小生小説講座『情報操作の基礎』

<例文>


『小生が小生二号を殺した』


 ひでー文章ですが、これだけでもある程度の状況は理解できると思います。

 ですが、ここに『様々な情報』が抜け落ちていることにすぐ気付くでしょう。


 つまり、上の文章は『真実』から小生が皆様方に見せたい『事実』だけを抜き取った『情報操作した後の文章』なのです。


 ここから上の『例文』には様々な情報を付け加える(戻す)ことができます。

 例えば、


『小生が小生二号を殺した。笑いながら』


 とか


『小生が小生二号を殺した。泣きながら』


 などなど。『小生が小生二号を殺した』という状況は同じですが、僅かな文章を足しただけで読者が懐く印象は大きく変わり、『断片的な事実』は『真なる事実』へとちょっとだけ近づきます。


 一般的には最初の文章は『狂気的な印象』を与え、二番目の文章は『悲劇的な印象』を与える文章でしょうかね。でも、内面では無いのであくでも『表面的感情表現』になります。


 ここからさらに情報を付け加えますと、


『小生が小生二号を殺した。笑いながら。それは小生の復讐だった』

『小生が小生二号を殺した。泣きながら。二人はかつて親友だったのだ』


 こうすると、『例文』とはまったく違った『二つの状況』が生み出されるでしょう。これが小説を書くための『情報操作の基礎』です。


 小説を書くということは『常に何を描写し、何を省くのか』ということ考えなくてはなりません。この基準はジャンルによっても大きく異なります。ジャンルごとの『書き方(表現方法)の違い』と言えば分かり易いかもしれません。


 特定のジャンルが面白いと感じるのも、この『書き方の違い』が大きな影響を与えます。それが自分にあった文章なわけですな。


 ここで重要なのは『情報が多い文章が正解ではない』ということです。

 一般的には『過不足無い文章が良い』と言われますが、今回はそれとも違います。


『小生が小生二号を殺した』


 この文章は足りない部分だらけですが、読者に与える情報としてはここで終わらせても構いません。小生が小生二号を殺したという事実だけが読者の中に残ります。他の情報は一旦隠すわけです。いわゆる『伏線』というやつです。


 もちろんそれだけでは読者も意味が分からないので、しっかりと後から情報を付け足す必要があります。


 例えば


『私は見た。小生が小生二号を銃で撃ち殺した瞬間を。小生が裏切り者だったのだ』


 このように別の視点から『小生が裏切り者だった』という情報を与え、先ほどとは『別の事実』を読者に見せることができます。情報をすぐに明かさないことによって『読者の興味』を引くことも可能です。


 このように『情報を与える順番』によって『読者が見ていく事実』は変化します。例え最終的に辿り着く『真実(に近い事実)』が同じだったとしても、その辿る過程によって『面白さ』は大きく変化します。


 この情報操作を最大限に活かした『有名な映画』もありますね。

 映画好きならば知っている作品でしょう。ネタバレになるので書きませんけど。


<まとめ>


『真実は一つでも、与える情報によって読者が見る事実は変化するよ』

『与える情報によって、読者にどんな変化が齎されるのか把握しよう』

『同じ事実でも、別の見せ方があるよ。それで面白くなるのかな?』


 まあ、ほとんどの作者様が意思的(無意識的)にやっていることでしょう。

 ただ完全に制御できているという方はあまりいないかと。


 ので、『文章の推敲(プロットの推敲)』が必要になるわけです。

 

 小説の失敗として多いのが、『作者が伝えようとしている情報』と『文章から伝わる情報』が異なっているケースでしょう。特に『戦闘シーン』は一から十まで細かく書くということは少ないため、作者と読者の間で齟齬が起き易いです。


 情報操作することによって『様々な利点』が生まれますが、最終的には『読者にきちんと伝わらないと意味が無い』ということを理解しておきましょう。


『例文』を最終的な形に完成されるとすれば、


『深夜、人々が寝静まった時間帯。廃墟となったビルの一角で、小生は小生二号を銃で撃ち殺した。小生の瞳からは涙が毀れていた。例えそれが小生二号に対する復讐だったとしても、彼は悲しかったのだ』


 てけとーな文章ですが、このぐらい書けば大まかな状況を読者が把握することができるでしょう。


『復讐の理由』

『涙を流した心情』

『人体のどこに銃を撃ったのか』


 など、もっと情報を追加することもできます。

 ただの『例文』ですのでこの辺で。本職でもありませんし。


 まあ、今回は小説を書くための『情報操作の基礎』ですので、あまり活用できる内容ではないでしょう。実際に小説を書くための『情報操作』というのはもっとややこしいです。


 特に『ミステリー小説』ではこの『情報操作』を活用して『トリック』そのものを作成することもあり、『読者にどの程度の情報を与えるのか』というのが重要になります。実例を出すと『ネタバレ』になるので出せませんけど(汗)


 殺人事件を扱う『ミステリードラマ』はこの情報操作が分かり易い形で使用されていますね。最初に『誰かが殺された』という事実を提示し、そこから少しずつ情報を明かしながら、最終的には『なぜ殺されたのか』という真実を解き明かすわけです。


 ま、今回は、


『些細な一言で語られる状況は変化する』

『きちんと自分の表現したい状況を文章にできているかを見直す』


 ということだけ理解できればいいかなーと。

 まあ、そういう小生も感覚の言語化で出来ていないのであれですが(汗)


『言うは易く行うは難し』


 というやつです、


『偉そうなことなら小生にだって言えますよ』


 ってことです(笑) 

 

 でも、口だけでも言えるというのはわりと重要です。

 それが『感覚の言語化』ということですから。


 漫画などに比べて『小説の技術』というのは言語化されていない部分が多いと思われ。この辺りもそのうち書いてみましょうかね。


 では、またそのうち。


<完> 

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