恋には邪魔だよ馬鹿力

(1)



(なんだこのいい雰囲気)


 押し倒した蘭丸と一寸足りとも目が離れない。

 見つめ合う私たちはそれはそれはいい雰囲気だった。


「……めぐみ」

「蘭丸……」

「……めぐみ」

「蘭丸……」


 どこのフランス産恋愛映画だとツッコミたいぐらいの甘い雰囲気ただよう二人。

 しかし、その雰囲気を最初に壊したのは蘭丸だった。


「……たい」

「ん?」

「いたい……いたいぞ、めぐみ!」

「へ……へ?」


 私はその言葉に咄嗟に身体を浮かす。

 蘭丸はふうーと一つ息を吐き出すとケホケホと胸を抑えて咳をした。


「ったく。めぐみ。押し倒すにも力加減がいるのだぞ」

「そ、そんなに強くした覚えはないんだけど……」

「そう言えば九太郎に聞いたな。昔、男子に腕相撲で勝ったとか」

「小学生の時の話だけど……」


 どうやら知らず知らずのうちに力んでいた私は蘭丸を押し倒しつつ力強く圧迫していたらしい。

 申し訳ない事この上ない。


「たぶん、蘭丸がイケメンだから、力んじゃったんだね」

「本番では力むなよ」

「あははー、気をつける」


 気づけば下世話トーク全開。

 しかしお陰で私の緊張やら心配やらは薄らいだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る