子宵の小唄

 ラフ、デッサン、下描き、ペン入れ。

 白い大地に筆を走らせる。

 今だけは、他の全ては、取るに足らない些末事。

 身体は筆を動かすだけの機械となる。

 脳の命令に従い、指を伝って走る筆。

 まっさらな白が彩を帯び始める。

 四角い無の世界に生者を、色彩を、脈動を。

 作るのは己に内包された世界だけ。

 散らばるソレらは、あくまでその副産物に過ぎず。

 一寸の狂いも迷いも許されない。

 創造は僅かな歪みで瓦解する。

 ゆえに、わたしは今日も機械と化す。

 

 あぁでも――

 そんなものは必要ないと言われた。

 嘲りの声がした。

 罵りの音を聞いた。

 捨てられた世界の群れ。

 わたし――なんでこんなことしてるんだっけ?

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