灰の任務3

 掘り起こした棺を再び地中に埋め直し、僕と赤絵はその場をあとにする。

 あとは雲隠れに行って、任務受付嬢……あだ名:クエ子ちゃん……にこの結果を報告すれば、今回の任務は終了となる。

 いろいろ疑問が残る結果となったが、その辺のことはもはや考えまい。死体の有無を確認するだけで金がもらえるのだ、それだけでも御の字だろう。しかも依頼人はお偉いさん。報酬額は大いに期待できる。ぐへへ。

 金は何に使おうか。うむ。そうだ。久々に娼館にでも行こうか。僕も今や女ではあるが、プロから女同士でそういうことを経験しておくのも一興であろう。何より興味がある。ぐへへ。

「……サッきゅんならもうありませんよ……フヒッ」

「へ?」

 今なんと?

「……いつのさんが贔屓にしている娼館『サッきゅん』なら先週移転して今頃は東京の皆さんとよろしくやってますよ……フヒヒ」

「なん……!?」

 自分が女になった時以上の衝撃! 嘘だろ……!? 任務終わりの僕の些細な楽しみが……月1の自分へのご褒美が……!

 というかこいつ普通に僕の思考を読んでいる! というか僕が娼館に通っていたことを知っている! ご丁寧に店名まで! なんとなく後ろめたいことだったから、男友達以外には隠してたのに!

「そんなにエロいことしたいなら……赤絵に言ってくれればなんでもさせてあげますよ……フヒヒ」

 昏い笑顔でそう言って、赤絵は腕を組んで、胸を寄せ上げ、下からこちらを見上げてくる。

 おっぱいでかい。エロい。中々扇情的なポーズだが、しかし笑顔が怖い。そもそも女同士だし。

「いや……お前はなんか怖い」

「フヒ……大丈夫です……さきっちょだけ……さきっちょだけですから」

「やっぱり怖い!」

 などと、どうでもいいことを話しているうちに、雲隠れに辿り着く。だいたいの請負人は任務の真っ最中なので、人はほとんど居ない。

 赤絵と任務受付のカウンターに行き、受付嬢のクエ子ちゃんと対面。

「お二人ともお帰りなさい! お疲れさまでした! どうでした? 現場は」

 響く快活な声。

 任務から戻った僕ら二人を、クエ子ちゃんは元気よく迎え入れた。

 ボブカットと白いエプロンが特徴的なクエ子ちゃん(本名不明・年齢不詳)は雲隠れの任務受付嬢で、容姿端麗、明朗快活と、とにかく気持ちのいい人物である。

 任務の始まりにこちらを気持ちよく送り出し、終わりに暖かく出迎えてくれる、カセンの請負人の母、と言ってもいい。まぁ母というより、マスコットっぽいんだけど。

 そんな彼女に、今回の任務の顛末を報告書に記し、カウンター越しに渡す。極秘任務なので、口頭の報告は許されないのだ。

 報告書に目を通したのち、クエ子ちゃん少し悲しげに笑った。

「そうですか……無かったんですね。嬉しいような、悲しいような……」

 無かった、とは田中さんの亡骸のことだろう。

 田中さんは雲隠れの常連中の常連だった請負人だ。もちろんクエ子ちゃんも田中さんとは面識がある。仕事柄、田中さんの事情についても把握しているはず。

 常連だった田中さんがあんなことになってしまって、心を痛めているのだろう。

 しかしクエ子ちゃんは首を振る。気を取り直したようだった。クエ子ちゃん、辛いだろうに…‥。

「分かりました。依頼人さんには私から言っておきますね。報酬はこちらです。お疲れ様でした!」

 満面の笑みとともに報酬がカウンター上に差し出される。

 その額を見て、僕は唖然とした。

「マジかよ……札束じゃん……」

 お偉いさんからの依頼なので、期待はしてたが、まさかここまでとは……。

「赤絵ちゃん、今回の報酬っていくらなの?」

「金紙80枚ですよ……フヒッ」 

「……」

 僕は閉口する。驚きすぎて声も出ない、とかそういうのではない。

 ただ死体の有無を確認しただけで、80枚。これが10枚そこらなら、お偉いさんだけあって羽振りが良い、ということで納得もしただろう。

 しかしこの額はやりすぎというか……家一軒が建てられる数字じゃないか。

 ……明らかに裏がある。

「……気付きましたか……これは口止め料みたいなものでしょう……」

 僕の心情を察した、赤絵がそう予想した。さらにクエ子ちゃんもカウンターから身を乗り出して、小声で付け加える。

「私もいつのさんたちと同じく、結構な額、渡されましたよ。そちらは協会に寄付しましたが」

「クエ子ちゃんも?」

「はい。依頼人さん、どうにも焦ってるようでして。それでですね、矢継ぎ早になるんですが、既に次の依頼が来てるんですよ」

 クエ子ちゃんはいったんカウンターの奥に引っ込み、依頼書を手に持って戻ってくる。

「これなんですけど……」

 手渡された依頼書を見た時、僕は目を疑うしかなかった。

 書かれている内容はいたってシンプル。だからこそ衝撃があった。

 そして、この任務が僕の記憶の手がかりへと繋がっていくことになる。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます