星井集 〜ホシイツドイ〜
4月17日
人としてこの世に生を受けてから30と余年。僕は多くの人と出会い、別れを繰り返して今日まで生きて来た。そんな中でも星井集さんと言う人物はこれから先の出会いを考えてもこれ以上ないと言い切ることが出来るほどの超ネガティブ思考の持ち主だった。
「おはようございます」
一文字ごとに声のボリュームが小さくなり最後に至っては言ったのかどうかさえも判別できないほど覇気のない挨拶をしてプロジェクトルームにやって来た集さんの放つ雰囲気は、昨日は見事な間での勝利を収めていたチームが再び敵チームに5点以上の差をつけられて負けてしまっているのでやけ酒をしている羽場雄星さんが明るく見えてしまうほどに暗かった。
「はぁ」
ルームを一通り見渡して、自分の居心地の良い場所を見つけることの出来なかった集さんは大きな溜息を吐いて先日、風城晴さんの手によってDIYが施されたミニ美術館のあるプロジェクトルームの南東側の端で体育座りをした。
「集さん、何かあった?」
「何もありませんでした……。二重の意味で」
集さんが僕に聴こえぬようにとても小さく呟いた言葉の後半部分を僕は一文字たりとも聞き逃さなかった。
「なるほどね」
集さんのいつも一緒に居てもわからないほど僅かに異なっている雰囲気を感じ取った僕は前にも同じようなことがあったことを思いだした。それは、1つ前の集さんのCD発売日……。
「学校帰りにCDショップに立ち寄ったら自分のCDが1枚も置かれていなかったんでしょ?」
「!?」
どうやら図星のようで、集さんは全く声を出さず目だけを見開いて驚いていた。
「前にも言ったけれど、集さんのCDが置かれていなかったのは」
「CDショップの店員さんが僕を嫌いで、僕が発売日にCDショップに立ち入るのを知っていたからぬか喜びさせようとして在庫を全部店の裏に隠した」
「からじゃなくて、集さんのファンや、ファンではなかったとしても集さんのことを知ってくれている人が発売日当日に買ってくれているからだからだよ」
これは集さんが呪いの手紙に違いないと思い込んで頑なに読もうとしないファンレターを見てもわかる紛れもない事実なのだが、集さんは歌詞も曲調も歌手も暗い雰囲気である自分の歌が以前に発売したものも合わせて入手困難になるほど絶大的に売れている事実を信じようとはしなかった。
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