読書記録『機龍警察 狼眼殺手』 感想(超ネタバレ)
善も悪も等しく無価値で、国益を守るために個人が切り捨てられる世界の中で、一体『警察の役割』とは何なのだろうか?
『機龍警察』で描かれる『警察』という組織はけっして『正義の味方』ではない。『警察の威信』を保つためにに真実を隠し、『国益』を守るために捜査することすら出来ないという現実がある。
それでも無力ではない。
警察にも戦う力はある。
だが、『機甲兵装』を利用した犯罪に対応することは難しく、事件が起きるたびに大量の犠牲者が出てしまう。そのうえ自分たちの目的を叶えるために手段を選ばない『敵』の存在もある。
攻める方が容易く、守る方が難しい。
どうしても対応が後手に回ってしまい、更に犠牲者が増えていく。
それに対応するためには警察が変化しなければならないのだが、長い間治安を維持してきた『警察の威信』がそれを許さず、自分の出世を犠牲にしてまで犯罪者を捕まえようとする上層部の人間も少ない。
警察を守るため、国益を守るため。
そして、自分を守るために他者を犠牲にする。
もっとも、それが必ずしも間違っているとは言い切れない。
『善も悪も等しく無価値で、存在するのは誰かにとっての利益だけ』
世界は多くの屍の上に成り立っている。
誰かが誰かをを踏み躙り、『それは必要な犠牲だった』と語るだろう。
だが、そこに生まれるのは激しい憎悪だ。
そして、その憎悪は無関心な人間にも牙を剥く。
踏み躙られた誰かが別の誰かを踏み躙る。
『誰かの利益のために、誰かを犠牲にしてもいいのだろう』
人の持つ憎悪は増大していく。
それに対して『警察』は一体何が出来るのだろうか?
たぶん答えはどこにも無い。
背負った業はけっして消えない。
憎悪は無限に連鎖していく。
綺麗事はただ美しく見えるだけ。
宗教は世界を救えず、愛は時に憎悪へと変わる。
人は全ての人々と『友人』になることは出来ないのだ。
それゆえに彼ら、彼女たちが出した『結論』は心に響く。
『犯罪者を捕まえ、犯罪を阻止することこそが警察官である』
ようやく舞台は整った。
これから始まるのはけっして『正義と悪の戦い』ではない。
『姿 俊之』が自分自身を『傭兵』と名乗っているように。
『ユーリ・オズノフ』が今も『警察官』で在りたいと願うように。
それぞれがけっして『譲れないモノ』のために戦う物語になるだろう。
その果てに残るのは絶望だろうか?
それとも僅かな希望なのだろうか?
今はまだ誰にも分からないことかもしれない。
――――
というわけで『機龍警察 狼眼殺手』の感想でした。
いや、むしろ『機龍警察』全体的な感想でしたけど(汗)
始めは個別に書こうとも思いましたけど、死ぬので止めました(爆)
小生の知識で迂闊に書くと墓穴を掘りますね。
でも、『機龍警察』の最新作は『さすが』と言いたくなるほど面白かったです。
まさに『重厚な警察小説』でした。
ですが、これが今回の作品の最大の弱点でもあります。
『警察小説』としては間違いなく面白いです。
でも、『機龍警察』として読んだ場合、(個人的には)帯に書いてあるように『最高傑作を更新した』とは言えません。
原因は『機甲兵装』での戦いが無いことです。
今までのシリーズでは凄腕のパイロットが登場し、『龍機兵』と死闘を繰り広げます。それが『機龍警察 狼眼殺手』ではありません。
今回は『重厚な警察小説』ですが、そう呼べる作品は他にもあります。
小生が『機龍警察』を読んでいるのは『警察小説』と『ロボット小説』の融合した作品だからです。分かり易く言うならば『大人向けのパトレイバー』だからです。
ですが、今回はほとんど『警察小説』としての要素しかないため、小生としては評価が下がります。『機龍警察 未亡旅団』の方が面白かったです。
まあ、今までの『総決算』という部分もあるので、ロボット戦よりも人間関係や各自の心情に焦点を置きたかったというのは理解できますが、読んでいてこれじゃないという感覚は残ってしまいました。
後、『彼女』が『自分は警察官である』と認めた箇所はちょっと違和感がありましたね。警察官に拘っているのは『ユーリ・オズノフ』なので、その結論はちょっと違うんじゃないかなーと感じました。『警察官だから逮捕した』という結論なら納得できるのですが。
ただ周囲の反応が最初の『機龍警察』との比較でもあるんですよね。
ちょっと複雑なのでもう一度読み直したら感想が変わる部分かもしれません。
他にも『狼眼殺手』というタイトルもイマイチです。
いや、間違いなく物語の一部ではあるのですけど、他のタイトルより弱いと言いますか、この物語が『狼眼殺手』の物語だったとは言い切れないわけです。フェイントの可能性はありますけど。
悪い部分も書きましたけど、やはり『機龍警察』は面白いです。
一番好きなキャラクターは『姿 俊之』ですね。戦闘行為でお金を稼ぐ傭兵なのですが、彼の中にも譲れない一線があって、それが台詞などに滲み出ているのが良いです。
プロフェッショナルとして安定しているので、『沖津部長』と対になるような存在感があります。他の登場人物がけっこう不安定という理由もありますけど。最初の頃なんてほんとに『バラバラ』でしたし(汗)
この『機龍警察 狼眼殺手』でやっと一つのチームになってきたという感じです。味方もほんとに少しずつ増えて来ましたし。
その分、警察内部での反感は更に大きくなっているようですけど。
やはり全員と分かり合うことは『不可能』ということなんでしょうね。
さてさて、続編が出たら間違いなく買います。ただ『ロボット成分』がこのまま少なくなっていったら残念ですけど。たぶんそれでも買うとは思います。
そのぐらい面白い作品なのでふ。
<ろぼこっぷ>
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