなしだよ。そんなんじゃ新しい問題を生むだけだってのは……わかるでしょ? あ、冗談?」

「ごめん冗談。ゴリラバットの件で学んだもん。不毛だよ」

「うん。でもどうするの? どうせいい顔してくるよ向こうは」

「引き出すよ。根が腐ってるなら、煽ればボロ出すんじゃないの」

「打ち合わせ必要だね。前回みたいな行き当たりばったりはなしで」

「前回……うん、まあまあ、そうだね。そうしよう」

「あ。いまちょっと説教臭いとか思ったでしょ?」

「いやいや、思ったけどちゃんと隠したじゃん」

「声に出てたわ。なんなの? もっとちゃんとしようよ。晴子のためなんだからさ」

「落ち着けって、わかってる。さっきのも冗談だし」

「え~」

「こんな感じで引き出すよ」

「ほんとに~?」

「ところで今度の飲み会が成功したら昇進ですね軍曹」

「次はなんになるの?」

「大尉」

「どっちが上だかよくわかんないけど、まあ頑張るわ」




「なんの話だよ」

 電話を切って顔を上げると、いつのまにか目を覚ましていた宮崎が首筋をかきながらそう言った。おれは思わず声を上げそうになったが平静を装って口元を手で拭う。

「聞いてた?」

「うん」

「聞いててわかった?」

「なんとなく」

「そうか」

「おれも行っていい?」

「あ、マジで?」

「うん。水臭いじゃん。やろうよ」

「おう……そうね。そんじゃあ一発かまそうぜ」とここで今度は高橋が上体を起こす。「おれも行く」それから足でタケヒコの尻をつついて「どうする?」

「なにができるとかわかんないけど、確かにいまのは水臭いじゃん」と声の潰れたタケヒコが言った。それからおれたち四人で武井を起こして「おまえはどうする?」と聞く。武井は「なんだようるせえな」と言ってまた眠った。「おまえが必要なんだよ」おれがそう言うと武井は上体を起こして「しょうがねえな」と言った。それから「え、どこ行くの?」と言って宮崎から説明を受ける。

「あぶねえ。もちろん行くよ」

 充血した目をカッと見開く。

 おまえらみんなばか。アホ。大好き。

「ったくよお」とおれはスマホに挿した充電器のコードを引っこ抜く。「何度も電話したら、藤木にも迷惑だろ」

 古谷先輩はどうしようか? という話になった。とりあえずそれは昼飯を食べてからにしようと、近くの定食屋まで歩いているうちにみんなで忘れた。




 午後五時半、おれたちはサイゼリヤに集合して人数分のドリンクバーを頼んだあと、みんなでオダジョーの悪口を言い合おうということ、バラバラに店を出て会場へと向かうことだけを決めた。先陣を切るおれとタケヒコに対して、藤木梨花は十名ほど入る個室を「フジキ」で予約したこと、前園カップルには六時半と伝えてあること、そして佐藤ふみ花と今野さんもくるかもしれないということを教えてくれたんだけど、え? 

 おれの中にみるみる不安が芽生える。タケヒコの顔も心なしかいつもより青白い。

「なんで?」

「必要だったから」

 ぴゅ~。おれは口元が緩んじゃうくらい頭が真っ白。

「つまり?」

「カップルの他にわたしたちだけじゃ向こうもなにかを察しちゃう恐れがあると思ったわけね。変に守りにはいられてなあなあに終わったら意味ないでしょ?」

「だからって佐藤ふみ花? 味噌汁にカレー粉入れるようなもんでしょ。飲まれない?」

「こっちの影が薄くなるくらいでちょうどいいんだって。思う存分なめてもらって、本音吐かせりゃいいじゃん」

「逆に佐藤ふみ花を警戒して萎縮しないかな?」

 納得しかけていたおれのすぐ横でタケヒコの冴えた一言。それそれ。確かにその通りだ。もうこの際まやかしでなんでもいいから納得して士気を高めたかったところだったのに……。しかし藤木は即座に「大丈夫でしょ」と吐き捨てる。「たぶん佐藤ふみ花も、晴子のことそんな好きじゃないんじゃない?」


 なるほど。

 こいつは盛り上がってきたぞ。



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