第62話 選考! 閃く妖精の光が少女の闇を照らす! (Cパート)

「………………」


 怪人達は衝撃のあまり、沈黙する。


 何しろ、この十二席選抜試験はヘヴルがいなくなったことにより、出来た空席をめぐる戦いであったはず。


 それが今ここにそのいなくなったはずのヘヴルが現れた。


「あいつ、死んだはずじゃ……?」


 動揺する怪人。


「む、無理だ、ヘヴルに勝てるわけがねえ」


 諦めて萎縮する怪人。


 中には尊敬の念を抱いていた怪人もおり、歓喜に震える者までいた。




ゴォン!!




 ヘヴルは一本腕を突き出す。


「うぎゃぁぁぁぁッ!?」


 それだけで大砲が撃ちだされたかのような風の塊が数十人もの怪人を吹き飛ばした。


「な、なんて一撃!?」


 かなみは即座にコインを取り出す。


 一瞬でも気を抜けばやられる。その気持ちは他の四人も同じであった。


「「「「マジカルワークス!!」」」」


 黄・青・赤・紫・桃の五色の光とともに五人の魔法少女が姿を現す。


「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」


「青百合の戦士、魔法少女スイカ推参!」


「勇気と遊戯の勇士、魔法少女ミア登場!」


「平和と癒しの使者、魔法少女シオリ登場!」


「暴虐と命運の銃士、魔法少女モモミ降誕!」


 その名乗りに、観客の怪人達も歓声を上げる。


「あいつらがうわさに聞く魔法少女か!」


「支部長達もあいつらにやられたっていうぜ!」


「だったら、ヘヴル様もやられるっていうのか!?」


「バカ言え! ヘヴル様がやられるわけねえ!」


 観客は言いたい放題であったけど、カナミ達は構わずヘヴルへ攻撃を仕掛ける。


 カナミの魔法弾、ミアのヨーヨー、シオリのノック、スイカのレイピアの順に攻撃が放たれる。


 しかし、ヘヴルはそれらに対して身構えることなく、カナミの魔法弾を指で弾き、ミアのヨーヨーを首を傾げてかわし、シオリのノックボールは蹴り返し、レイピアを腹で受け止める。




カキィィィィン!!




 金属音と共に、白銀の刃が舞い上がる。


「お、折れた!?」


 それはスイカのレイピアだ。


「――!」


 危険を察知したスイカは即座に離脱する。


「か、固い……! まさしく鋼の肉体ね……!」


 折れたレイピアを持つ手が震えている。あの腹を突いた衝撃がそれだけ残っているということだ。


「しかも、防御に回ってすらいなかったわね」


 その様子を見ていたモモミは、冷や汗をかきながら言う。


「まともに戦ったらあたし達はダメージすら与えられないわね」


 ミアは歯噛みする。


(社長の……社長のドライバーなら、貫けるはず、なのに……!)


 カナミはアルミに想いを馳せる。


 あのどこまでも強くて、どんな敵にも負けない最強の魔法少女の姿を。


 彼女なら、この十二席の一人にだって勝てるはずだ。


 出来ることなら助けて欲しい。それができないなら少しでも力を、と思わずにはいられない。


 しかし、あるみはあの場所から動けないだろう。


 十二席の席長・判真をはじめとする面々がそれを許さないはずだ。


 助太刀も助力も期待できないこの状況。


(私が……私が……! 何とかしなくちゃ!)


 カナミはステッキを握りしめ、ヘヴルを見据える。


 そのヘヴルに、怪人達が襲い掛かる。


「いくらヘヴル様といえど、」


「これだけの数でかかれば!」


「勝てる! そして俺が十二席だ!!」


「いいや、俺だ!!」


 功名心溢れる怪人達が一斉にかかる。


 炎の弾丸、氷柱の槍、かまいたちの刃、床の岩石、様々な色とりどりの攻撃がヘヴルの全方位覆いつくす。




バキィクシャドォン!!




 様々な攻撃が混ざり合った結果、大爆発が巻き起こる。


「す、すごい……」


 爆風にカナミは思わず顔をかばう。


「あれがあたしらに向けられたらひとたまりもないわね」


 ミアは冷静に恐ろしいことを言う。


「ええ」


 モモミも珍しく同意する。が、顔はまだ険しいままであった。


「あれがあの化け物に通じるとは思えないけどね」


 そう付け加えると同時に、爆風よりも激しい暴風が巻き起こる。




ブォォォォォォォォォン!!




 魔力の発起によっておこる風だ。


 起こしたのはもちろん中心にいるヘヴルだ。


 あれだけの攻撃を一度に受けたにも関わらず、まったくの無傷であった。


「ザコが!」


 ヘヴルは一言吐き捨て、剛腕で吹き飛ばす。


「ぐわあああああッ!!」


 吹き飛ばされた怪人は宙を舞い、中には観客席にも飛び込む者もいた。


「まともにくらったら、私達もやばいわね」


 カナミ達は走ってその攻撃から逃れようとする。




ドォン! ドォン! ドォン!!




 ヘヴルが拳を振るう度に、砲弾が撃ち込まれたかのように爆音が鳴り響く。


 続いて、怪人達が吹き飛ばされる。


 カナミ達もいつその身に砲弾がふりかかるかわからない。


「む、無理だ!」


「俺達が勝てる相手じゃねえ!」


「所詮化け物には勝てねえんだ!!」


 逃げ惑う怪人達の泣き言が聞こえてくる。


「ああ、もう!」


 カナミはうざったくてたまらない。


 そんなことに気をとられていると、ヘヴルが一足飛びで飛び込んでくる。


「ふうん!」


 ヘヴルの四本の腕から、それぞれ炎、氷、雷、岩の球が生成される。


 それらが一気に投げ飛ばされる。


「カナミさん、危ない!!」


 カナミへの危険を察知したスイカを突き飛ばしてかばう。


「キャ、スイカさん!!」


 スイカは投げ込まれた岩の球に弾き飛ばされる。




グシャン!




 トマトが潰れたような嫌な音とともに、スイカは闘技場の端へ落ちる。


「スイカさん!!」


「バカ! 第二弾が来るわよ!!」


 ミアの注意喚起で、カナミはヘヴルの方を見る。


 ヘヴルは再び四種類の魔法の球を撃ち出す。


 カナミにやってくるのは氷の球であった。しかし、その大きさは大岩といって差し支えないレベルだ。


「神殺砲! ボーナスキャノン!!」


 カナミは咄嗟に神殺砲で迎撃する。




バァァァァァァン!!




 氷の球は砕かれて、粒が飛び散る。




バチバチバチバチ!




 そこへ怪人達を焼き尽くてきた炎の球が火花となって燃え散って、氷を溶かし、湯気を立たせる。


「――!」


 辺りに湯気が霧になって立ちこもる。


「あらあらぁ、これじゃあ見えないわねぇ」


 涼美は頬に手を当てて困ったような仕草をとる。


「あなたなら耳でちゃんと把握できるでしょ」


 あるみは呆れて返す。


「ええぇ、そうなんだけどぉ、カナミがやられてないかぁ気が気でなくてねぇ」


 涼美はそう言って、ジェンナに目をやる。


 もしここで飛び出す素振りを見せようものなら、音速ジェンナが止めてくるだろう。


 そうなったらこのビップシートはたちまち戦場になる。そうなると分が悪くなるのはあるみ達魔法少女の方だ。


 だから、涼美は笑みを浮かべつつ歯噛みして気持ちを必死に押し殺している。


「――信じましょう、カナミちゃん達を」


 あるみは力強く言い聞かせる。


「それにしても、どうして……」


 あるみは疑問を投げかけるように判真の方を向く。








「ギャァァァァァ!?」


「グェェェェェッ!?」


 怪人達の悲鳴ばかり聞こえてくる。


 霧が立ちこもって視界が定まらない中、不安を煽り立てる音だけが耳に入ってくる。


(スイカさん! ミアちゃん! シオリちゃん! モモミ!)


 仲間の安否が気になる。


 母からの訓練で鍛えた聴覚もここまで雑音が多くては活かすのは難しい。




キラン!




 そこへリュミィがカナミの頭の上に立つ。


「リュミィ……?」


(こっちよ!)


 言葉ははっきりと聞こえたわけじゃないけど、そう言っているような気がした。


 その証拠にリュミィは、カナミを導くように飛び立つ。


 他に指針が無いから、カナミは迷わずそこへ走る。


「――!」


 そこに立っていたのはヨロズとオプスであった。


 リュミィは喜んで、オプスと飛び回る。


「……オプスに会いたかったの?」


 カナミは呆れて、しかし、ヨロズを見て気を引き締める。


「あんたと戦ってる場合じゃないわ」


「わかっている」


 ヨロズは意外にあっさりと言い、戦意をヘヴルへ向ける。


 それでも、また戦うのが今じゃないとわかっただけでも一安心できた。




ブォォォォォォォン!!




 その時、暴風が起きて霧が吹き飛ぶ。


 直後に、目の前へ怪人が飛んでくる。


 この次は、自分達がこうなる運命だとヘヴルが告げているかのようだった。


 ヘヴルの赤い瞳がこちらへ向けて輝く。ギクリと震える。


「怖いか?」


 ヨロズが問いかけてくる。


「ううん、怖くないわよ!」


 カナミは強がって言い返す。


「そうか」


 ヨロズはそれだけ言って、駆け出す。


 熊のごとき剛腕がヘヴルへ目掛けて突き出される。




ゴツォォォン!!




 その一撃は闘技場を震わせた。


 間違いなくヨロズの渾身の一撃であった。その証拠にヘヴルの二本の腕で受け止めている。しかし、それは渾身の一撃すらも二本で受け止められる。つまり半分の力で十分だというヘヴルの化け物ぶりを再度証明させる結果でしかなかった。




グシャン!




 防御に回らなかった残り二本の腕でヨロズは殴りつけられる。


 血飛沫が周囲に舞う。


「――!」


 それを見たカナミは弾かれたように鈴を飛ばして、ヘヴルへ魔法弾を飛ばす。


 飛び出したヨロズに触発されたのか。ヨロズを助けようと思ったのか。ヨロズに気をとられている今がチャンスが感じたのか。それはカナミ自身にもわからなかった。


 ただ止まっていられなかった。


「ジャンバリック・ファミリア!」


 宙を飛び交う鈴からの魔法弾がヘヴルへ雨あられのように襲い掛かる。


「ふむ……」


 しかし、ヘヴルはまるで小雨を浴びているかのようにその魔法弾をものともしなかった。


「こんの!!」


 そこへモモミが銃弾を畳みかけるように浴びせる。


「Gヨーヨー!!」


 さらにヘヴルの頭上へミアの巨大ヨーヨーが落とされる。


「ぬぅん!!」


 しかし、ヘヴルはその巨大ヨーヨー目掛けて拳を突き上げる。




ズガァァァァァァァン!!




 巨大ヨーヨーが粉々に砕け散る。


「今よ、カナミ!」


 ミアが合図を送る。


 それだけ、カナミは自分が何をすべきか理解する。


「神殺砲!」


 ステッキを砲弾へと変化させる。


 全力の砲弾で仕留めるしか、ヘヴルを倒す手段はない。モモミやミアはそのための時間を稼いでくれたのだ。


「ボーナスキャノン!!」


 充填は十分であった。


 これで倒すしかない。その気負いのもとにカナミは全力の一撃を放つ。


「アディション!!」


 魔力の洪水ともいうべき砲弾がヘヴルを襲う。


「うおおおおおおおッ!!」


 ヘヴルは雄たけびを上げて砲弾へと向かう。


 四本の腕で受け止め、その足は闘技場を踏みしめる。




ドゴォォォォォン!!




 砲弾を難なく受け止められた。


 しかし、カナミは止まっていられなかった。


(もっと魔力を! もっと威力を引き上げて押し切るしかない!)


 さらにステッキへ魔力を注ぐ。


 それが砲弾の威力をさらに引き上げ、ヘヴルの剛腕を軋ませる。


「あれが魔法少女の攻撃かよ!」


「すげえ!?」


「ボサッとしてる場合かよ! 今がチャンスなんだぜ!!」


 功名心溢れる怪人達が「オオォッ!」と魔法弾を放つ。


 本来敵として戦うはずの怪人達の思わぬ怪人の加勢に、カナミは戸惑いと共にこの機を逃さまいと全力を注ぎ続ける。


「すぅごぉい」


 涼美は大きく口を開けて驚嘆する。


「カナミちゃんもそうだけど、怪人達も抜け目ないわね」


「この機会を逃がしたら二度と倒すチャンスはやってこないって判断ね。追い詰められたらなんだって利用するのは、実に怪人らしいわ」


「自分ではどうしようもできない、情けないもののあがきだ」


 あるみの言葉にジェンナが反論する。


「我々の選抜した怪人よりもお前達の方が骨があるというだけのこと」


 グランサーは横たわる怪人達への侮蔑の意味を持込めて言う。


「なんとも狩りがいのある少女だよ。ヘヴルにくれてやるには惜しいな」


「あの娘達に手を出すなら!」


 来葉は敵意をグランサーへ叩きつける。顔に汗を滲ませて。


「ハハハハハハ、いいなその眼!」


 グランサーは嘲笑する。


「だけど、どうしてヘヴルがあそこに? たしか、あるみが倒したはずじゃないの?」


 千歳にあるみは首肯する。


「ええ、そのはずだけど……」


 死んだはずの怪人を蘇らせる魔法。


「死者復活の魔法……」


その存在にまったくの心当たりがないわけじゃなかったけど、果たしてそれで本当に最高役員十二席の一人をあっさり蘇らせることができるのだろうか。いやそれ以前にその魔法は本当に実在するのか。


「あなた達はそれを実現させたの?」


 あるみは判真達を睨む。


 怪人すらも射殺すほどの視線を向けられて、ジェンナやグランサーは楽し気に笑う。しかし、判真だけはそれに対して笑うでもなく恐れるでもなく、ただ見つめている。


「――そんな魔法は存在しない」


 判真は断言する。


「判真様、何もこやつらに手の内を明かすことなどないではありませんか」


 視百は進言するが、判真は一切耳を傾けず続ける。


「あれは最高役員十二席の一人・無明むみょうだ」


「無明……!」


 あるみはその名前を耳にしたことがあった。しかし、どういう怪人なのかまでは噂すら聞いたことが無い。


 あの二次試験の最高役員役員十二席が集結した際にさえ、姿を現さなかった。ただそこに何かいるという気配を感じただけだ。その何かというのがおそらく無明だろう。


「姿形を一切見せないやつね」


「いや、姿形が無いのだ」


「姿形が、無い……?」


「ゆえに、何者にもなれる。人間にも怪人にも魔法少女にも最高役員十二席にでも」


「………………」


 さすがのあるみも絶句する。


 姿形を真似るのならば魔法少女の変身だって似たようなものだ。しかし、それを最高役員十二席のレベルで姿だけでなく圧倒的な雰囲気や戦闘力まで投影するのは、死者復活の魔法に比肩しうるほどの大魔法といっていい。


「どこまでの存在になれるっていうの?」


 あるみの問いかけに、判真は答えなかった。




バァァァァァァン!!




 その時、大爆発が巻き起こり、爆風があるみの髪を揺らした。


「助けるか?」


 判真は問いかけ返す。


 「フフ」「クク」とジェンナとグランサーの嘲笑が闘争心を煽る。


 もしここで、「イエス」と答えれば全面戦争だ。


 あるみ、来葉、千歳、涼美……ここにいる魔法少女四人の全戦力を持って、最高役員十二席五人と戦い、なおかつカナミ達を助け出さなければならない。


 それは闘技場のカナミ達の戦いよりもはるかに激しく凄惨なものになることは容易に想像がつく。


「……いいえ」


 あるみは答え、動揺や戦意を鎮める。


「………………」


 この返答に、視百達のみならず、千歳達も閉口した。


 ただ最高役員と事を構えたくない弱気な姿勢とは思えなかった。


 戦えないわけじゃない。


 勝てないわけじゃない。


 それでも、戦おうとしないのは、これはあるみの戦いではないから。




――信じましょう、カナミちゃん達を




 何よりも一度口にした言葉を貫徹しなければならない。


 信じたら、とことん信じ抜く。それがあるみだ。


「あんたはそういう娘よね……」


 千歳はそう言って納得する。


 元より旧知の仲である来葉や涼美もそれは承知していた。


「カナミィ……」


 ただ、それでも母として涼美は心配であった。








 爆煙が闘技場に立ちこもっている。


「ハァハァ」


 カナミは膝をついて息切れする。


 持てる力を全て出し切った。今自分が出せる最大威力の魔法を叩き込んだ。


(これで倒せなかったら……)


 もうどうしようもない。そんな弱音を心の内ではきかけたとした時だった。




ドォォォォン!!




 煙が爆音とともに吹き飛ぶ。


「――!」


 それを見据えたカナミの血の気が引く。


 爆音の中心にヘヴルは立っていた。


「そ、そんな……!」


 全力の神殺砲でも倒せなかった。もうあれだけの砲弾を放つことはできない。


 つまり、ヘヴルを倒すことはできない。


「あ、あれで倒せないのかよ……!」


「や、やべえやっぱ本物の十二席はけた違いだ……!」


「勝てるわけねえ!!」


 その絶望は周囲を取り巻く怪人達にもこみ上げてきた。


「今のが精一杯か?」


 ヘヴルはカナミへ問いかける。絶望を叩きつけるように。


「まだ……!」


 それでも、まだ戦える意志だけを見せようと答える。




ズドォン!




 次の瞬間、カナミへ砲弾のような突きが放たれる。


「ガハッ!」


 それをまともに受け、吹き飛ばされる。


 普段だったら十分かわせる程度の速度だったにも関わらず、身体が鉛のように重いせいでかわせなかった。


「う、く……!」


 痛みに耐えながら、立ち上がる。


 せめてもの反撃に、と魔法弾を撃つ。


 しかし、ヘヴルにとってそれはゴムまりを当てられたようなものだ。




ズドォン!




 また突きが放たれる。


 今度も避けられない。


 まともに受けると思った時、身体が引っ張り上げられる。


 腕に何かが巻き付いた。ミアのヨーヨーだ。


「ミアちゃん……!」


 カナミは離れたミアのもとへ吸い寄せられる。そこにシオリもいた。


「あ、ありがとう……」


「礼なんて言ってる暇があったら、早く魔力の回復させなさい!」


 ミアは叱咤する。


「でも、私の魔力はもう……」


 さっきの神殺砲で全力を使い果たしてしまった。


「二発目が撃てない、なんて言わせないわよ」


「え……?」


「回復しないと、あたし達は勝てないんだから」


「ミアちゃん……」


 ミアとシオリが自分に期待を寄せているのがわかる。




ズドォン!




 そこへ突きの砲弾が撃ち込まれる。


 この態勢からかわすことはできない。やられた、とカナミは思った。




カキーン!!




 それをシオリが爽快な打撃音を鳴らして、撃ち返す。


 ヘヴルが放った風の砲弾を撃ち返す芸当に、カナミはただポカンと口を開ける。


「シオリちゃん、すごい……」


「ありがとうございます。でも、私はこれで精一杯です」


 撃ち返したマジカルバットは凹み、シオリの腕はガタガタ振るえる。


「信じています。カナミさんの神殺砲が絶対にあの怪人を倒してくれることを!」




ズドォン




 さらにもう一撃突きの砲弾が放たれる。


「くッ!」


 シオリは苦悶の表情を浮かべ、砲弾へ向けてバットを振るう。




バキーン!!




 砲弾の威力に耐えかねて、バットは砕け散る。


「くあ……ッ!」


 しかし、それでも砲弾をシオリを意地で撃ち返す。


「シオリちゃん!?」


「大丈夫、です……! それよりも、カナミさんは回復を……!」


 シオリは絞り出すように言う。


 しかし、そう言われてもカナミには大人しくしている以外に、回復の手段が思いつかない。しかも、それが芳しくない。


 カナミは悔しさでステッキを握る。


「もう一発、神殺砲を撃てたら……!」


 それだけの魔力も残っていない。




ズドォン!!




 さらに、突きの砲弾が容赦なくまた繰り出される。


「捕まって!」


 もう耐えきれないと判断したミアは、カナミとシオリに呼びかける。


 ヨーヨーを遠くへ投げ込んで、ワイヤーのように引っ張り上げられる。


 カナミとシオリはそのロープのような糸を掴む。


 そのロープが引っ張ってくれたおかげで助かった。


 しかし、ヘヴルはそんなカナミ達目掛けて突撃してくる。


「バーニング・ウォーク!」


 ミアは燃えるヨーヨーを投げつける。


 しかし、ヘヴルにとってそれは目くらましにさえならず、突進の勢いで砕かれる。


「砕けろ!」


 ヘヴルの剛腕が魔法少女達へ振り下ろされる。




バゴォォォォン!!




 爆撃といってもいい一撃にまともに受けてカナミ達は吹き飛ばされ、床へ叩きつける。


「ぐ……!」


 消耗していたところに、直撃してまともに立ち上がるのも困難なほどの激痛にさいなまれる。


「ミアちゃん……? シオリちゃん……?」


 視界が明滅して、定まらない中、仲間の姿をすがるように探す。


「………………」


 呼びかけても、返事が来ない。


 自分の声があまりにも小さかったのか、遠くへ吹き飛ばされてしまったのか、やられてしまったのか、不安と恐怖はつきない。


(た、立たないと……!)


 とにかく倒れたままだと、いつまたヘヴルが襲い掛かってくるかわからない。今近づかれたら間違いなくやられる。早く安全なところに逃げないと。


「――!」


 肩を上げ、足を上げ、立ち上がろうと見上げたカナミの顔が恐怖に染め上がる。


「怖いか?」


 胸の内を見透かされたかのような問いかけに、カナミは歯噛みする。


「怖く、ないわ……」


 精一杯の強がりで返す。


「そうか」


 ヘヴルはそれだけあっさり答えて拳を振り下ろす。


「くッ!」


 終わった。


 あんな剛腕を今まともに受けたら身体はバラバラになる。


 しかし、かわすこともしのぐこともできない。


 カナミは観念して目を閉じる。




ドゴォン!!

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