Track 2 月のプリンセス When You Wish Upon A Star

intro ソーネチカ

 intro


 ハロー、ソユーズ。

 宇宙は、今日も静かで平和だよ。

 神様も今のところは見当たらない。

 

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 i copy.



 ソーネチカは特別な女の子だった。

 

 僕にとって特別というわけではなく――

 

 世界中の人たちにとって特別な女の子だった。


 もちろん、僕にとっても特別な女の子だったんだけれど。

 

 ソーネチカは月で生まれた初めての『人類』だった。

 その後、『ルナリアン』と呼ばれるたった一人の『月面人』だった。

 

 彼女はそのことを誇りに思っていると同時に、その事実にものすごく恐怖していた。

 その小さくつつましやかな胸に、常に不安を抱えていた。

 

 ソーネチカは特別であると同時に――ものすごく複雑な女の子だったんだ。

 

 生まれながらにして。

 望む望まざるにかかわらず。

 

 そんなことってあんまりじゃないって、多くの人は思うかもしれない。

 僕だってソーネチカを見るたびにそう思い、自分の無力さにさいなまれてしまうことがよくあった。

 

 彼女は望んで月で生まれてきたわけじゃなかった。

 

 全ての子供がそうであるように、彼女だってたまたま月で生まれてしまっただけだったんだ。

 

 しかし、月面に建設された居住用モジュールの、小さな医療室の分娩台で生まれたその瞬間――

 

 ソーネチカの運命は決定づけられてしまった。

 

 特別であり――複雑であるということを。

 

 ソーネチカはいつも立ち向かっていた。

 

 せいいっぱいの背伸びをし、せいいっぱいの強がりを吐いて――そしてせいいっぱいの涙を流して、彼女は自分の運命に立ち向かっていた。

 

 そうやって自分の複雑な運命と対峙している時、ソーネチカは絶対に何かを願ったりはしなかった。

 周りの子供たちが、みな星に願っているのを横目にしながら、彼女だけは頑なに手を組み合わせることを拒み続けた。

 

 月面から宇宙を見上げれば、願いをかけるのに適当な星が幾億幾千と浮かんでいるのに――


 ソーネチカはいつも自分の力で自分の人生を切り開こうしたんだ。

 

 ソーネチカ――


 僕は今、君が望んだ青い地球の大地に立っている。

 

 重力をめいいっぱい感じながら、君が恋い焦がれた複雑な星の上で夜空に浮かんだ月を見上げているんだ。

 

 僕は夜空に向かって真っすぐに伸びる一本の搭を指先でなぞりながら、その先にある満月に向って手を伸ばした。

 

 もうそこにいない君に向って――


 ソーネチカに向けて、僕は手を伸ばしているんだ。

 君を迎えに行くように。

 

 こんなふうに夜空を見上げていると、満ちた月を眺めていると――僕はソーネチカのことを思い出してしまう。

 

 僕たちの特別な出会いと――そして、少しだけ物悲しい別れを思い出してしまうんだ。

 

 手を伸ばした先に浮かんでいる月が満ちるまで――


 そこにもういないに君に寄り添うように、僕はソーネチカとの思い出を振り返ることにした。


 月に思いを馳せながら。

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