第3話
(ルーチェか……
ホストとは生まれて初めて会うたが、けっこう良い奴じゃったな。)
「困ったことがあったら、連絡してな。」
別れ際に男がくれた名刺を見ると、わしの顔は自然と綻んだ。
見ず知らずの土地で親切にされると、いつも以上にほっとする。
それが、見た目にはちゃらちゃらして見えるイケメンともなると、見た目とのギャップから、なおさら良い人に感じられるもんじゃ。
あぁ、それにしてもイケメンはええのう…
名前はちょっと似てるのに、うちの慎太郎とはえらい違いじゃ。
あいつもせめてもう少しおしゃれでもすれば……
(おっ!これじゃ!)
つまらない考え事をしているうちに、わしはずっと探していた安倍川の家を発見した。
ローポンとそば屋との横の細い路地をずっと進んだ奥まった場所に、「旅館・安倍川」と書かれた木切れの看板を発見した。
なんと、安倍川の家は旅館になっておったのじゃ。
観光案内の人もそんなことは言うてはおらんかったが……
しかも、外観もごく普通の民家のようじゃ。
ここは本当に旅館なのか?
いろいろと疑問はあったが、ここまで来てそんなことを考えても仕方がない。
とにかく、行くしかないのじゃ!
わしは、ガラガラと引き戸を開けた。
「あのぅ……」
「……いらっしゃい。」
しばらくして出て来たのは、わしよりも年上に見えるよぼよぼしたばあさんじゃった。
玄関口から薄暗く、相当に古い感じの建物じゃ。
「お一人でっか?」
「あの、わしは……」
そうじゃ。わしはまだ宿も取っておらんのじゃし、ここに泊まってゆっくり話を聞けばええ。
「あ、はい。一人です。」
「素泊まりで、おひとり一泊9800円。
お食事は表のおそば屋さんかローポンでお弁当買わはったらよろしおます。」
「え…あ、はい。」
素泊まりで9800円とは高いと思うたが、こういう観光地ではそのくらいが相場なのかもしれん。
「ほな、二階の特別室へどうぞ。」
老婆の後に着いてぎしぎし言う階段を上り、通された特別室は小さなテーブルと小さなテレビ以外にはなにもない6畳程の和室じゃった。
「特別室やさかいに、テレビはただで見放題でおます。
今、宿帳とお茶持って来ます。
あ、お茶もただどすさかいに。」
「あ…あの……」
わしが話をする前に、老婆は部屋を出て行ってしもうた。
まぁ、すぐに戻って来るようじゃったから、その時に聞く事にしよう。
わしは、いかにも年季の入ったぺっちゃんこの座布団に腰を降ろした。
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