魔奧に触れたもの2

 三峰・D・愛音。

 世界に二人しかいない、龍駆りの一人。

 龍を駆る者――即ち龍駆りは、龍と心を通わせ、その背に乗って戦う者のことだ。

 その就職条件は非常に厳しく、ゆえに世界に二人しかいない。

 まず龍が希少種であり、出会う機会が滅多になく、万が一、億が一、出会えたところで、人間には見向きもしない。当然だ。地を這う蟻を気にかける人間が居ないように、龍にとって、大抵の人間も、その程度の存在なのだから。

 その例外が、龍を駆る者たち。

 貴重な邂逅を経て、希少な龍に認められた者のみ就ける役職――龍駆り。

 それが、今僕らの目の前に居た。

「どうやら驚いて声も出ないみたいね」

 愛音と名乗った少女はドヤ顔をしながら、龍に乗ってこちらに降下し、龍から降りた。

 そしてその拍子に足首を捻った。

「いっ……!」

 めちゃくちゃ痛そうだ。

 僕らの目の前で悶えること数秒。彼女は何事も無かったかのように立ち上がるが、涙目だった。

「つーかちっさ! 背ぇちっさ!」

 思わず声を張り上げる上げる僕。

 衝撃の連続で気付かなかったが、今改めて見てみると、身長が低い。パーティの中で、一番背の低い、柳子ちゃんよりも更に。

 柳子ちゃんの身長は、確か145cmのはず。見比べてみると、彼女より、拳一つぶん頭の位置が低い。完全に女児だ。ガチロリだ。ひゃっほう!

「小さくない! ドワーフの中では普通よ! あとアタシは17歳!」

「年上……」

 隣で柳子ちゃんが驚愕しながら呟く。たぶん僕も同じ表情をしていると思う。だってどう見ても、小等部の女の子にしか見えない。

 よく見ると、少女の前頭部には小さな角が二本あった。低身長・角・怪力はドワーフ族の特徴だ。見た目もその特徴に合致してるし、あの持ち主以上の長さを誇る、長大な槍もドワーフの怪力でなければ、持つこともままならないだろう。

 日本の龍駆りはドワーフだったのか……着ている服もどっかの学園のブレザー。学生なのかな。

「フヒッ……猛る龍の調印学園龍駆り科二年……三峰・D・愛音」

 赤絵がぽつりと言う。どうやらこいつは、この龍駆りについて、何かしら知っているふうだが……。

 そんな赤絵に、少女は目を煌めかせる。

「ふふーん。まぁ当然知ってるわよね、アタシ有名だし」

 嬉しそう。

 柳子ちゃんと顔を見合わせる。この娘のこと知ってる? いえ、知りません。というやりとりを、目でする。どうやら柳子ちゃんは三峰さんをご存知ないらしい。僕もだ。

「そんな有名で勇名なアタシがパーティに入ってあげるんだから、あんたたちは幸せものね」

 ……それはいいんだけど、もっとこう、常識人というか、普通の人じゃ駄目だったんですかね。駄目ですか。

「ん? アンタ……」

 と、三峰何某は、紅い瞳で僕をじっと見上げてくる。

「んんん? んん? んんんんんん?」

 なんか唸ってますが。

 彼女は僕の身体を前から後ろから見、

「アンタとアタシ、どっかで会ったことある?」

 などと宣った。

「さぁ? ないと思うけど」

 とも言い切れない。記憶を失う以前に会っていたかもしれないが、それを考えるのあとだ。

「うーん、そっか。なんとなーく覚えがありそうでなかったりしたんだけど、気のせいか」

 日本語で。

 あとさっきから、相棒の龍に頭ガジガジ噛まれてるけど、それは大丈夫なんですかね。

「なら行きましょうか。安心しなさい、アタシが居ればこんな任務、あっという間に終わるわ! ってアンタはいい加減鬱陶しい!」

 怒鳴りながら、相棒の龍を腕で振り払う三峰さん。その拍子にドワーフ特有の怪力が仇になったのか、腕の遠心力が強すぎて、身体ごと一回転させながら、その場でコケていた。どうしよう。この娘すげえバカっぽいぞ。

「よし。じゃあアンタたち、自己紹介しなさい。聞いてあげるわ」

 そんな両手を腰に当てながら、ふんぞり返られても。

 何がよしなのか分からないが、行動を共にするわけだし、まぁ自己紹介は必要だろう。

「じゃあおかっぱ、まずはアンタから」

 三峰嬢は僕を指差す。いや、確かにおかっぱだけど。

「僕は白波いつのだよ。いっちゃんって呼んでね。好きなタイプは優しくて綺麗でエロいお姉さんです」

「いつのね。……いつの? うーんやっぱりどっかで聞いたような……」

 と眉根に皺を寄せたのも一瞬で、彼女ははい次アンタ、と柳子ちゃんを指差した。後半の台詞を当然のように無視するのやめて。悲しいから。

「田中柳子です。黒魔術師です。よろしくお願いします」

 柳子ちゃんは淡々と名乗り、軽く会釈する。

「覚えておいてあげるわ。光栄に思いなさい」

 偉そう。

「じゃあ最後は、常時真夜中みたいなアンタ」

 これは赤絵のことだ。言い得て妙である。

「黒野赤絵です……フヒッ……灰魔術師です……好きなタイプはいつのさんです……好きな人もいつのさんです……恋人もいつのさんです……フヒヒ」

「そ、そう……」

 三峰さん、赤絵の暗い笑顔に引き気味である。初対面の時の僕と、全く同じ反応だ。

 一通りの自己紹介を見終え、満足したのか、三峰女史は僕ら三人に向き直った。

「こほん。アタシも改めて名乗ってあげるわ。アタシは龍駆りの三峰・D・愛音。ドワーフよ。覚える必要はないわ。どうせ忘れられなくなるから」

 ドヤ顔決めてるとこ悪いんだけど、また頭噛まれてますよ。

 龍って人間より賢いはずなのに、これを見てると、飼い主にじゃれついている、犬かなんかに見える。先程の登場シーンの威容はどこへやら。

 ともあれ。

 こうして、新たにドワーフ族の龍駆りにして、愛すべき馬鹿、三峰・D・愛音を仲間に加え、僕らは田中さんとの一戦に臨むのだった。


 この愛音の加入によって、文字通り、今後一生の付き合いとなるパーティが完成した。思えば、僕たち四人の物語はここから始まったのかもしれない。笑いあり、涙だあり、波乱万丈に富んだ、人生活劇の始まり始まり。行きつく先は、幸か不幸か、天国か地獄か――なんてね。

 むろん、この時の僕は、そんなこと知る由もないのだけど。

 

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