読書感想文『魔眼の匣の殺人』(超ネタバレ)

 注意:作品の根幹に触れますのでお気をつけ下さい。


 我々は自己責任である。

 生きるも死ぬも自分が決めるべし。


 らーめん。

 つけめん。

 ぼくいけめん。

 しくらめーん。


 でわ、そろそろ書きますので準備をどぞ。  


 改行。

 改行。










 やーらーれーた!

 ちっくしょう! 


 最後の展開を読みながら『あー』と言いますた(笑)

 確かにそういう『ロジック』を組める。めっちゃ油断して流したわー。


 見事に作者の術中に嵌りますた。知らない知識で解けないのは悔しくないのに、『ロジック』で負けるとめっちゃ悔しいわい。


 確かに通常なら真っ先にその可能性を疑います。

 双子が出てきたら疑うぐらい疑います。


 でも、今回はまったく気付かなかった。


 なぜなら物語を読みながら『予言は本物なのか?』という思考に支配されていたからです。しかも『二人分』も。


『予言は本物なのか?』

『予知は本物なのか?』


 という『二重思考』に囚われ、その奥にある前提条件を疑うことを忘れてしまいました。この作品の上手いところは最初の殺人を『不可能犯罪』にしたことでしょう。


 これが『不可能犯罪』じゃなければ『予言を利用(悪用)した殺人事件』という疑いが常にあったはずです。


 ですが、それを『不可能犯罪』にしたことによって『予言は本物である』という前提が出来上がり、『サキミ(の能力)は本物である』と無意識のうちに信じ込まされてしまったわけです。


 更に『サキミ』と会う前に『猪の予知』を見せられたことによって思考を誘導され、作者によってまんまと『思考にロックをかけられた』わけです。


 その『予言』や『予知』こそがこの『物語の真実』であると

 まあ、それもまた『真実の一部』ではありましたがー。

 

(小生は『予言』を偽っている可能性については考えていました)

(ですが、それもまた『予言』という言葉に囚われた思考に過ぎません)


 小生は『第一の真実』までは気付きましたが、作者の『罠』にかかりその先の思考を捨ててしまいました。指摘されて始めて、自分が他の思考を捨てているということに気付く始末です。はずかちー(笑)


 確かにどっちが死んでもいいはずなのにまったく疑わなかったなー。

 明らかに読んでる最中に頭がパンクしてましたね。


『犯人が二人いる』というのもこちらの頭をパンクさせようとした手段と考えられます。シンプルじゃない。この作品は前作とは違い、わざと『複雑』に作ってる。


(ただ小生はあまり犯人が二人(複数)いるという展開は好きではありません)

(物語が複雑化して解決が美しくないことが多いからです)

(今回も『協力関係』の部分に関してはちょっと強引かなーと感じました)


 全体的に『ミステリーファン』が読むと『疑惑』だらけの展開なんですよね。

 

『橋を焼いたのは村人なのか?』

『最初の殺人は不可能なのか?』

『ここに人間が集まったのは偶然なのか?』

『隠された繋がりが存在しないのか?』


 ミステリーファンであればあれほど『自分が生み出した疑問に囚われる構造』になっています。自分で生み出した疑問で自分の頭がパンクします。アホです(汗)

 

 そのうえ『ミスリード』もけっこう使用されているので疑い始めると底なし沼に引きずり込まれます。他にも誰か『超能力』を持ってるんじゃないかというところまで疑いました(大汗)


 ので、小生としても『疑惑』を捨て『ロジック』から考えることにしました。

『時計の謎』『証言の真偽』『花』『毒』辺りから『真実』を推測します。


『予言や予知の真偽』から離れると『論理的な事実』を見ることは可能です。

 まあ、それも『作者の罠』だったわけですが。


(ただこれはあくまでもミステリー的な『ロジック』です)

(例えば実際に銃を撃って時計が『ああいう状態』になるのかは不明です)

(作中で提示された事実に基づき、真実を考えるのが遊び方の一つですよん)


『二人の犯人』の正体を探れば探るほど『第二の真実』から遠ざかっていく。

『真実が見えた瞬間』に思考が停止し、他の疑問が見えなくなる。


 ほんとに作者の思惑通りという感じの行動をしてしまいました(爆死)

 いや、それはそれでミステリー小説の楽しみ方としては正しいんですけどねー。


 そもそも最初の『不可能犯罪』の時点で『これってミステリー小説なのか?』という感覚がありましたし、物語を読みながら読者である小生自身が『予言』というものに取り込まれていったような気がします。


 まあ、これがある意味『正解』だったわけですが、それは後回しにして。

 次に語るべきは『物語』の部分ですね。


 今回は『超能力者』と呼べるべき存在が複数出てきたことによって、前作ではちょっと浮いていた『剣崎 比留子』の『体質』にしっかりとした『現実感』が生まれたと思います。


『特殊な力』あるいは『呪われた力』というのが近作のテーマの一つでしょう。つまり、近作は『剣崎 比留子』というキャラクターがメインの物語でもあったわけです。


 そのため『予言』や『予知』という設定がきちんと物語の中に組み込まれていました。前回のようにただの『舞台装置』ではなく、その要素が『物語の中心としての存在感』を放っています。


 これは見事ですね。『前作』より地味で小粒に見える方もいるかもしれませんが、その分『密度の濃さ』が上がってます。全体的に浮いてる部分も減ってます。


 ただ『物語』としてはもう一つ踏み込めなかった印象が残りました。『ミステリー』としてはかなり面白いですが、物語として面白かったかと聞かれると『まあまあ』ぐらいでしょうかね。


 けっして悪くはないのですが、『物語としての進展が無い』と言いますか、読んでいて『物凄く盛り上がる部分が無い』と思いました。


 もっともミステリー小説としてはそこまで悪いわけではありません。

 ただ物語としての『盛り上がり』は『屍人荘の殺人』の方がありました。


 まあ、二作目というのもありますが、『物語』としては『仕切り直し』という感じでしょうか。三作目以降への伏線を張ったりとか。


 少なくとも『屍人荘の殺人』にあった『面白い物語になりそう』という感覚が近作は感じませんでした。個人的には『名シーン』と言える箇所が無かったです。


 その原因の一つはワトソンである『葉村 譲』の役割の薄さですかね。けっして役割が無いわけではありませんが、作中で言及されてるように彼はこの物語の中で『ワトソン』という存在にはなれていないわけです。


(今回は『剣崎 比留子』の物語なので余計パワーバランスが悪いです)

(もっとも『いる』だけで意味があるのですが、物語的には存在感がイマイチかと)


 いや、『二人の会話』とかは好きな方なのですが、他の物語の『ホームズとワトソン』に比べると『この二人の関係性がめっちゃ好き』とまではなりません。


 これは主役二人の『キャラクター性の弱さ』が原因でしょう。『キャラクター性』がないわけではありませんが、読み終えた後に『またこの二人に会いたい』という気持ちがそれほど強くはなりませんでした。


(『剣崎 比留子』が『奇人型の天才』ではないというのも大きいかと)

(もしそうなら『葉村 譲』が『凡人』でも存在感が対比して際立ちます)

(『奇人と凡人』が一般的な『ホームズワトソン型』の基本になります)


 今のミステリー小説の流行がこの『キャラクター性の強さ』なので、昔ならこの程度のキャラクター性でも問題無かったのですが、今は時代が違うのでこのままではちょっと厳しいと思います。


 そのため次の作品で『どんな関係性を築くことができるのか』というのが大きな分岐点になるかなーと。この作品だけの『ワトソンとしての個性』が確立できるかというのが鍵になるかと。


『奇人凡人型』とは違った方向性を二人のコンビに見出すことができれば、もっと評価が高くなるシリーズかなーと思います。そこが物語としての評価の分かれ目になるかもしれません。


『ミステリーとしては一流、物語としては普通』


 というのが素直な感想ですね。

 まあ、贔屓目に見れば物語としてはちょっと好きかな。


 ただ今作はここに『推理小説のメタ構造』としての評価も加えるべきだと小生は思います。

 

『あと二日で四人死ぬ』


 というのがこの作品の予言です。

 そして、これは『探偵』ですら変えることのできない運命でした。

 

 死ぬ人間がいると分かっていながら阻止できなかった。

 それは『探偵の敗北』とも言えるでしょう。


 ですが、思い出してください。

 多くの推理小説で『探偵は常に敗北している』という事実を。


 なぜならそれが『推理小説』というものだからです。


 基本的に『推理小説』というのは人が死ぬます。

 あるいは『犯罪』や『謎』が発生します。


 ですが、それに対応すべき探偵の行動は常に後手後手です。

 なぜなら、その方が面白いからです。


『探偵が犯罪を阻止しない』

 

 それを望むのは誰でしょうか。

 答えは簡単です。シンプルです。単純です。


 それは『作者』です。

(逆に言えば探偵が犯罪を阻止できるのも『作者の望み』だからです)


 つまり、今回の作品での『予言』というのは同時に『作者の言葉』でもあります。

 この作品は『あと二日で四人死ぬ』物語であると読者に宣言しているわけです。


 視点を変えれば『推理小説』というのは『作者』が『読者』に対して『この物語では人が死ぬ(謎が発生する)』ということを宣言している作品とも言えます。


 それを『予言』という形で提示したことによって、物語の形は大きく変わりました。別の言い方をすれば『物語の登場人物がこの物語は人が死ぬ作品である』と宣言されたと言ってもいいかもしれません。


 この『予言』というものが無ければこの作品は何の変哲も無い普通の(良く出来た)推理小説となっていたでしょう。


 たぶん前回も指摘しましたが、作者様のロジックとしての『斬新さ』がずば抜けているわけではありません。ただ『視点』がずば抜けていると小生は思います。


 他の推理小説が暗示している事実を言葉として表現するだけで、まったく『別の推理小説を作り出す』という視点(発想)が恐ろしい。一体どういう思考ならこんな作品を生み出せるのやら。


 しかも『予言』と『呪い』を同じ『死の運命』として扱うことによって、二つを同一のものとしてすり替えた巧妙な手口。


 ふつーならここで違和感があるはずなのに、この時点で『運命は回避できない』ということを読者は薄々理解しているのでほとんど違和感がありません。

 

 更にここまでくると『剣崎 比留子』の体質に今後違和感を覚えることはないでしょう。彼女の体質もまた今回の『予言』や『呪い』と同種の能力(方向性)であると考えられるからです。


 それらは全て『死の宣言』です。作中で誰かが殺される(事件が起きる)という『運命』から逃れることはできません。物語的にも。


 少なくとも今はまだ。

  

(ちなみに『呪い』が本物なら『王寺』はこの後に死亡すると推測できます)

(まあ、ただの偶然と考えることもできるので、その辺りは読者次第でしょう)


(予知が予言を変えたのか。それとも予言の中に予知も組み込まれていたのか)

(最終的に予言が変えられなかったことを考えると予知も予言の一部でしょうか)


 このシリーズのテーマはこの『運命に翻弄される人々』だと推測できます。この場合の『運命』というのは『自分ではどうすることもできない現実』ですかね。


 そんな力を持たなければ。

 そんな状況に追い込まれなければ。


 別の人生を送れた人々が人を殺し、人に殺される。


 今回の犯人もその運命に負けた人間と言えます。

 そして、それは村人たちも同じかもしれません。


 それはある意味では推理小説の『メインテーマ』と言えるでしょう。

 ミステリー小説とは関わった人間の『人生が狂っていく物語』でもあるのです。


 待てよ。

 考えると今回は『探偵の勝ち』でもあるのか。


『予言』に屈することなく、自分にとって大切な人間を守ったわけですから。

『運命』には勝てなくとも、それに立ち向かうことで自分の望みを叶えた。


 とすると、これは対比でもあったのか。


 運命に屈して、予言から逃げるために人を殺した犯罪者。

 運命に立ち向かい、予言から大切な人を守った探偵。


 望むことは同じでもそこにある一線。

 探偵と犯罪者の境界線。


 むむむ。

 何か閃きそうだけど、頭がパンクしてます(汗)


 うーむ、とするならば確かに次回作が重要ですね。

 色んな意味で。


 この辺りを上手く掘り下げられれば、物語として名シーンが生まれるような。

 構築、構築。これがあーして、あーなったときに、あーすれば。


 わりと『王道』な展開ですが、悪くはないような気がします。

 まあ、次回作が楽しみです。もしかすると物語的にも『跳ねる』かもしれぬなー。


 他にもキャラの弱さを補うためにレギュラーキャラをもう一人増やしてもいいかもしれませんね。


 もしかするとそろそろ『ライバル探偵』とか出てくるかもしれないですね。なんかの特殊能力があっても良いでしょう。目からビームとか(笑)

 

 でも、この作者様なら目からビームでもきちんとしたミステリーを書きそうで怖いです。今のところ予想外の展開や設定を『本格ミステリー』に落とし込むのが恐ろしいほど上手いです。それがこの作者様の明確な武器でしょう。


 というわけで次も買います。

 お買い上げありがとうございました(自作自演)


<魔法は尻から出る能力を使ったミステリー>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る