鷲尾紗香 〜ワシオサヤカ〜

人気沸騰とはお世辞にも言えないが、最近僅かに人気が出始めた鷲尾紗香はアイドルとしてはとても変わった経歴の持ち主だった。


「紗香、ちょっと話さないか?」


「何?」


プロジェクトルームの隅に簡易的に作られた小部屋に流が声をかけると紗香はアイドルらしからぬダラけた姿で現れた。


「お前さ、最近事務所に入り浸っているみたいだけど、きちんと学校には行ってるのか?」


「あ〜今日はお兄ちゃんモードか。行ってないよ。勉強なんてわざわざ学校に行かなくたって優秀な先生はここにいっぱいいるし」


床を叩いて『ここ』の場所を示しつつ当たり前のようにそう言う紗香に従兄であり紗香の両親から保護者の役割を任されている流は頭を抱えた。


「そう言う事じゃないんだよ」


「大丈夫、自分の事くらい自分で出来るから」


「出来てないから言われてるんだろうが」


「とにかく、お兄ちゃんが何を言ってもうちは学校に行かないから」


紗香はそう言うと小部屋の中に閉じこもってしまった。


「紗香、今からプロデューサーとして話をする。返事はしなくていいから聞いてくれ。明日から1週間学校体験の仕事を入れた。これは仕事だからお前の気持ちがどうであろうとちゃんと行ってもらう」


紗香からの返事はなく、流もそれ以上は何も言わなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る