作家死亡の女:#4 TRICK/トリック

 ディスプレイに映し出された原稿を見ながら、カスミは呟いた。


 ――あとは、その作家志望の女性が、密室の自室で殺されるって寸法ね。


 犯人は、遺体の一部を処分しようとしていたところを目撃された女性の顔に見覚えがあった。

 しかし、それが何処で見た女性なのかは犯人には思い出せなかった。

 必死になって探していたとき偶然にもその女性と出会った。

 それも殺害した恋人のマンションのエレベータで……。

 犯人は、そのとき立ち去ったようにみせて、実のところ柱の陰に隠れて待ち伏せをし、その女性の後をつけた。

 そしてその女性が、隣の部屋の住人であることを知った。

 その夜、犯人は隣の女性が寝静まったころを見計らって、恋人の部屋のベランダからパーテーションを越えて、隣のベランダへと……。

 そして、この部屋と同じように施錠されていない隣の部屋に忍び込む。

 それから、熟睡して眠る目撃者の首を絞めて、殺害――。


 ――ここからが、いよいよ密室のトリックだわ。


 まず、用意してきていた長さ一メートルぐらいのテグスの先に輪を作る。

 そして、輪の無い方のテグスの端を、その輪の中に通す。

 すると、引くと大きさが変化する輪が出来る。

 その輪を、ガラス戸に取り付けられたクレセント錠の取っ手部分に通し、締め付けるように取り付ける。

 そのテグスを今度は、軸の部分に、閉める方向にグルッと一回巻きつける。

 そして、テグスの端を戸と戸の隙間から外に出す。

 そうしておいて、ベランダに出てガラス窓を締め、少し上向きにしてテグスを一気に引く。

 そうするとクレセント錠が回り、鍵がかかる。

 後は隙間からテグスを押し込むようにする。

 そうするとテグスが解けて、そのまま抜き取れる。

 こうして密室を完成させて、もう一度ベランダからパーテーションを越えて、隣へと戻る――。


 カスミは、そこまでのストーリーを打ち込んで、目頭を指で揉んだ。


 ――後一息で完成だわ。


 密室トリックは在り来りのものだけど、取り敢えずのところ、これで良しとしておくか……。


 時計を見ると、もう午前三時半。

 もうこんな時間かと、カスミは、パソコンの電源を落とす。

 窓から涼しい風が時折入ってくる。

 今日は、何とか寝苦さからは開放されそうだと、カスミはベッドへと辷り込む。

 続きは、また明日にしようと決め、カスミは深い眠りについた。



    ◇


 彼女は、何やら重苦しい空気に夢から覚めた。

 何だか部屋の様子が変だ。

 小さく異様な音も聞こえる。


 ――何?


 はあ……、はあ……。


 えっ?……誰の息使い?


 彼女はベッドの中で、恐る恐ると眼を開けた。


 目の前に、誰かがいる……。

 彼女の顔を真上から見下ろす、誰かが……。


 はあ……、はあ……。


 彼女は、恐怖で声が出ない。

 その相手は、じっと彼女の顔を覗き込んだまま動かない。

 そして、その相手の手には……見覚えのあるネクタイが……。


 ――あっ、貴方は!


 その瞬間、彼女の首に玉虫色のネクタイが巻き付けられた――。


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