荒野を旅する二人組
- ★★★ Excellent!!!
作品で描かれた世界では、私たちが食料生産や戦争を外部化(マルクス的に言えば疎外か)するのと同様、科学の発展に伴って生殖は外部化され、企業の所有物(生産手段の私有というべきか?)となり、性差からの自由が成されている。
生が死によって裏付けられるのであれば、死という概念が希薄化したことよって生の価値もまた暴落する。とはいえ「不死」の定義は一筋縄ではいかないらしく、「外在派」と「内在派」の対立が未だ続いている。
資本主義 vs 社会主義というイデオロギー対立が過去のものとなり、ポストモダンという言葉すらすっかり古くさくなってしまった昨今、史的唯物論の行き着く先はこんな世界なのかもしれない。
閑話休題。
全編を通してアリスの語る物語として記述されており、軽妙な語り口が心地よい。個性的な各登場人物との関わり合いを経て、アノニマとアリス、二人の関係性が深化していく展開に惹きつけられる。特にアリスの、外在派と内在派の対立を止揚して(と、いっていいのだろうか)得た結論は、個人的にはものすごく好きだ。
ところで、最後に二人はどこへ向かったのだろう。過去を清算したアノニマは自由(freedom)になれたのか、或いは世界を売った男よろしく、結局は終わりなき戦いに身を置く(liberty)ことになるのか。前者だといいなあ。