(2)
*
変化狐には宿命がある。
それは生まれる前から決まっていること。
――人を騙せ、と。
――人に依存したフリを演じつつ、狡猾にだますのだ、と。
そうすることが変化狐の血が現代まで途絶えずに続くことができた所以なのだと彼は言う。
「変化狐は人間に変化する。そして人間を騙し、子を産ませる。そして子を奪い、狐としての生を歩ませる。それが変化狐種の決まりだ」
「なぜ、今それを、私に?」
私には分からなかった。
蘭丸がもし、その宿命を背負っているのなら、好都合ではないか。私と子を産み、それを奪えばいいのに。
なのに、わざわざそんなことをいうなんて。
まるで――。
まるで。
「私が好きみたいじゃない」
「めぐみが好きだからだ」
間髪入れずに彼は頷いた。
「だから明かさずにはいられなかった。己を律するためにも」
蘭丸は恥ずかしそうに顔を背ける。
「己を律するため?」
「みなまで言うな。否、言わせるな」
彼は耳まで真っ赤だった。
「照れてる?」
「う、うるさい」
ポン、と煙が突然立ち込めた。
その煙が退けば、そこには一匹の子ぎつねがいた。
「うん、この姿ならポーカーフェイスができるな」
「ずるいね、蘭丸」
「かかか」
子ぎつね姿の蘭丸は口を開いて笑う。
「変化狐は狡猾だ。さあ、どうだ。嫌いになったか?」
「は?」
私は意味が分からず頭上にクエスチョンマークを浮かべた。
「いや、むしろ可愛くて好きにならずにいられないんですが」
「なぬ!」
するとポン! と再び人間の姿に変わった――が。
「これでどうだ? ふふ、美しいだろ」
「…………」
なぜか女性の姿。しかも私そっくりな姿だ。
胸だけが私に似ていないが。
嫌味かな。さすがにムッとする。
「そうだ、もっと怒るのだ!」
「いや、怒ってるって言うより嫉妬してるから」
「そうか」
効果なし、無念だ――とつぶやくと、再び煙を出しては元の蘭丸の姿に戻った。
「それにしても、なぜおなごは胸の大きさにこだわる? 大きいと肩が凝るだろうに」
「男は筋肉があると自慢になるでしょ?」
「まあ……うーん」
「そういう感じなんだと思うけど」
「なるほど」
蘭丸はわかったのかわかっていないのか謎の表情で頷いていた。
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