第2話 蛇井雨音は心が見える
教室を後にして私は屋上に来ていた。
教室に居場所がない私にとって、通常生徒が近づかないここは唯一の落ち着ける場所だった。
「はぁ……まったく、嫌なものを見ちゃったもんだわ」
先ほどの映像を思い出し一人呟く。
今までも誰かが怪我をしたりする未来を見たことはあったが、あそこまで鮮明に死を感じさせるものは初めてだった。
そもそも現代社会で銃を持った男にクラスメイトが殺されるというシチュエーションがありえるのだろうか?
映画かゲームか何かなのでは?とも思ったが、あれは確実に
こういうことがあるから――
「『こんな力無かった方が良かった』、って顔してるよ。マシェ」
屋上の柵から校庭を見下ろしていた私の後ろから肩を叩かれる。
片目が隠れるほどの長い金髪、すらりとした長身の女生徒だ。どう見てもヤンキーである。
「あ、ヒドい。『どう見てもヤンキーみたいな奴に絡まれた』って顔してる」
「そりゃそうよ。だってあんた、どう見てもヤンキーじゃん。
彼女は
見た目がこれなので他の生徒から恐れられたり他校の生徒に絡まれたりすることも少なくないらしい。
おかげで教師陣からも目をつけられており、その結果この屋上に流れ着いたのであった。
「まあ、別に、否定はしないけどさあ。でもあたし自分から手を出したことないし……
そんなことどうでもいいじゃん。……マシェ、また何か見たんでしょ?」
「ん。今回はちょっと……大変」
見た目はこんなだが、彼女は私が気を張らずに話せる唯一の友人である。
私が屋上に来た時は、いつもこうやって相談に乗ってもらっている。
「さすがの私も目の前でクラスメイトに死なれるのはゴメンだわ」
「そっかあ~、うんうん、そりゃそうだよね。」
軽い調子で頷く
まあ、そのおかげで私も助かっている部分もあるので細かいことは言わない。
「へへへ。照れるなあ」
細かいことは言わなくても彼女には伝わってしまうのだ。何故なら、
彼女、
「だからさ、あたしのはそういうんじゃなくて、こう、なんとなく、考えてることが表情で分かる程度なんだってば。空気が読めるというかさ」
とは本人の弁だが、明らかに表情に出ない部分まで鮮明に読んだりすることもある。
しかし本人がそう言うんだからそういうことにしておこう。
他人の見る景色は私には視ることが出来ないのだ。
「話を戻すけど、私の未来視で見えた映像は数分~数時間の間に起こる。……絶対に。でも、場所は学校じゃなかった……はず。たぶん。」
「へえ、じゃあ放課後ってことになるね」
例の映像の彼は制服を着ていなかった。
そして拳銃を持った男は学内では見ない顔だった。
「……放課後、彼を尾行するわ」
「わお。ストーカーみたい!楽しみ」
何がどう楽しみなのかはわからない。きっと適当に喋ってるんだろう。
あとは……
「私の未来視。どこまで確実なのか」
今までに見た未来の映像は必ず起こった。
だが、今回ばかりは外れて欲しいと心から思う。
たかだかクラスメイトのためにここまでする必要があるのだろうか?という気持ちもある。
しかし、私はそれを見てしまった。
見てしまったからには、それに意味があると思いたい。
「未来なんて、見えないほうが楽しいのに」
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