第83話 投身! 少女の往く未来は終末? (Aパート)

 来葉は事務所の資料棚からアルバムを一つとる。

 かなみが生まれてくれた時からずっと撮り続けている。写真はその瞬間瞬間を切り取ってくれる。それは未来を視続けている来葉にとって、貴重な過去を見せてくれる。

 二度と戻らない、しかし、振り返ることが出来る。

 大きくなった、健やかに強く育ってくれた。

「私はこの子のためだったら」

 その先を言いかけて、事務所の扉が開く。

「こんにちは」

 かなみ、この子がやってくる。

 自分が呼んだのだ。

「いらっしゃい」

 来葉は笑顔で出迎える。アルバムはそっと資料棚に戻す。

「あ、それ」

 かなみはアルバムに気づく。

「写真ですか」

「ええ、あなたのね」

「来葉さんが写真撮るのが趣味だなんて知りませんでした」

「話したことがなかったからね。涼美から聞いた?」

「母さんがとても嬉しそうに見せてきたわ」

 かなみは苦笑いして答える。

 自分の写真なんてあるとは思わなかったし、見たことも無かったけど、不意に見せられると恥ずかしいものだとは知らなかった。

「フフ、焼き増ししていっぱいあるからね。かなみちゃんもいる?」

「い、いいです! うちにある分だけで十分です」

「うん、そうね。十分にあげたつもりよ」

「……本当に十分なんですか?」

 かなみは呟く。

 もっともっといっぱいある。

 来葉はそう言っているような気がする。確かめようとは思えないけど

「それじゃ、出かけましょう」

「出かけるってどこに?」

「秘密よ」




 事務所の車庫に停めてある来葉の車に乗り込む。

「来葉さんが秘密だって言ったら、絶対に教えてくれないのよね」

 大人達は秘密主義で固く守る。

 それでも信じられるからモヤモヤとしつつもついていく。

「ごめんね」

 来葉だって本当は教えたいけど、と密かに付け加えているような気がする。

「仕方ないですよ」

「そのかわり、何があっても私が守るから」

「それ、なんていうか不吉ですね」

「え、そう?」

 来葉はキョトンとする。

「でも、嬉しいです。ありがとうございます」

 かなみは素直に言う。




 来葉の運転で、車が向かった先は廃ビルの駐車場だった。

 『立入禁止』の立て看板が置いてあったけど、気にせず入っていった。

 いいのかしら、と思ったけど、来葉が突っ切ったからいいのかと思う。

 それよりも何の用があって、ここに来たのか。

「………………」

 着いた途端、来葉は沈黙して強張っている。

 あの来葉が、かと思うと、緊張感が募る。

 ここに一体何があるというのか。

「これからあるヒトと会ってもらうわ」

「あるヒト?」

「かなみちゃんを連れてくること。それがそのヒトが私と会う条件として提示してきたのよ」

「それはどういうことなの?」

 なんだか嫌な予感がしてきた。

「――面白そうだと思ってな」

 耳元で囁かれたような声がして、寒気が走る。

 カンカン、と、わざとらしい足音を鳴らして、彼女は姿を現わす。

――最高役員十二席の一人、禍津死神のグランサーだ。

 銀髪で黒い外套を羽織った、死神と言う他無い風貌の少女。

 死の香りを無造作に振りまく彼女を前にして身構える。

「なんで、あんたが?」

「その問いかけは筋違いだな。私に取引を持ち掛けてきたのは、そちらの方だ」

 グランサーは来葉を指差して答える。

「来葉さんが?」

「どうしても、彼女と取引しなければならなくてね。呼びかけたらそう言ってきたのよ」

「連れてくるとは思わなかったがな。貴様らは箱にいれて大事にする傾向がある」

 かなみにはよくわからない言い回しであった。

「大事にするということには否定しないけど、時と場合によるわよ。しまっていられる状況でもないしね」

「確かに貴様らはそうだな」

「あなた達はいいの。危険な状況っていう意味だとあなた達も同じじゃないの?」

「さあ。――少なくとも私は楽しんでいるよ、この状況を」

 グランサーは笑みを浮かべて答える。

 心底愉快そうだけど、危うさを併せ持った死神の笑顔だ。紐が切れたかもしれないバンジージャンプに飛び込む感じに似ている。

「破滅的で快楽主義……つくづく悪の怪人らしいわね」

 来葉は憎しみを込めた口調で言う。

 普段穏やかで優しい来葉が、そんな風に言うから恐怖を感じてしまう。

「賞賛は嬉しいものだよ」

「けなしたつもりだったけど」

 来葉は眼鏡をクイッと立てる。

「罵倒と称賛は紙一重でな。特に死神である私はな」

「憶えておくわ」

「忘れても構わないよ」

 グランサーは楽し気に答える。

 そして、顔はスイッチが変わったように切り替わる。

 友人と世間話するような穏やかさから獲物を見つめる獰猛さが表れてくる。

「さて、取引の話をしようか」

「ええ」

 取引とは何か、かなみは知る由もない。だけど、それを軽率に訊ける雰囲気でもない。

 下手に訊いて首を跳ね飛ばされたら、と思うとためらってしまう。それだけグランサーは気軽に殺しにかかってくる。

「ネガサイドの本部を知りたい、というのが貴様の要求。

だが、要求には当然、条件がある」

「秘密にされると思っていたんだけどね」

「秘密は思わぬところで漏れてしまうものだ」

「それをあなたが言うの? それで、条件って何?」

 問われたグランサーは、かなみを指差す。

「私?」

 話題に出されるとは思わなかったので面を食らう。何かの間違いであってほしかった。

「――貴様の首だ」

 何を言われたか、理解するのに数秒がかかった。

「ええぇ!?」

「……そんなことだろうと思ったわ」

 驚き困惑するかなみに対して、来葉は呆れた調子で言う。

「交渉の余地は無いわね。取引は破談よ」

「少しぐらいは交渉しても良いだろう。価格交渉ぐらいは応じるぞ、首の代わりに腕や足でもいい」

「ひぃ!」

 嗜虐に満ちた笑みでグランサーは言い、かなみはビクッと震える。

 グランサーはその反応を楽しんでいる。

「その対象が私だったら考えないでもないけど」

 かなみは来葉の返答にゾッとする。

「それだと貴様は喜んで差し出してきそうだからな。それではつまらないのだ。私が求めるのは活気に満ち溢れた生命を刈り取る瞬間だ」

「理解できないわね」

「そうだろうな。人間と怪人では出来が違う。身体の造りも、精神の在りようも」

「だからといって、どちらかが優れているというわけではないわ」

「貴様らならそう言うと思った。気が合うことに私もそのあたりは興味はない。優劣など個々で決めればいいことだ」

「話を戻しましょう。取引にかなみちゃんの生命を持ち出すというのなら話にならないわ。取引はこれで終わりでいいかしら?」

「もう少し歓談していたいところだがな。しかし、取引する条件として、その娘を持ち出したことでこうなることは視えていたのではないか?」

「ええ、そうね。視るまでも無く予想できていたわ」

「ならばなぜこの取引の場を設けた?」

「それはあなたが話が通じる怪人だから」

「……そうか」

 それを聞いて、グランサーは満足げに笑みを浮かべて消える。




「ごめんね、巻き込んじゃって」

 廃ビルの駐車場から出て、寄った喫茶店で来葉は笑顔で言う。

「いえいえ、そんな! 私こそ守ってくれてありがとうございます!」

 かなみは慌てて礼を言う。

「でも、よかったんですか?」

「よかったって何が?」

「取引のことです」

 かなみに問われて、来葉は険しい顔つきになる。

「言ったでしょ、あなたを持ち出された時点で破談だったって」

「私のせいですか?」

 かなみに問われて、来葉は悲しい顔をする。

「あなたのせいなんかじゃないわ……誰が生命と引き換えに取引なんてしますか。お願いだから、かなみちゃん、そういうことを言うのは止めて」

 懇願するようにかなみへ言う。

 そう言われて、かなみは申し訳なくなってくる。

「あ……ごめんなさい」

「わかればいいのよ」

「でも、来葉さんも似たようなこと、言ってませんでしたか?」

「え……?」

 かなみからの思わぬ反撃に来葉は面を食らう。

「取引の対象が来葉さんだったら考えないでもない、そう言ってましたよ」

「そ、それは……」

 攻守交替、今度は来葉が申し訳ない顔をする。

「来葉さんの生命を引き換えにする取引になるところでしたよね?」

「あ、あれは……かなみちゃんの生命を引き換えにするぐらいならって、言葉の綾よ」

「誰が生命と引き換えに取引しますかって言いましたよね?」

「あうう……ごめんなさい」

 来葉は一息ついて言い継ぐ。

「私達、似てるわね」

 そう言われて、かなみは何故か安心する。

「はい、そうですね」

「それじゃ何か食べましょうか」

「はい!」

 かなみはメニューをとって目を輝かせる。

「取引に来てくれたお礼になんでもおごるわよ」

「ありがとうございます!」

「遠慮しないでね」

「はい、遠慮しません!」

 そういうわけで、かなみはハヤシライスとジャンボパフェを選んだ。そして、来葉はトマトパスタを注文した。

「一つ訊いていいですか?」

「何?」

「ネガサイドの本部って誰も知らないんですか?」

「ええ、そうね。秘密厳守みたいで、今できる限り情報を集めているわ」

「できる限り、ですか……」

 グランサーとの話合い、あれが来葉の言う出来る限りなのか、と、かなみは自然と来葉へ責めるような眼差しになる。

 来葉はその眼差しを針に刺されたような痛みを感じつつ受け入れる。

「ええ、そうよ」

「そんなに切羽詰まっているんですか?」

「一つ訊くだけじゃなかったの」

「あ、いえ……」

「かなみちゃんも仙人から聞いてるんじゃないの?」

 かなみがためらった隙をつくように、来葉は答える。

「いえ……詳しいことは何も」

「そう、だったら私から話せることじゃないわ。あるみか仙人が折を見て話すわよ」

「そうですか……」

「大丈夫よ、あるみを信じて」

「社長を信じてるんですね?」

「ええ、そうよ」

 来葉は何のためらいも無く答える。

「私はそこまで強く信じられませんよ」

 かなみは素直に言う。

「でも、信じられるでしょ?」

「はい、ちょっと怖いですけど」

 その返答に来葉は笑う。

「フフ、そうね」

「あと厳しいです!」

(私だと甘やかしちゃうから)

 来葉は心の中で言う。

「頼りになるでしょ?」

「……はい」

 そこは素直に認める。

 あるみだったら、どんな窮地に陥ってもなんとかしてくれると思える。

「今度のこともあるみがなんとかしてくれるわ」

「私には何が起きているのかよくわかっていませんですけどね」

 そう言われた来葉は喋っていい立場じゃないことに歯がゆく思った。

「――!」

 そんな真面目でありながら楽しい談笑をしている最中、来葉はある女性が目に入る。

「来葉さん、どうかしましたか?」

「いえ、あの人……」

 かなみは来葉の視線を追う。

 スーツを着込んだ女性。お姉さんと呼んだ方がいいくらい若い感じがする。しかし、焦燥しきっていていくらか老け込んでいるようにも見える。

(来葉さんより若い……? あ、でも、来葉さんは社長や母さんと同じくらいだから……)

 などとかなみは失礼なことを考えてしまった。

 その間に、来葉の瞳が虹色に輝く。

「――死ぬわ」

「え?」

 来葉は席を立って、その女性の方へ向かう。

「あの人、死ぬわ」

 その一言だけ聞いて、かなみは絶句する。

「すみません、ちょっといいですか?」

 来葉は女性に声をかける。

「はい?」

 女性が来葉に気づいたと同時に、断りなく相席する。

「な、なんですか?」

「私、こういう者です」

 ニコリと笑って、名刺を渡す。

「『未来占い師・黒野来葉』……?」

「私、未来が視えるんですよ」

「……はあ?」

 来葉の自己紹介に、女性はあっけらかんとする。

 それはそうだ。いきなり未来が視えるなんて言われたら怪しくて警戒する。

「占い師が私に何の用ですか?」

「あなた、自殺を考えていませんか?」

「――!」

 女性はドキリとした顔をする。

「な、何のことでしょうか?」

「中原明恵(なかはらあきえ)さん」

「ど、どうして、私の名前を?」

「あなたが未来で私に名乗ってくれましたから」

「そ、そんなデタラメ信じられますか!」

 明恵は憤慨して立ち上がて店を出て行く。

「来葉さん、どうしたんですか?」

「怒らせちゃったわ」

 来葉は笑って答える。

「そりゃいきなり未来が視えるって言われたら怪しまれますよ」

「あははは、慣れてるから大丈夫よ。初対面の人には怪しまれるのが占い師の習わしみたいだから」

「でも、来葉さんがやってるのは占いじゃありませんよね?」

 未来を視る魔法。

 それは占いというほど曖昧なものでないということをかなみはよく知っている。

「そうね。でも、占い師といった方が話が通じやすいのよ。未来が視える魔法少女ですって言われても頭おかしい人と思われることもあったし」

「あったんですね、そんな時期が……」

「開店当初あたり、少しね。あの頃は十代だから若かったわ……」

「そ、そうなんですか……」

 来葉さんって少し天然なのね、と、かなみは思った。

「あ、それであの人、本当に死んでしまうんですか?」

 かなみは真剣な顔をして訊く。

「ええ」

 来葉をそれと同じ面持ちの顔で答える。

「――自殺するわ」

「………………」

 自殺する。

 かなみはその言葉の意味を頭の中で確認し、さっきの女性の姿を思い浮かべる。それだけで数秒の時が過ぎていた。

「自殺って、本当なんですか?」

「ええ、間違いないわ。二日後のニュースに出てるのよ」

「二日後のニュースって……その時はなんて……」

「高層ビルからの投身自殺よ」

「………………」

 かなみは再び絶句する。

 かなみにとって自殺という言葉はニュースでよく耳にする話だけど、自殺が身近に起きたことはない。

 現実にはあるものの遠い世界の話という感覚だった。

「かなみちゃんはどう思う?」

「え、私?」

 思ってもみなかった問いかけだった。

「今見掛けたばかりの女性が高層ビルから投身自殺するってなったら、かなみちゃんだったらどうする?」

「私だったら、どうするって……」

 かなみは考える。

 女性が高層ビルから投身自殺する……たとえば、そんなニュースを目にしたらどう思うか。

 嫌な気分になる。直感でそう思った。

「嫌です……できるなら止めたい、と思います」

 かなみは素直に言った。

「私も同じ気持ちよ」

 来葉は満足げにそう言った。




 翌日、学校の授業が終わるといつも通り教室を出る。

 そのままいつも通り、校舎を出て、校門を抜けて、オフィスビルへ向かうつもりだった。

 校門前に来葉の車が停めてあった。

 それを見た瞬間、かなみは直感した。

 あ、これ乗らなくちゃいけないやつね、と。

「かなみちゃん、乗って」

 予想通り、来葉が出て来てそんな台詞を言ってくる。

「はい」

 かなみは素直に従って車に乗り込む。

「あるみには許可貰ってるから、今日は私と一緒に来てもらうわ」

「それはいいんですけど、昨日のことですか?」

「ええ、そうよ。今日、彼女は自殺することになってるわ」

「ええ!? それじゃどうするんですか!?」

「昨日、かなみちゃんが言っていたじゃない。できるなら止めたいって」

「それは言いましたけど」

「――だから止めるのよ」

 来葉ははっきりと言う。

 有無を言わさない力強さが感じられる。

「自殺する場所は視ているからわかってるわ」

 そう言って車を走らせる。

 スピードメーターの針が一般道で出しちゃいけないような数字を指し示しているような気がしたけど、多分気のせいだろう。




 そのビルの屋上への扉は解放されていた。

 金網は無く、そのまま飛び降りることができる。まるで自殺する人間のために用意されたロケーションのようだった。

 神様が私のために用意してくれた。なんて、嘯いてみたい気分になってくる。

 誰も聞いてくれないけど、と、明恵は自嘲する。

 そんなことでごまかしつつ、一歩ずつ踏み出していく。

 いざ、そのときになってくると足がすくんでこの場から逃げ出したくなる。

 でも、こうするしかない。そう文字通り必死に言い聞かせる。

 あと何歩進めばいいのだろうか。もうかなり進んだような気がするけど、実際は四、五歩しか進んでいない。

一歩踏み出すたびに足に鉛をつけられたように重くなってくる。

 でも、こうするしかない。何度も何度も言い聞かせてまた一歩踏み出す。

「止めた方がいいわ」

「――!」

 突然、背後から声がする。

 こんなところに高層ビルの屋上にやってくる人なんて他にいるはずがないと思っていなかったので驚きですくみあがる。

 一体、誰が、と明恵は振り向く。

「ど、どうして、あなたが?」

 そこにいたのは、昨日会ったばかりの占い師と見知らぬ少女だった。

「言ったでしょ、未来が視えるって」

「そ、そんなわけ……!」

「明日、あなたの自殺がニュースで報道される未来が視えたわ」

「――!」

 明恵は今まさに自殺しようとしていただけに、魔法を知らなくても来葉の台詞に思い当たる節があって絶句する。

 そして、この人は本当に未来が視える人なのかもしれない。と少し思えてきた。

 だって、そうじゃなかったら私の自殺する場所を言い当てられるはずがないのだから。

「それで、私をどうするつもりなんですか……?」

 明恵は震える声で訊く。

 これから自殺するはずの覚悟が揺さぶられ、得体のしれない人間と接する恐怖がないまぜになっているせいだ。

「あなたの自殺を止めるのよ。私が視た未来を現実にさせるわけにはいかないから」

 そんな明恵に来葉ははっきりと答える。

「そ、そんなわけのわからないことで……」

「ええ、あなたにとってはわけのわからないことでも、私にとっては大事なことなのよ」

「うぅ……!」

 来葉の返答に明恵は気圧される。

「自殺は止めなさい」

「――!」

 明恵はそう言われて、何かが弾けたように行き場の無くなった想いが爆発する。

「放っておいてください!!」

 叫んで走り出す。

 来葉とかなみをかきわけて走り出す。

 彼女が向かったのはやってきた屋上への入り口で、勢いよく降りて行った。

「これでよかったんでしょうか?」

 かなみは不安げに訊く。

「ええ、ひとまずはね。少なくとも、彼女が今日ここで飛び降り自殺する未来は無くなったわ」

「来葉さんがそう言うってことはまだ一件落着じゃないんですね?」

 少しだけ悲観的に言う来葉の様子でかなみはそれを察する。

「……そうね」

 来葉は肯定する。

「でも、望みはあるわ。彼女は癇癪を起こしてここを出て行った。ここから飛び降りずにね」

「あ……」

 言われてみて、かなみは気づく。

 出入り口と屋上と空の境目。彼女の立ち位置からいって近かったのは後者だった。そして、彼女は自殺をしにここまでやってきた。距離的にも、気持ち的にも、自殺に足をのばすことは十分に有りえたはずだった。でも、彼女はそうしなかった。

「彼女は生きたいと思っているから、ここから飛び降りるのではなく出て行ったのよ」

 そう断言する来葉の言葉に、かなみは希望を感じた。

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