第65話 取材! スコープ越しの少女の秘密 (Bパート)

「おかえりなさぁい」

 アパートの部屋に帰ると、母親が笑顔で迎えてくれる。

「ほうほう、これが魔法少女カナミさんのお住まいですか?」

「そうよ」

「あらぁ? あらあらぁ、お客様?」

 パッシャは興味津々に部屋を見回す。

「そんなに見回したって、珍しいものなんてないわよ」

「いえいえ、あの魔法少女カナミさんがこんな狭くてみすぼらしいところに住んでるなんてとても珍しいですよ!」

「狭くて、みすばらしい……」

 かなみは苦い顔をし、涼美はクスッと笑う。

「お客様なんてぇ、珍しいわねぇ。ささぁ、あがってぇあがってぇ」

 涼美は嬉々として招き入れる。

 怪人だというのに、不審に思わないのだろうか。涼美のことだから気づいていないはずがないというのに。)

(気づいてるけど、母さんからしたら普通の人と変わらないのかしらね……)

 今日一日、質問と会話をしていたが、そこで魔力のようなものはあまり感じなかった。

 怪人だったらそれで大抵の強さはわかるのに、それをほとんど感じないということは普通の人間と大差ないということになる。

 それとも、チカラを隠しているのか。

 何にしても不気味なことこの上ない。

 どうしてもというから部屋まで案内したけど、警戒は怠らないようにとかなみは思う。決して取材料をくれるからという理由で上げたわけではない。

「あなたが魔法少女カナミの母親なのですね?」

 さっそくパッシャは涼美へ取材をする。

「そうよぉ、結城涼美。私も魔法少女よぉ」

「母さん、迂闊に答えないで!」

「いいじゃないのぉ、サービスよぉサービス」

「サービスじゃ借金は返済できないでしょ」

「ふふ、そうねぇ」

 涼美は同意する。

「お二方とも、相当な借金されているみたいですね」

 パッシャは興味ありげに涼美へ訊く。

「そうねぇ」

「母さん、そういうことは答えなくていいのよ!!」

「ええ、さすがにそれは答えられないわねぇ」

 涼美は笑って答える。

「残念です。ですが、この密着取材たっぷり色々と聞かせてもらいますよ!」

 パッシャは大いに張り切る。

 張り切って一体何を聞くというのか。この怪人の考えていることはよくわからない。

 密着取材だといって、質問が終わり、仕事中も張り付いてきた。そして、家までついてきた。

 記者魂というものなのだろうか。

 何にしても、涼美は特に反対したり、追い返すつもりもなさそう。むしろ、歓迎している節すらある。

「母さん、今日の晩ご飯は?」

「クリームシチューよぉ」

 お鍋に食欲をそそる湯気が立っている。

 腹の虫が急に鳴り出す。

 そういえば昼から何も食べていなかった。ネガサイドからの取材というあまりにも予想外の事態のせいですっかり忘れていた。

「おいしそう! 母さん、料理の腕上げたね!」

「フフ、かなみに喜んでほしくてねぇ。ああ、パッシャちゃんも食べるのぉ?」

「母さん!」

 かなみは抗議する。

 パッシャが食べるということは、自分が食べられる量が減ってしまうということだからだ。

「いえいえ、私は食事をとらなくても大丈夫です」

「そうなのねぇ」

「ご飯を食べない怪人なの」

 かなみは興味を持って訊く。

「いえいえ、単に私が食事をとらなくてもいいタイプの怪人というだけのことです」

「へえ、そういうタイプの怪人もいるのね。人を食べたりするイメージがあったんだけど」

「怪人にも色々いますからね。人を食べたりする怪人も確かにいますし、菜食主義の怪人もいます。何も食べなくても大気中にある魔力を摂取するだけで生きていける怪人もいます。私がそのタイプです」

「へえ」

 かなみは感心する。

 そういえば、今まで散々戦ってきたというのに怪人のことについて知らないことばかりだ。

「おっと、これではまるで私が取材を受けているみたいですね」

「フフ、そうね」

 思わず笑ってしまう。

「……あ」

 そこで気を許しかけていることに気づく。


ブンブン!


 頭を左右に振って、気を引き締め直す。

「ささ、食べましょうぅ。パッシャちゃんは食べ終わるまでぇ、待っててねぇ」

「はい、しっかり待たせていただきます」

 パッシャはそう言って、行儀良く正座する。

「………………」

 しかし、じっくりと見られている感覚はある。はっきり言ってやりづらい。

「はい、どうぞぉ、かなみ」

 そこへ涼美はクリームシチューを入れた取り皿をよこしてくる。

「いただきます!」

 かなみは条件反射でそれを受け取るやいなや頬張る。


パシャ!


 パッシャがいきなりシャッターを切ってくる。

「わ、な、何!?」

 かなみは驚いて、手で顔を覆う。

「いい画がとれました」

「何勝手にとってるのよ!?」

「いえいえ、これは社内報に使わないので安心してください!」

「だったら、何に使うっていうのよ!?」

「観賞用です」

「意味わかんないし……」

 かなみはなんとかパッシャの手に持ったカメラを奪い取れないか、睨みつける。

「それだったらぁ、私にくれないかしらぁ?」

 涼美はニコニコ顔で提案する。

「涼美さんに、ですか?」

「そうよぉ、ちょうだぁい」

 涼美はパッシャへ手を差し出す。

「……承知しました」

「ええ!?」

 かなみは大いに驚く。

 どうやって、奪い取るか考えていたのにそんなにあっさり渡すなんて意外すぎる。

 パッシャはカメラから現像されたばかりの写真を取り出して、涼美へ渡す。

「ありがとうねぇ」

「か、母さん……そんなの、受け取っていいの?」

「いいのよぉ、これはアルバムに入れておくわねぇ」

「あ、アルバム?」

 そんなのがあるなんて初耳だ。

 涼美は胸と胸の間からそのアルバムを出してくる。

「ど、どこにいれてるのよ!?」

「便利な収納スペースよぉ」

 そう言いつつ、涼美はアルバムを開ける。

(何のアルバムなのかしら……?)

 かなみはアルバムを覗き込む。

 そこには赤ん坊の頃のかなみ、幼稚園の頃のかなみ、小学生の頃のかなみの写真が収められていた。

 しかも、これらの写真はいつ撮られたのか全く憶えていない。写っているかなみもカメラ目線ではない為、知らない間に撮られている。

「いつ撮っていたのよ?」

「私が撮ったんじゃないわよぉ」

「じゃあ、父さ……」

 言いかけて、かなみは止める。

 涼美に父の話題は禁句なのであった。その話題に触れたら、命に関わるとかなみの本能が告げている。

「これはねぇ」

 かなみが慌てて口を塞ぐと、涼美は教えてくれる。

「……来葉ちゃんよぉ」

 そう言われて納得がいった。確かに父も母もカメラを持った姿すらかなみの記憶にはない。

「来葉さんが……」

 ただ来葉がこんなにも以前から自分の写真を撮っていたなんて思いもしなかった。

「おお、これは中々レアですね!」

 パッシャが覗き込んでくる。

「そうでしょぉ、そうでしょぉ」

 涼美は自慢げにアルバムの写真をパッシャに見せる。

「ちょ、ちょっと!!」

 かなみは慌てる。

 そこにはどんな写真があるのかわからないし、パッシャに見せたら何の記事に使われるかわかったものじゃない。


パタン。


「え……?」

「写真のお礼はここまでよぉ」

 涼美はアルバムの写真をパッシャに少しだけ見せて閉じてしまう。

「そうですか、残念です」

「母さん……」

 涼美に一応の良識があったことに安堵する。

「今日撮ったお仕事中の写真と交換というのはいかがでしょう?」

 パッシャはそう言って、数枚の写真を涼美に見せる。

「あらぁ、それはとても魅力的な取引ねぇ」

「母さん!」

 自分の写真が勝手に取引される。

 かなみにとってはいい迷惑である。

「冗談よぉ、この写真は私の宝物だからぁ」

 そう言って、涼美はアルバムを胸と胸の間に大事そうにしまう。

「母さん……」

 母のその態度はかなみにとって嬉しくはあった。

「そうですか、残念です」

 パッシャはそう言ってあっさり引き下がる。

「では、取材を続けましょうか」

「取材ってこれ以上何を聞くのよ。インタビューだって、さっき答えたし」

「ですから、このまま密着させてもらいますよ」

「は、密着……?」

「それってつまりぃ、泊まり込みかしらぁ?」

 涼美が恐ろしいことを訊いてくる。

「はい、そうです」

 そして、パッシャは恐ろしくあっさり肯定する。

「と、泊まり込みぃッ!?」

「はい、そうです」

「ダメよ、ダメったらダメ! いくらなんでもそれはダメなんだから!!」

 かなみは力いっぱい否定する。

 怪人をこの部屋に泊める。それはいつ不意突かれてもおかしくないし、道徳的にもまずい。

 どこの世界に敵の怪人を自分の部屋に泊める魔法少女がいるというのか。

「どうしてもですか!」

「どうしてもよ!」

「そう言いながら、取材も受けてくれましたし、この部屋だって上がらせてくれましたよね」

「今度という今度はダメよ! そうでしょ、母さん!?」

「そうねぇ……かなみがそこまで言うのならぁ」

 そう言って、涼美はパッシャの襟首をつかんでまるで人形をつまむように持ち上げて、部屋の外にまで置く。

「はい?」

「じゃあ、またねぇ~♪」

 涼美はニコリと手を振って、無慈悲に扉を閉める。

「母さん……」

「さすがに泊まり込みはねぇ、無理があると思ってねぇ」

「母さんが常識的な対応をした!!」

 かなみはそんな当たり前のことに感動した。

「かなみはぁ、私のことをどう思っているのかしらぁ」

「非常識極まりない私の母さん」

「傷つくわぁ~」

 そう言って、クスクスと楽しげに笑った。




「はい、これが本日の情報です」

 パッシャはそう言って、闇に隠れた影に紙の束を渡す。

「ご苦労」

 労いの言葉をかける。

「それで情報量のほうなんですが!」

「フン!」

 影は吐き捨てて、札束を渡す。

「ああ、どうもありがとうございます! なにしろ取材交渉にはお金がかかるもので」

 パッシャはありがたりつつ、その札束を懐へ入れる。

「奴が金にうるさいのは承知している」

「承知しているのならいいですが、あまり肩入れしますと」

「忠告か? 広報課の一記者にしては出しゃばりすぎではないか?」

「これは失礼しました」

 パッシャは非礼を詫びる。

「それでは、引き続き取材を続けます」

「ああ、奴の……魔法少女カナミの弱味を必ず掴めよ」

 影はそう言って姿を消す。

「弱味、ですか……案外たくさんあるような気がしますがね」

 パッシャは冷淡にぼやくように言う。




「おはようございます!」

 翌朝、学校へ行くために部屋の扉を開けたかなみに対して、パッシャは一礼する。

「……あんた、私が出るのを待っていたの?」

 かなみは部屋に逃げ帰りたい衝動を抑えて、訊く。

「いえいえ! かなみさんがこの時間帯に出てくるのは、調査済みでしたから!」

「どこでそんな調査をしたのよ!?」

「このアパートの住民の方々から聞いたんですよ」

「お兄ちゃん……沙鳴……」

 おそらく彼等に悪気はないだろう。

 パッシャに訊かれたから答えただけのことだけど、こんな怪しげな怪人に教えないで欲しかった。

「それで、何の用なの?」

「もちろん、取材です!」

 パッシャは即答する。

 かなみもやっぱりかと呆れる。

「取材は昨日で終わったんじゃないの?」

「いえいえ、密着取材が半日で終わったんじゃ話になりませんよ!」

「じゃあ、いつになったら話になるのよ?」

「それは記事になるまでですよ!」

「……まさか、学校にまでついてくるんじゃないでしょうね?」

「もちろん、そのためにこうして待ち構えていたわけですから!」

 かなみはため息をつく。

「母さん、なんとかして……」

「私はぁ、別の仕事がぁあるからぁ」

 そう言って、涼美はさっさと出て行ってしまう。普段はゆったりまったりしてるのに何故かこういう時に限ってやたらら速い。

「母さん……」

「さ、一緒に学校に行きましょう、カナミさん!」

「じょ、冗談じゃないわ!」

 カナミは足早に逃げ去る。が、パッシャはそれをしっかりと追いかける。




「ハァハァ……」

 教室に入るなり、かなみは机に突っ伏す。

「朝からランニングかよ?」

 貴子が声を掛けてくる。

「ハァハァ……しつこい、ストーカーに追われてね、ハァハァ……」

「ストーカー? かなみをストーカーする物好きなんているのか?」

「物好き? っていうより、変り者っていうかね……振り切るのが大変だったわ……」

「さすがに学校までは追いかけてこれねえからな、一安心だな」

 普通だったら、「そうね」と同意するところだが、そのストーカーと言うのは普通ではない。


パシャ


 ふと、カメラのシャッター音が聞こえたような気がした。

(……まさか!)

 かなみは振り返る。

 そこにひっそりと教室に入ってくるパッシャの姿があった。

「あー!!」

 かなみは叫びを上げる。

「どうした、かなみ?」

 貴子は驚いて訊く。

「あ! あ! あ! あそこに!!」

「うん?」

 貴子はかなみが指差した方を見る。

「……ん、どうしたんだ? 何もないじゃないか」

「うぅ……」

 パッシャは姿を消している。

(気のせい……? いえ、そんなはずは……)

 かなみは辺りを見回す。

「なんだか、暗殺者に狙われてるみたいだな」

 貴子は感心して言う。

(暗殺者……そうよ、あいつは暗殺者みたいなものよ……!)

「ということは、かなみはお姫様か! ハハハ、似合わねえ!!」

「お姫、様……?」

 そう言われて、かなみの脳裏にある単語がよぎる。


――借金姫


「それは嫌ね……」

「ハハハハハハ!」

 なんだかわからないが、とにかく愉快なので笑う貴子であった。


キンコーンカンコーン


 そうして始業のチャイムが鳴る。

 パッシャの姿が見えないのでやっぱり幻だったかもしれない。

「おはようございます」

 そう言って入ってきたのは、柏原だった。

「え……?」

 かなみは思わず間抜けな声を上げる。

「え~担任の先生は風邪で休みなので、代わりに僕が来ました」

「カーシーが一日担任なのか」

「あれ、副担は?」

「ま、いいんじゃない」

 生徒達は思い思いに反応する。

「まあ、やることといったら出席確認ぐらいだけどね。うん、全員いるね」

 柏原は見渡してそう言う。

「てきとーだ」

「まあ、担任もそんなもんだしな」

 生徒達は楽し気に反応する。

「……冗談じゃないわ」

「かなみはカーシーが苦手だものね」

 理英が言う。

「その名前で呼ばないで!」

 すっかりカーシーのあだ名で定着してしまっている。まさか、そっちの方が本名だなんて誰も思いもしないだろう。

「でも、うちの担任の科目って……一時間目の社会じゃなかったけ?」

「え?」

 理英の発言に、かなみは嫌な予感がする。

「それでは一時間目の授業を始めます」

 そして、そういう予感は的中するものだ

「というわけで、一時間目は引き続き僕が授業するよ」


――的中した。


 かなみは机の上に再び突っ伏す。

 一時間目から柏原がいる授業を受けるなんて冗談じゃない。今日風邪で休んだ担任を恨めしく思う。


パシャ!


 またシャッター音が聞こえる。

 教壇の陰にわずかにパッシャの姿が見える。

「あー!!」

 かなみは立ち上がって教壇へ指を差す

「どうかしましたか?」

 柏原は何食わぬ顔でかなみに訊く。

「そ、そそ、そこの教壇に不審者が!?」

 かなみがそう言うと、生徒達の視線は教壇に集中する。

「……不審者どころか、何もいませんが」

 柏原は教壇の裏側を覗いてそう答える。

「そ、そんなはずは……!」

 どうせ、柏原とパッシャは同じネガサイドの怪人なのだから匿っているに違いない。そう考えたかなみは身を乗り出す。

「なんだよ、勘違いかよ」

「結城さん、寝ぼけたんじゃないの?」

「大体、そんなところに不審者が隠れられるわけねえだろ」

 生徒達はしらけきっていた。

「かなみ、落ち着けって」

 貴子にまで促されて、かなみは納得がいかないものの引き下がる。

(こんなところで見つかってもまずいし、しょうがないか……)

 そう自分に言い聞かせた。




「どうなってんのよ、もう!」

 かなみは学食のラーメンをすすりながらぼやく。


――パシャ


 今日何度目だろうか。

 数えるのも面倒になるぐらい幾度となくこのシャッター音が聞こえてくる。

 おそらく、あのパッシャという怪人がどこからか自分の写真をとっているのだろう。

 昼休みまでの間にシャッター音がした方向を見ると、パッシャの腕やら足やら外套やらの一部がチラリと見える。その度にかなみはその姿を追ったり、叫んでみるが、周囲から呆れた視線が返ってくるだけ。

(あいつ、かくれんぼの名人かしらね……私をおちょくって楽しんでいるの?)

 などと心中でぼやく。


――パシャ


 そうしているうちに、シャッター音もきっと気のせいだろうと思うようになった。


――パシャ


 ほら、また。きっとラーメンを食べているところをとったのだろう。

 今度姿を現わしたら、とっちめてカメラを奪い取ってやろうか、とかなみは画策している。

 きっと、その時は学校が終わった時だろう。

「かなみ、そのラーメンおいしくないのか?」

 貴子が訊く。

「……え?」

「だって、さっきから全然食べてないぞ。いつものかなみだったら十秒で完食してるところだ」

「わ、私はそんなに早食いじゃないわよ!」

「いいえ、いつものかなみだったら五秒でしょうね」

「り、理英まで……」

 かなみにとっては一日のうちで一番まともな食事にありつけるのがこの学校の昼食であった。

 借金返済の為、食費を削らなければならないが学校では理英や貴子との友達付き合いもあるから下手に昼食を抜いて怪しまれるのもよくないと思い、こうして学食に食費を割いている。

 そのため、どうしても早食いになってしまう。

(それにしても、五秒はさすがに大げさでしょ)

 計ったことはないけど、一分ぐらいだとかなみは思った。

 現にパッシャのことに気がいってしまって、まだラーメン一杯を食べ終えていない。

「こちら空いてますか?」

 そこへ柏原がトレイを持ってやってくる。

「む!」

 かなみは文字通りむっとする。

「どうぞどうぞ」

 理英はこれを快諾する。

「だめ―!」

 かなみはそれに割って入る。

「はあ、そうですか」

 柏原はため息をついて残念そうに去っていく。

「別に一緒に食べるぐらいよかったんじゃないか」

 貴子が言う。

「嫌よ……」

「かなみさあ、なんで柏原が嫌いなわけ?」

「いい人だと思うんだけどね」

 貴子と理英が揃って訊いてくる。

「そ、それは……」

 かなみに言えるはずがなかった。

 柏原の正体が、悪の秘密結社ネガサイドの怪人で関東支部の元幹部スーシーの弟である、だなんて。

 一般の学生がその秘密を知ってしまったら、柏原がどんな行動に出るかわからない。第一、こんなことを話しても理英や貴子が信じてくれるはずがない。

 おかしな子だ、と思われるのが関の山だ。

「な、なんとなくよ!」

 結局、かなみはそう言ってお茶を濁すことしかできなかった。

「おかしなかなみ……」

「…………………」

 おかしな子だ、とは既に思われているのかもしれない。

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