第33話 前哨? 影は日向を歩く少女の足元にできる (Cパート)
かなみと千歳は怪人をつけていく。
「まだつけてるんですか?」
「うん。あの娘もしつこいわね、カンづかれるんじゃない?」
「それはまずいですよ……」
「まあ、バレないようにする作戦はちゃんとあるけどね」
「え、あるんですか! それならそうとちゃんと言ってくださいよ!」
「かなみちゃん、声大きいわよ」
「あっとっと」
かなみは声を塞ぐ。
「でも、あいつは何なんですか?」
怪人に気づかれる素振りはなく、ただ徘徊するだけであった。
特にこれといった目的があるように感じられない。人を襲うわけでも、建物を壊すわけでもない。
「それを知るためにつけてるのよ」
でも、何もわからない。
「わかりませんよ……」
「うーん……なんだか空気を知るためにやっているような感じがするわね」
「空気?」
「この土地の空気よ。雰囲気というか、町並みとか観察してる感じよ」
「観察? あれがですか?」
かなみの知っている観察というのは一箇所にとどまったり、眺めたりすることなのだが、この怪人はそういった素振りを見せず、目的も無く歩いているだけで観察というのには程遠い気がする。
「そこは確信が持てないのよね……」
「あ、駅に入ります」
「秘密基地に帰るつもりかしら?」
駅の改札口に入る。
ここに来て、初めて目的が見えるような行動に出た。
「ちゃんと切符を買ってるんですかね」
「そんな風に見えないけど……」
「じゃあ、無賃乗車ですか?」
「おそらく、改札や駅員さんに認識されていないんでしょうね。なんていうか、影が薄い感じがするし」
「なんていうか……セコいですね」
かなみは呆れつつも後を追った。一応定期券は持っているから切符を買う手間はない。
「……なんだか妙ね」
千歳は突然神妙な面持ちになって言い出した。
「何が妙なんですか?」
「かなみちゃん、周りに違和感が無い?」
千歳に言われて周囲を見てみる。
怪人がもう一人いる。今つけている影の薄い怪人とまったく同じ怪人だ。
影が薄いせいで同じように通行人は気にはするものの、関わらないように素通りしている。
「あ、れ……?」
それがもう一人どころじゃなく、二人、三人……と徐々に増えているような気がする。
――まもなく一番線に参ります。黄色い線の内側までお下がりください
そんな中で、電車から降りてきた乗客がやってくる。
「な、ななな、なッ!?」
かなみは慌てた。
乗客の中に混ざってまったく同じ怪人が次々とやってくる。
囲まれている。
駅のホームで立ちすくんでいるかなみ達は行き交う通行人に混ざる怪人達の気配を感じて、そう思った。
「ああ、こりゃ軽い侵略だわ。調査とかそんな安っぽいものじゃないわよ、これ」
「侵略ってこれがですか!?」
「慌てない。気づかれるわよ」
「これ、どう考えても気づかれてますよね?」
「この数で包囲しているのに一向に襲ってくる気配が無いわ」
「この数って……て、うわッ!?」
かなみは驚く。
影の薄い怪人がまたさらに増えたのだ。
「だから、驚かないの。静かにそっと這い寄ってくるそんな怪人ね」
「ぶ、不気味すぎます……」
「駅を基点に増えているみたいね、人に紛れて各地に散っている」
「紛れてって、そんなレベルじゃないですよね」
「だから慌てないの。気づかれるでしょ」
「って、絶対に気づかれてますよこれ。こうなったら変身して一気に」
かなみはポケットからコインを取り出そうとする。
「通行人を装いなさい。襲ってこないのなら気づかれてない可能性もあるわ」
「どれぐらいの可能性ですか」
「かなみちゃんが借金を完済するぐらい、かしら?」
「それって高くありませんよね!?」
「だから、騒がないの。どこかに根源があるはず、それを探すのよ」
「根源?」
「見たところ、この怪人は普通の人とだあくまたあを無理矢理つけられて一時的に怪人にさせられているみたいなのよね。だから、どこに通行人をだあくまたあを取り付けている奴か装置があるはずよ」
「へえ、そうなんですか。ところで千歳さん、本当に横文字が弱いんですね」
「そ、それは触れないでくれると助かるんだけど……」
「やっぱり、おばあちゃんなんですね」
「こ、こんど、英語を覚えるわよ。え、えぇっと、いんくりしう?」
それは『イングリッシュ』と言おうとしているのだから、笑いが抑えきれない。
「く、ふふふ!」
「笑うな!」
「あわてないでください。気づかれるんでしょ?」
「ず、ずるい。かなみちゃん、何気に策士なんじゃないの?」
「さあ、どうでしょうね。千歳さんほどじゃありませんよ」
「覚えておきなさい。貸し一つよ」
千歳は一息つく。
それが、彼女の気持ちの切り替えのスイッチであった。
「んで、根源ね。見たところ、今の電車からやってきたみたいだけど」
「それじゃ、反対の電車に乗って追ってみましょう」
「そうね。一つ一つ調べて行きましょうか」
かなみと千歳は極力怪人を気にせず、電車に乗り込む。
休日なので、いつもはこの時間に人はまばらにいる。
決してギュンギュンの満員電車になるようなことはない。……はずなのだが。
「ぷぎゃあッ!?」
「千歳さん、変な声出さないでください」
「おしつぶされるうう、これが満員電車なのおお」
「そうですよ……でも、この時間にこんな満員になるなんて珍しいことも……」
「珍しい、ねえ……間違いなく怪人のせいよ、これ……く、くるしい……」
「き、気づきませんでした……」
これが怪人の攻撃なら、なんて効果的なのかしらと苦しむかなみであった。
「人に紛れているわね。誰も隣の人を目にすることは合っても、隣の隣の人にまで気にしない。随分とまあ効果的に配置されているわね」
「わかるんですか?」
「ええ、右前方に一人、左斜め全後方に一人ずついるわね」
「囲まれているんですか?」
「もののみごとにね」
「なんだか、妙な感じです」
自分の町がいつもと少し違う違和感。で、少しなだけに得体の知れない不気味さがある。
前に町中ロボットで埋め尽くされたことがあったが、あのときはあまりにもシュールな絵面のせいで現実味がなかったが、今回はあれほど現実離れしていない。
いつもと同じなんだけど、少しだけ怪人が視界に入る程度の違和感。それが徐々に増えていく。
「たしかに、嫌な空気ね」
千歳は真剣な面持ちで言う。
「一体何が起きているんですか?」
「それはわからな、げぶッ!?」
話の途中で、千歳は窓に押し付けられる。電車がガタンと揺れたからだ。
そのまま、扉が開いて千歳は外へと無理矢理押し出される。
「あぎゃ、ひいッ! ごふッ! おぐあッ!?」
好き放題、踏み潰される。
「ち、千歳さん、大丈夫ですか?」
「と、都会は残酷ね……っていうか、怪人も踏んできたし、絶対に許さない!」
千歳は元気よく立ち上がる。
しかし、相変わらず怪人は周囲に確実に何人かいて、油断できない状況であった。
「ところでその体、痛みは感じるんですか?」
「ええ、魔法の糸を神経代わりに全身に張り巡らせているから、ちゃんと痛みもあるし、熱いものを触ったら熱いって感じるようになっているわ」
「へえ、よくできていますね」
「まあ、でもメンテ代はバカにならないのよね。四六時中動かしているとガタがくるの」
「そうだったんですか。それでメンテ代っていくらかかるんですか?」
「かなみちゃんの返済額といい勝負よ」
「そ、それは大変ですね」
かなみは苦笑する。
「さて、尾行再開といきましょうか」
「び、尾行って……」
「適当に一体、つけるわよ」
千歳はそう言って、本当に適当に選んだ一体の怪人のあとをつけた。
その怪人は駅の中をただ徘徊しているだけだった。
怪人達の中に紛れている普通の人間を襲わないか、と危惧したがそんなことも無く、その素振りすらない。
数分歩いたら、普通に改札口をくぐって駅を降りた。
「あ~、この駅じゃないわね」
「なんだかそんな気がします」
「じゃあ、次ね」
二人は電車の方へ向かう。
通りを行き交う人の中に怪人が普通に紛れ込んでいる。さっき、怪人の中に人間が紛れていると思ったが、それこそがおかしかった。
逆なんだ。人間の中に怪人が紛れているはずだったんだ。
それがいつの間にか、逆になっている。
「嫌な感じがします」
「かなみちゃんもそうなの……まあ、かなみちゃんが住んでる町だものね、違和感は強いはずだわ」
「なんだか、知らないうちに自分の町がおかしくなっているような気がします」
かなみは拳を握りしめる。
「……許せません!」
「かなみちゃん、熱いわね」
千歳は微笑む。
「でも、私はそういうの好きよ」
次の駅に向かう。
それでも、また同じように徘徊している怪人をつけて、数分して何も無いことがわかるとまた次の駅へ行く。それを繰り返す。
「今のところ、空振りね」
「それにしてもだんだん怪人が多くなっている気がします」
「そうね……最初のうちは十人に三人か四人ぐらいだったのに、今じゃ相当な数になっているわ」
「最初のうちでも相当な数だと思いますけど」
「かなみちゃん、苛立ってる?」
「頭にきてるんです」
「熱くなるなとは言わない、でもカッカはしないでよね」
「年の功ですか?」
「あ~そう受け取られれるとちょっと困るのよね」
千歳は苦笑する。
次の駅に着く。
「ところで、かなみちゃん?」
「なんですか?」
「まだつけてるわよ、美依奈ちゃん」
「え、まだつけてるんですか!?」
かなみはため息をつく。とっくに諦めているのかと忘れていたところだ。
「ここまでくると執念を感じるわ。かなみちゃん、好かれてるわよ」
「そ、それって好かれているって言うんですか?」
そう言われて寒気がしてきた。
「なんだか感じるのよね、好意ってやつをね」
「正直、喜んで良いのかわからないところです」
「嫌われるより好かれる方がいいでしょ」
「それもそうなんですけどね」
前にみあに妙な奴に好かれると言われたことを思い出す。
美依奈は妙な奴というわけではないが、モデルという特別な仕事をやっているから普通の人と言うには憚られる。
「って、どうするんですか? このまま変身したんじゃバレますよ」
「このまま、ね……かなみちゃん、私が何も考えていないと思ってるの?」
「え、何か考えてあるんですか?」
かなみは素直に驚いた。
「か、かなみちゃん、ね……」
千歳は引きつった顔でかなみを見る。
「まあいいわ。とにかく、今度こそ当たりを引いちゃったみたいだから」
それを聞いて、かなみの緊張が高まった。
「だあくまたあのは制限はこの駅みたいだし」
次の瞬間、緊張は削がれた
「千歳さん、ダークマターが言えないんだったら魔法とか別の言葉に置き換えらればいいじゃないですか」
「い、意地があるのよ。ぷらりどってやつよ」
「プライドですよ」
「そう、それ!」
「千歳さん、何か呪いにでもかかってるんですか?」
「かなみちゃんの金運よりはいいつもりよ」
「それを言わないでください。あ……」
かなみは床を見てみる。
「十円!」
落ちている五円玉を拾う。
「ほら、私の金運もバカにしたものないでしょ」
「五円で得意顔されても……電話も出来ないから微妙な気がするんだけど」
「え、電話なら携帯があるじゃないですか?」
「あうう……」
千歳は頭を抱える。
「まあ、そんなことはどうでもいいから」
「よくないですよ! 五円あったら一食食べられる工夫する余地があります!」
「かなみちゃん、私が生きていた時代よりシビアな金銭感覚ね」
一円あったら一食食べられる。そんな時代があった気がするが、かなみが知る由もないことであった。
「それより、とうとうついたわ」
そう言われてかなみは五円をポケットにしまって、気を引き締める。
これまで僅かばかりに感じていた魔力がより強く感じるようになってきた。
その先にあったのは改札口だった。
「あそこをくぐると、らんたむに選ばれた人が怪人にされてしまうのね」
「千歳さん、あえて何も言いませんが」
「……言い直すわよ。無作為に選ばれた人が怪人になる仕組みみたいね」
「そう言ってくれた方が気が緩まずにすみます」
かなみはそう言ってポケットからコインを取り出す。
「あ、でも、こんな人が多いんじゃ変身できませんよ」
「大丈夫よ。かなみちゃん、変身するときに光を発するでしょ?」
「はい、変身するときの様式美だとか」
「あれを凄く強くすればいいのよ」
「そんなこと出来るんですか?」
「出来ないなら、罰金よ」
「出来ます! やってみせみます!」
かなみはコインを天井へ掲げる。
「マジカルワークス!」
かなみはコインを宙へ舞い上げる。
いつもより、強く、光り輝く、変身を。
最高の輝きをもって、黄色の魔法少女が降り立つイメージを描く。
そして、その通りに衣装を纏う。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
黄色の魔法少女が立つ。
怪人の中に普通の人が紛れているはずなのに、変身してしまった。
しかし、視線を感じるのは千歳ただ一人。
あまりにも強い光を浴びたせいで普通の人間だけじゃなく、怪人までも目が眩んでしまい、まともに見えなかったようだ。
「うん、さすがね。かなみちゃん」
「なんだか、最近こんなのばっかりな気がします」
「やろうと思って上手く出来ることなんてそうそうないわよ。もっと自信持ちなさい」
「まだまだ上には上がいると思うと、自信なんて持てませんよ」
「謙虚なのはいいことよ。それじゃかなみちゃんに自信もってもらうために、あれをさっさと倒すわよ」
改札口が変形して怪人メカになる。
「きぃぃぃぃぷぅぅぅぅぅッ!」
電子音声だというのに、とてつもなく薄気味悪く甲高い鳴き声を上げる。
「恐ろしく耳障りね」
「時間がありませんから、ちゃっちゃっと終わらせます!」
目が眩んだといっても、すぐに回復する。そしたら、人の目に触れてしまう。
時間が無い。だからすぐに倒してしまうべきだ。
「時間は十秒かしらね」
「十秒あれば十分です!」
カナミはステッキを振って、その勢いで鈴を飛ばす。
それを合図に怪人メカと普通の人に紛れていた怪人達も動き出す。
「糸界しかい」
千歳が密かに張り巡らせた魔法の糸に怪人達は絡め取られる。
「あ、名乗り忘れていたわね」
魔法で編まれた衣装に身を包んだ緑色の魔法少女が颯爽と現れる。
「鋼の絆の紡ぎ手、魔法少女チトセ参戦!」
これでカナミは正面の怪人キィプに集中できる。
しかし、ただ倒すだけではカナミの気がすまない
「ジャンバリック・ファミリアッ!」
鈴の一斉発射で、怪人達を薙ぎ倒す。
許せなかった。
知らない間に町に徐々に侵略していく様が、好き勝手にされているようで腹立たしい。
「ああ、私のお膳立ては必要なかったみたいね」
チトセは満足気に言う。
「いいえ、チトセさんがいて良かったです」
カナミの魔力を迸らせる。
そのあまりの勢いに背中の髪が巻き上がる。
「思いっきりやりますからお願いします」
「仕方無いわね」
チトセは糸で怪人キィプの周囲に張り巡らせる。
それは怪人の身動きを拘束するためではなく、カナミの攻撃で被害を出さないためである。
「遠慮なくやっていいわよ」
「はい、遠慮なんてしません! 神殺砲!!」
ステッキが大砲へと変化する。
ありったけの怒りを魔力に変えて叩き込んでやる。
「ボーナスキャノン!!」
急に光が強くなって目を開けていられなくなった。
「な、何……?」
しかも、目を開けられない。
ちゃんとかなみをつけていたはずなのに、どうしてこんなことが起きたのだろうか。
そういえば、かなみと撮影した時も似たようなことが起きた気がする。
かなみと一緒にいると決まって不思議なことが起きる気がする。
どうしてこんなことが起きるのか、かなみが関係しているのか、知りたい。どうしても知りたい。
そんな想いに突き動かされてかなみをつけていた。
かなみは仕事に出掛けたと思った。
これも仕事の一環なのかと思っていたのに、何をしているんだ。
誰かをつけまわしたと思ったら、駅に入って電車に乗った。その誰かというのがいまいちよくわからないのも問題だ。特徴をあげようかと思ったら何も思い浮かばない。強いて言うなら、影が薄いことぐらいか。
その人の方は見失ってしまったせいで、もうどんな人だったのかも思い出せない。
かなみ達も気にしていないようだったし、また違う人をつけ回していた。
今度は数分、駅の中でつけていたらもうやめた。
一体何をしているのだろうか。
これも仕事なのだろうか。いや、こんなのモデルの仕事じゃない。だったら、何の仕事でこんなことを。
その疑問が晴れるまで今日はとことんつけよう。
一度決めたら最後までやる。
しつこい子だと自覚はある。それになんだか楽しくなってきた。
まるでアニメや漫画に出てくるような――
「あ!」
そこで美依奈は気づいた。
その矢先の閃光だ。
ドォン!!
その直後に爆音が鳴り響いた。
鼓膜が破けるぐらいの勢いの凄まじい音。耳元で最大音量のスピーカーをいきなり鳴らせたような気分だ。
「う、う……」
美依奈は両手で耳を抑える。
目がくらんだ上に、耳までやられて、これで倒れない方が不思議なくらいだ。
「大丈夫、美依奈ちゃん?」
「え?」
いきなり声をかけられた。
しかもつけていたはずのかなみが声をかけてきた。
気づかれた、とか、なんて言われるか、とか、軽蔑されるんじゃないか、とか、そんな思いが駆け巡って焦る。
「あ、あ、こ、これは……!?」
「大丈夫、美依奈ちゃん?」
かなみはもう一度訊いてきた。それで少し落ち着く。
「う、うん……だい、じょうぶ……」
美依奈はゆっくり答える。そして、ゆっくりと目を開ける。
「そう、よかった」
目がくらみかけた。
かなみの笑顔があまりにもまぶしくて、まともに視ることが出来なくなりそうになった。
「かなみちゃん……」
「いきなり、眩しくなってビックリしたよね」
「う、うん……」
「そのあと、爆発もあって鼓膜が破れるかと思ったわ」
「う、うん……」
罰が悪かった。今更ながらつけ回していた罪悪感がこみ上げてきてまともに返事が出来ない。
「か、かなみちゃん……」
「な、なに?」
自分の方から言ってみて、かなみはおどける。
そのかなみの姿を見て、決心する。
「私、かなみちゃんの仕事が気になって見てたの」
「え、ああ、そうだったの!?」
実はかなみの方は知ってたのだが、わざと驚いてみせた。
「わ、わた、私は仕事なんてしてないよ。ただブラブラ歩いてだけなのよ、あはは」
なんて、下手くそなごまかし方だと我ながら思う。
「それで、何の仕事をしたのかわかったのよ」
案の定、まったくごまかせていない。
「え、わたしのしごとなんてしていないよ」
しかし、それでもごまかさなければならない。何しろ罰がかかっているのだ。
借金が
「あのね、美依奈ちゃん! 私は今日休日だから仕事はしていないんだから!」
「かなみちゃんの仕事って、」
「やめてええええッ!!」
かなみは阻止する。しかし、美依奈は気にせず続ける。
「――探偵だったのね」
「へ?」
かなみは呆然とする。
「だって、そうじゃない。よくわからない人を次から次へと付け回して。あれってアニメや漫画でよくやる尾行ってやつでしょ。ちょっと怪しい感じがしたけど、ちょっとかっこいいかもって思ったよ」
「え、ええ、ち、違うの! 美依奈ちゃん!」
かなみは必死に誤解を解こうとする。
しかし、このまま誤解してくれればかなみにとっては都合がいいのだが、そこまで今のかなみには頭が回らない。とにかく探偵だと誤解されても困るとしか考えられない。
「私は探偵じゃなくて……仕事は!」
そこまで言って我に返って口を塞ぐ。
「だって、そんなこと探偵じゃないとやらないじゃない。探偵って大ぴらに言えないものだから隠したいのも納得がいくし!」
「いやいや、違うんだよおおおッ!!」
「でも、こうやって簡単に推理に出来る当たりまだまだ未熟ね」
美依奈は得意気に言ってくる。その推理は的はずれなのだから手に負えない。
「美依奈ちゃん、誤解だから! 私、探偵なんてやってないよ!」
「ああ、じゃあモデルに鞍替えを考えているのね」
「だから、違うの! あとモデルになるつもりもないから!」
「じゃあ、やっぱり探偵を目指すのね」
「そうじゃないわよ! 美依奈ちゃんは一度思い込んだら一直線なんだけど……それって時と場合によったら最悪なんだから!」
かなみは必死に弁解する。
この後、しばらくかなみと美依奈は誤解と弁解の応酬は続いた。
かなみも頑固なのだが、美依奈もそうだったということか。
ちゃんと声をかけて誤解を解こうとしたのが間違いだったのか。でも、そんな思い込みが強い美依奈を嫌いになれず、むしろより仲を深めることが出来た気がして少し嬉しかった。
プ、プ、プ、プ……
手慣れない手つきで携帯電話のボタンを押す。
「あ~あるみ?」
『そうだけど、あなたからかけてくるなんて珍しいじゃないの』
「そりゃ、報告ぐらいしようと思ってね」
『別にいいのにね。こっちもちゃんと確認してるんだから』
「何事なのよ。こんなこと今まであったの?」
『うーん……覚えている限り無いわね』
「あんた、記憶力悪いから信用できないわよ」
『でも、これはカリウスのやり口じゃないわね。でもカリウスの感じがするわ』
「はあ、言ってる意味がわからないんだけど」
『なんていうか、カリウスの絵図面通りに動かされている感じがするわ』
「うーん、それはまた不穏ね」
千歳は首を傾げる。
「なんだか昔を思い出してきたわ」
『昔、何年前よ』
「私が生きてた頃よ。なんだか、きな臭い感じが」
『ああ、じゃあ彼はとうとう始める気なのね』
「始めるって何を?」
千歳にはあるみが次に何を言うか予想は出来た。
ただそれでも、確認はしておきた。というよりも自分の口から言うのが少し怖かったのもある。
その気持を察したのか、あるみはすぐに答える。
『――戦争よ』
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