能力2

「私が思うに、いつのに足りないのは、手数ね」

 気を取り直して稽古の続きである。

 僕は再び、先輩と相対していた。

「はぁ。手数ですか」

「いつのはガンガン攻めていくタイプじゃないでしょ? 無駄振りをせず、相手の攻撃を誘って、そこに隙を見出して、着実に一撃を当てていく、後出しタイプ」

「まぁそうですね」

「だから手数で攻められるの、苦手なんじゃない?」

「あー……」

 言われてみれば。

 手数で押されて反撃できる間がない、というのはままある。そういう時は粘って隙を窺うのが僕のやりかたではあるが……好手とは言えないかも。

 攻撃を受ければ受けるほど、こちらの体力を削られていくわけでして。

 かといって他に良い手もないしなぁ……あるのか?

 首を傾げると、先輩は頷いて応える。

「手数が足りないなら、もうひとつ武器を持って、手数を増やせばいいのよ」

「そんな安直な」

「他に何か手ある? 盾でも持つ?」

「攻撃・回避特化の役職に盾もないでしょう……」

「じゃあこれね」

 言いながら先輩は、手に持っていた修練用の槍をこちらに放ってきたので、僕はそれをキャッチ。

「どゆこと?」

「今、いつのの手元には、槍が二本あります」

「ありますねえ」

「さぁ、二本装備してみましょう」

「はい?」

「今日から君も二槍使いだ! レッツ二槍流にそうりゅう!」

 何言ってんだこいつ。

 というか、

「二槍ってマジで言ってんですか? これって死に技巧でしょ?」

 というのも――

 侍のみが使える、技巧、二槍流。

 文字通り、二槍の槍を装備することで、火力面を底上げする、受動技巧パッシブスキル。平たく言えば二刀流の槍バージョンである。

 二刀流に比べ、取り回しが難しい分、リーチ、火力はあらゆる近接武器の一歩先を行っている。使いこなせれば、大幅に戦闘力が向上するだろう。使いこなせれば、だが。

 この技巧は修得するまで多大な時間を要する。それだけ扱いが難しい。その時間を他の技巧の修得に回したほうが、余程能率的なため、ほとんどの侍は二槍流という技巧を無視する。何より戦闘スタイルが大幅に変わるので、手を出しづらいというのもる。ニッチな技巧であることは間違いない。

 だというのに先輩は、そのアホみたいに面倒な技巧を習得しろと言うのだ。

「モノは試しよ。ほら、とりあえず構えてみなさい」

「いやぁ無理でしょこれ……構えってだいたいどんな風にすりゃ……」

 嘆息しながら両手に一本ずつ槍を握る。

 と、

「え?」

 それは瞬間のことだった。

 目の前がフラッシュバックしたと思ったら、真っ白な画面の中央に、何かが見えた。

 後ろ姿だ。誰かの後ろ姿。男なのか女なのかは分からない。

 印象的なのは、背負っている、二本の槍だ。

 青い装飾が施された、芸術品のような銀色の二本。

 初めて見たはずなのに、ソレに妙な懐かしさを感じるのは、何故だろう――

 その人物は、ちらりとこちらを見やる。どこかで見たような横顔。その目が、その程度か、と言外に告げてくる。こちらに失望しているような、見下しているような双眸。これはいったい――

「いつの」

「え?」

 先輩の声によって現実に引き戻された。

「大丈夫? なんか明後日のほうみてぼーっとしてたわよ」

「あぁ……大丈夫です。うん」

「そう? ならいいけど……というかいつの」

「はい?」

「いつのって二槍流技巧、修得してたの?」

「いや、してないはずですけど」

「ならその構えは何? 随分様になってるけど」

「構え? ……って」

 指摘され、気付く。

 無意識のうちに、右手と左手にそれぞれ一本ずつ、修練用の槍を持っていた。いや、構えていた。

 片方の槍を脇に抱え、もう片方の槍を正眼に構える。

 どういうことなのか自分でも分からない。

 僕に二槍流を修得した覚えなんてない。だとすると。

「記憶を失う以前に、修得したもの、か……」

 考えられるのはそれだろう。

 いったい何をやってたんだ、記憶喪失前の僕。

「いよいよいつのが何者か、分からなくなってきたわね」

「ですよね」

 特に気になるのは先程のアレだ。どこか懐かしさを感じる、二本の槍とあの後ろ姿。

 一瞬の映像のはずなのに、あの光景がやけに頭に残る。あれは喪われた記憶の一部、なのだろうか。

「まぁ考えてもしょうがないわね。どんな過去があったっていつのはいつのだし」

 言いながら先輩も、二槍流の構え。

 この人はサラッと嬉しいこと言ってくれるな……いや、というか二槍流も使えたのかこの人。この人の引き出しも結構謎である。

「そうですね。それより、やってみましょうか」

 二槍流の戦いかたは分からないが――この身体に馴染んでることは分かる。

 これなら一槍くらいは先輩に届くかもしれない。

「行きます――!」

 と、意気込んだのはよいものの。

 もちろん僕の槍は先輩に通用するはずなく、逆にボコボコにされたんだけどね。

 馴染むとはいえ、戦いかたを知らないので当然である。泣きたい。

 

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