恋心は突然に

第1話

「おじゃましまーす!」


「東雲じゃないか、遊びに来たのかにゃん。」


「ええ、まぁ…」


今日の文さんはいつも通りの猫の姿だった。




「あれ?今日は手土産はないのかにゃん?」


「あ…す、すみません。

今度持って来ます。」


「なんだ、気が利かないにゃ…」


「まぁまぁ…さっき緑川さんが持って来たマカロンをいただきましょうよ。」


「マ、マカロン!?」


先日のいやな記憶が脳裏をかすめる。




「大丈夫にゃ。今日のは催眠剤はないってないにゃ。」


文さんは、私の想いを察したかのように、マカロンのにおいをふんふんと嗅いで、そう言った。




「儂は抹茶をいただくにゃん。」


「では、私はいちごを…」


文さんと蘭丸がそれぞれのマカロンに手を伸ばす。

二人はそれをおいしそうに食べて…

確かに、何事もなかった。

では、私はチョコを…と思ったけれど、チョコはまだ誰も食べてない。

万一、またあの時のように催眠剤が入ってたら…と思うと差し伸ばしてた手がいちごに方向転換した。




確かにうまい。

お店で買ったマカロンと言っても、みんな、信じるレベルの味の良さ。

見た目も完璧だ。

チクショー…悔しいぜ。

なんでこんなにうまいんだ?

そういえば、今頃、龍之介さんは緑川姫香とテーマパークで……




「ぐーーーーー!」


悔しさのあまり、私は手あたり次第にマカロンに手を伸ばした。


うまい、うまい…

ちくしょー!どの味も悔しい程うまいぜ!


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