Answer06

■結果説明■


 語彙ごい――ボキャブラリーの乏しい人は、大まかな特徴がふたつあります。


 《問01》から《問07》に対応する内容にあたる、『便利な言葉を使う』という特徴。

 たとえば『普通』『ヤバイ』『カワイイ』『あれ』

 『ヤバイ』なんて複数の意味で使っていませんか?

・食事時にヤバイ⇒うまい 

・なにかを見てヤバイ⇒凄い

・危険を察知してヤバイ⇒まずい

 なんて感じで。


 もうひとつの特徴が、《問08》から《問10》に当たる、『インプットが少ない』です。

 本を読まないと知識が貧しいなんてことは、よく言われています。

 そして言葉も知識の一部です。


 では個々の内容を詳しく説明していきます。

 

 【《問01》擬音語が多い】

 擬音語を小説内で使うと幼稚とよく言われますが、ここで挙げた理由は少し異なっています。

 大人になれば語彙が豊富になり、表現方法が増える。だから、擬音語=子供が使う言葉=幼稚という形で言われるのだと思います。

 しかし実際の子供は逆に、ボキャブラリーを増やそうとした結果、擬音語・擬態語といった擬声語オノマトペを使うのです。赤ちゃん時代ボキャブラリーゼロからの進化ですよ?

 それをいい歳して意図せず使うとなると、停滞あるいは退化です。ただ幼稚なだけより悪いと言えるのです。


 小説で使う擬音語は、一種の記号化・省略化です。


 ○ ○ ○ ○ ○


・ヒュン! ⇒なにかが高速で放たれた

・パンパン! ⇒叩かれた、あるいは発砲音

・ガキィン! ⇒金属質のものが衝突した


 ○ ○ ○ ○ ○


 つまり、小説に必要不可欠な、矢印右側に書いた状況説明を、手抜きしてしまっているわけです。(もちろん『ガキンという音と共に受け止めた』なんて、擬音語と同時に説明がある場合は別です)

 それを改善しようとしない限り、擬音語で省略できない、他の必要な説明も省くようになるのは、目に見えています。


 【《問02》オウム返しのセリフが多い】も同じような理由ですが、一概には言えません。

 相手が言った言葉を繰り返すオウム返しは、子供が使う、あるいは逆に、子供に大人が使う話法なのです。

 子供が使う場合は、単純にボキャブラリーがないからです。

 大人が使う場合、話が理解できてなくても、話が合わせられる。話す側もリアクションが返ってくるから、ちゃんと聞いてくれていると、次の話題を振る。

 ビジネス書にもよく書かれていますが、キャバクラのお姉さん方がよく使うテクニックでもあります。

 上手くオウム返しする人なら会話が弾みますが、下手な人がすると不快感倍増です。だからよく子供が『お前マネすんなよ』ってケンカするのですよ。


 小説の場合も同様に、オウム返しが多いからボキャブラリーが少ないと、すぐさま決め付けられるわけではありません。


 ○ ○ ○ ○ ○


(例1)

「あそこにあるお店のパパニャフニューニュ、本当にステキなの!」

「パパニャフニューニュ?」


(例2)

「あそこにあるお店のパパニャフニューニュ、本当にステキなの!」

「パパニャフニューニュ……って、なに? 初めて聞くけど、食べ物?」


 ○ ○ ○ ○ ○


 簡単に言えば、(例1)が子供のオウム返しで、(例2)が大人のオウム返しです。

 そしてボキャブラリーの少ない作者さんは、例外なく(例1)の書き方をします。

 文字数の問題だけでなく、話術として下手なのです。だって会話のキャッチボールしてませんから。

 続きのセリフを考えてください。(例2)は『食べ物?』と質問しているので、次は正解か間違いかの発表が確実に来ます。

 対し(例1)は? 『パパニャフニューニュ』とやらの正体が伝わっていないと、補足するセリフを放つと思いますか? 言葉のボールは大暴投で、理解していないのが伝わっておらず、『うん! そうなの!』で会話終了かもしれませんよ?


 ただでさえ小説には、重複は悪文とする原則があります。同じ言葉は使うべきではないのです。

 その上で悪い例のようなオウム返しが頻繁に出てきたら……

 偏見ですけど、こういう書き方・考え方をしている方、日常生活でも同じことしていません?



 続いて【《問03》三点リーダー(…)を使用することが多い】

 声が細い・出さないキャラクターは除外しますが、それ以外で多用――YESだと、やはり語彙が乏しいです。


 三点リーダーという『記号』の意味は?

 こう訊いて答えられるでしょうか?

 答えられない方は、小説でどういう場面で使うかを考えてみてください。


 ○ ○ ○ ○ ○


(例1)

「おい」

「……………」

 返事がない。

「おいっ!」

「…………へ? もしかして、オレ呼んでるの?」

 強めに呼びかけると、今度は反応した。


(例2)

 その後、彼らの姿を見た者は、誰もいなかった……


(例3)

 起きて目覚まし時計を見たら、止まってた!

 身だしなみもそこそこに急いで着替えて、パンだけかじって、鞄持って家を飛び出して……なんとか遅刻ギリギリで学校に着いた。


 ○ ○ ○ ○ ○


 主に小説で使う時は、(例1)『無音』『時間経過』、(例2)『余韻』の表現が多いでしょう。

 注目したいのは、(例3)『省略』です。通学路を全力疾走したのでしょうが、語るべき出来事が起こらなかったので、三点リーダーで省略しているのです。


 これは偏見を含んだ経験則ですが、ボキャブラリーが乏しい作品は、三点リーダーを意図せず『省略』の意味で多用する傾向があります。

 たとえば誰かが長々と語っているのを、もうひとりが黙って聞いているシチュエーション。

 こういう時、長いセリフの合間に、無言を示す三点リーダーを挟む作者さんがたまにおられます。

 ぶっちゃけ、そんな小細工いらんのですよ。

 文字数の多いセリフで『長い語り』を表現したいのでしょう? だったら逆にぶった切ってどうするんですか?

 そう言ったら『読みにくいから』なんて反論があるでしょうけど、だったらもっと読みやすくしてもらいたいです。たとえば語っているキャラクターの様子を描写したり、話している内容を主人公なりに噛み砕いて読者に説明したりと。

 そういう手間を三点リーダーで『省略』しているのです。


 あと、これこそ偏見ですけど。

 ボキャブラリーの乏しさを誤魔化すため、語り口を重くしたいのか、やたらセリフ冒頭に三点リーダーをつけたがる気がする。

 それとも自信がないからなのか、セリフ語尾に三点リーダーをつけたがる気がする。


 【《問04》文頭がサ行の文字が多い】は、接続詞の使い方です。

 小学校レベルの国語ですから、『接続詞ってなに?』なんておっしゃる方、いませんよね?

 接続詞はいくつか種類がありますが、一般的によく使われるのは、順接・逆接・付加の3種です。


 ○ ○ ○ ○ ○


《順接》

 こうして・このため・しからば・したがって・すると・そうして・そうすると・そうだとすれば・そこで・そのため・それでは・それなら・それゆえ・だから・だったら・ですから・ならば・ゆえに・よって etc


《逆接》

 いっぽう・けど・けれども しかし・しかれど・そうはいっても・そのかわり・そのくせ・それが・それでいて・それでも・それどころか・それなのに・それにしても・だが・だけど・だけれど・だといえど・ですが・ですけれど・でも・ところが・とはいえ・なのに・にもかかわらず etc


《付加》

 おまけに・および・かつ・くわえて・さらに・しかも・そして・そのうえ・それから・それに・そればかりか・なお・ならびに・また etc


 ○ ○ ○ ○ ○


 やたらサ行、しかも『そ』から始まる言葉が多いと思いませんか?

 これは語彙数と同時に構文能力の問題になりますが、モノ書き初心者であるほど、場面と場面、文章と文章をつなぐのに、これらの接続詞を工夫なく使います。

 加えて多用に気づかない。

 個人的には、特に『そして』が使われている傾向を感じます。



 【《問05》目次は数字だけしか書いていない】の、一話単位のサブタイトルですが、語彙数との関わりは副次的と言ったほうが正確かもしれません。

 まず、ボキャブラリーが乏しい人は、なぜボキャブラリーが乏しいのか?

 ありていに言えば、手抜きが習慣化しているのです。

 わざわざ難しい言葉を使い分ける必要はない。

 擬音語ひとつで状況が伝わるのだから、それだけ書いておけば充分。

 オウム返しが会話のテクニックならそれでいい。

 小説は好きなように書けばいいじゃん?

 そんな感じで。


 手抜きしたければ、無理にサブタイトル考える必要ありませんから。

 もちろん目次に数字しか並んでなくても、中身はすごい作品もありますが、少数でしょう。作家さんがご自身の小説を大事にしていない可能性が高いからです。

 読み返すことができないのです。話数が増えていけば、何番がどこの話かなんて、自分で作ったものであっても覚えていません。



 以降は、その手抜きが、作中ではなく実生活に表れているかの判断です。


 【《問06》辞書や検索サイトはあまり使わなかった】

 調査は執筆の基本ですが、手抜きしようと思えば調べずに、自分の中にある言葉だけで書こうとします。

 言葉が重複するのは当然、それどころか設定の正確性も怪しくなります。


 【《問07》日常生活で、家族・友人など、限られた人以外とも話す機会がある】

 ボキャブラリーについてもですが、キャラクターの言動にも絡んできます。

 人間関係が狭い上に、別の対策をしていないなら、ご都合主義の不自然な言動をするキャラクターばかりになります。

 少なくとも10代では、年齢=彼氏・彼女いない暦では、異性の恋愛感情なんて理解できないでしょう。


 【《問08》日常的に小説を読んでいる】【《問09》新聞・雑誌(マンガ雑誌を除く)を定期的に読んでいる】【《問10》日常的に読む作品は、ジャンルがかたよっている】は、直接的な小説技法に結びつきます。

 問題となるのは、新しい刺激があるか。

 自分が面白いと思ったから、同じジャンルの作品を読み漁るのは、愚作です。

 新しい刺激は生まれにくいですし、引き出しが一向に増えません。

 根本的に、それはパクリと違うのですか? という問題もあります。



■改善■



 いえ、無理に改善する必要はないのでは?

 たとえば一般平均レベルの語彙数を持っているのに、辞典の編纂をしている国語学者に『ボキャブラリーが乏しい』なんて言われても、困るでしょう? ご自分の言葉が貧弱か、不安になると思います? それより『お前を基準にするな』と反発するでしょう?


 問題なのは、あなたが今、ご自分の語彙が充分か、乏しいと思っているかです。

 充分だと思っているなら、他人がとやかく言っても仕方ないでしょう。

 乏しいと思っている方なら、既に努力しているでしょう。別の意味で他人がとやかく言っても仕方ないです。


 参考になる外部サイトを紹介します。


 令和版語彙数推定テスト

(https://www.kecl.ntt.co.jp/icl/lirg/resources/goitokusei/vocabulary_test/php/login.php)


 NTTコミュニケーション科学基礎研究所が、 単語親密度(NTTデータベースシリーズ「日本語の語彙特性」第1巻・単語親密度 [天野,近藤 (1999) 三省堂])を利用して開発したテストです(特許第3331286号)。(※サイト内説明より)


 大雑把ではありますが、ご自分の語彙数がどのレベルなのか、知ることができます。

 もし実年齢より低いと算出された場合、モノ書きとしては危険です。

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