第9話 発掘! 夢と浪漫が魔法少女の生きがい!! (Aパート)

「ほらほら、みんなもうすぐつくわよ!」

 ワゴン車の助手席に座るあるみは外の景色を眺めて大いにはしゃぐ。

 外は一面野山で緑に溢れている。人の住んでいる気配なんて感じない山奥である。それでもちゃんと整備された道路があるのだから人の交流があることは感じられる。

「なんで、そんなにはしゃいでるんですか?」

 荷台に押し込められた翠華とみあはとてもそんな気分になれなかった。

「いいじゃないですか、翠華さん。私も張り切ってるんですよ!」

「そりゃ、あんたにとっては死活問題だからね」

「そういうみあちゃんもいい顔してるよ。楽しんでるじゃないの?」

「そそ、そんなわけないでしょ! こんなイナカ、来たくて来てるんじゃないから!」

 かなみに指摘されて、みあは普段以上に強い声で返す。

「そんな景色にがぶりついてたら、説得力はないわね」

「うるさい! さっさとサンドイッチよこしなさい!」

「みあちゃん、翠華さんがせっかく作ってきてくれたんだからそういう言い方はないよ」

「いいのよ、かなみさん。ほらほら、遠慮しないで」

「じゃあ、遠慮なく」

「ちょっとかなみ、食べ過ぎよ! どんだけ飢えてんのよ!?」

「昨日から何も食べてなくて……翠華さんのご飯は本当にありがたいです」

「こんなもので良けれあ毎日作ってもいいわよ」

 言った後、翠華はハッと気づく。

「ま、毎日……」

 それではまるで告白みたいじゃないか、と。

「い、いえ、いいですよ。さすがに毎日だと悪いですから!」

「あたしも毎日来られたら迷惑ね。ま、まあ、たまにならいいけど」

「みあちゃんちのご飯は三ツ星だからね、毎日でも食べたいよ」

「か、かなみさん、私なら毎日でも大丈夫だから遠慮しなくていいわよ!」

「うわ、キモイ……」

 翠華の熱意にみあはドン引きする。一体何がそこまで彼女を駆り立てるのか理解できていない。

「ウフフ、仲睦まじい会話ね」

「僕としてはもっと慎んで欲しい所なんだけどな。やっぱり女の子はおしとやかに限る」

 ワゴン車の運転主を務める鯖戸は不満を漏らす。

「あら、私はおしとやかじゃないっていうの?」

「君の場合、それ以前に女の子じゃないという問題があるじゃないか」

「女の子はどこまでいっても女の子よ」

「君だったら宇宙の果てへでもいけそうだよ」

「フフ、銀河の魔法少女っていうのもいいわね」

「なんか、凄いスケールアップされているんだけど」

 そんな二人の会話を聞いていたみあはぼやく。

「でも、社長が言うと誇大妄想に聞こえませんね」

「どっちかっていうとブラックホールじゃないの」

 それもありね、と全員が同意する。

「どうせなら、私の借金も吸い込んでって欲しいな」

「かなみちゃん、そんなブラックホールがあったら金融機関は破滅するわよ」

「ブラックホールってとこは否定しないんだ」

 みあは意外そうに言う。

「まあ、それがチャームポイントでもあるからね」

「ブラックホール女のどこが魅力なのよ?」

「吸い込まてみたい男だって世の中にはいるのよ」

「吸い込む、というか巻き込んでくる男ならここにいますが」

 かなみは遠回しに運転手に悪態をつく。

「うーん、かなみ君の場合巻き起こす女だと思っていたけどね」

 その運転手はかなみに反撃する。

「プ! それは言えてるわね」

「みあちゃん、どっちの味方なのよ」

「決まってるじゃない、強い方のよ」

「わ、私はどんな時でもかなみさんの味方よ!」

「ありがとうございます、翠華さん。翠華さんさえいてくれれば百人力です~」

 かなみは翠華に擦り寄る。

「は、はうッ!? かなみさん、ち、近い!」

 翠華は顔を真っ赤にする。

「はいはい、おノロケはそれぐらいにして。仔魔こうま、そこで止めていいわよ」

「人使いが荒いことで」

 そうしてワゴン車は止まる。

 そこから降りると、雄大な山々が連なる自然が広がっていた。

「ついた! ほらほらみんな、いくわよ! やっほー!!」

 力の限り、あるみは叫ぶ。山びこで何度もその声が響いていく。

「なんだって、そんなにでかい声出す必要があるんですか?」

「まったくよ、歳を考えなってんのよ」

「ええい、こうなったらやけくそよ! やっほー!」

 かなみも何故か負けじと叫ぶ。

「いいね、かなみちゃん。いいやけくそ具合よ」

「どんな具合だよ、それは」

「いいからいいから、あんたもやってみなって」

「遠慮しておくよ。ここまでの運転で十分緑は満喫したからね」

「つれないわね。そんなに運転手させられたのが気に食わないの?」

「半日もぶっ通しでやらされたら誰だって不機嫌にもなるよ」

「まったく小さいわね。せっかくの社員旅行だってのに」

「旅行するなら電車かバスを使えばよかったじゃないか」

「せっかくのワゴンでしょ。今使わないでいつ使うのよ」

 と、出発前にもやったやり取りをここで再現される。

「部長、珍しくすねてるわね」

 かなみは嬉しげに言う。

 日頃の恨みからか、彼が不機嫌になると御機嫌になるのであった。

――みんな、すっかり旅行気分なのね

 そこで今まで黙っていた『彼女』が口を開く。

「でも、あなたの目的もちゃんと果たすつもりだから安心してね」

「期待してるわよ、なんだか旅行のオマケというか楽しむための口実にされてるみたいだからいい気分じゃないのよ」

「任せてよ。生死がかかってるんだから、そりゃ必死になるわよ」

 かなみは腕を握りしめて、やる気を『彼女』に見せる。

 『彼女』はそれを見て微笑む。

 緑色の髪を上げて、彼女は山々を見回す。その顔には懐郷の念がかいま見える。

「でも、久しぶりの故郷に来れてよかったわ。それだけでも感謝していいわね」

 フフッと『彼女』は笑う。そのままふわりと綺麗に消えてしまいそうな、そんな儚い笑顔だ。

「でもね、やっぱり目的を果たしてくれるところを見るまで成仏はできないわね」

 だけど、『彼女』は消えない。『彼女』は幽霊といってもいいけど、成仏はしない。少なくとも、今は。

「なんか、執念みたいなものを感じるんだけど……この場合、怨念って言った方がいいかしら?」

 みあは身震いする。

「フフ、お好きな様に言ってくれて構わないわ」

 その笑顔の裏にある執念を感じてかなみ達は恐怖する。

 彼女は千歳ちとせ。

 以前、かなみと出会った緑髪の魔法少女なのだが、その時よりもはっきりと存在を認識することが出来る。それはより強い魔力によるもので、あるみもその強い魔力に関心を寄せていた。

 何故彼女がこの場にいるのか、話は一週間前に巻き戻る。



「ちょっと待ちなさい」

 ある日、オフィス内でかなみはあるみに呼び止められた。

「なんですか?」

「妙なモノを持っているわね」

「妙なモノ?」

 あるみはかなみの腕を掴む。

「え? なんですか?」

「どこでつかれたのかね」

 かなみには言っている意味がわからなかった。

「疲れた? ええ、疲れていますけど」

「そうじゃなくて……憑かれているのよ」

「意味がわかりません」

「ま、いいわ……――出てきなさい」

 ドスのきいた声が響き渡り、空気が震える。

「――ッ!?」

 かなみは震え上がる。その声を向けられた対象が自分だったらへたり込んでいた。その対象が自分だったならの話だが。

――うわ、驚いた!

 かなみの袖のポケットからクルンと風が巻き上がる。

「うわ、なんなの!?」

 現れたのは緑色の影。それはいつか見た少女の面影であった。

「うーん、やっぱりバレちゃうか」

 少女は悪戯っ子のように笑う。

「バレちゃうかーじゃないでしょ。うちの社員にちょっかい出しておいてよく言うわね」

「あー、あんたがボスなのね。お初にお目にかかります」

「こちらこそね。私は金型かながたあるみよ」

「私は千歳ちとせ。こっちの娘は初めてじゃないけどね」

「ああ、前に会ったわね。無理矢理飲まされたことはよおく憶えてるわ」

「そんな恨めしそうな目で見るなんて、あなたの方がよっぽど幽霊らしいわね」

「あはは、それは言えてるわね!」

「社長、どっちの味方なんですか!? って、幽霊!?」

 そこで少女がどういった存在なのか、かなみは知った。

「かなみちゃん、気づかなかったの?」

「いえ、だってゆ、ゆゆゆ、幽霊なんているわけないじゃないですかぁッ!?」

「魔法少女だって現実にいるのに、今更幽霊で驚くこともないじゃない」

「い、いえいえいえいえいえ、それとこれとは別問題ですよ!」

「どこが別問題なのか理解に苦しむわね」

「平気でいられる社長の方が理解に苦しむ」

「――だって幽霊より怖いものなんてこの世にいくらでもあるし」

「……へ?」

 徐ろに呟いたあるみの一言はあわてふためくかなみを黙らせた。

 それだけの迫力と重苦しい雰囲気がその一言に集約されていると感じたからだ。

「まあ、でも魔法って使う人の意志を現実に引き起こすものだから」

 だが、その後の一言はそんな雰囲気を微塵も感じさせることのない、いつもの軽い調子のあるみであった。

「強い意志が魔力としてその人が死んだ後でもこの世にとどまっていて、それが残留思念として幽霊のように見えていても何の不思議はないわけよ」

「そ、そういうものなんですかね……」

 あるみが解説してくれても、かなみは千歳に対する恐怖は拭い切れないでいた。そもそもかなみにとっては幽霊という認識が大前提としてあるため、どんな説明を受けてもそれを取り去らないと解消はできないのだ。

 そこまでいくと個人の感情なので、あるみもさすがに立ち入れるものではなかった。

「まあ、千歳ちゃんの存在自体が魔法だと思えばいいのよ」

「存在自体?」

「ようするに、マニィとこのリリィと同じようなものよ」

 あるみは肩に乗っている龍のマスコット・リリィを差して言う。

「それはちょっとさすがに、随分とあんまりじゃないかしら?」

 千歳は笑顔で冷たく言い放つ。

――怒っている、と。それはかなみに『幽霊である』ことを忘れさせ、別の恐怖を抱かせるほどはっきりとした、笑顔の怒りだ。

 まあ、マニィはネズミなのだから、それを同じように扱えというのは『お前はネズミ』だと言っているとも受け取れる。

「――私は幽霊だけどネズミじゃないわ」

「気分を害したなら、謝るわ。この子にとってのおまじないになればいいかな程度に言ってみただけだから」

「そう。謝ってくれるのなら私もそこまで心が狭いわけじゃないから許してあげるわ」

「あげるって……ちょっと、上から目線なのね。――ちょっと気に喰わないわね」

 今度はあるみの癇癪に障ったらしく、目に見えてはっきりとわかるぐらいの怒りを露わにした。

「あら、気に食わないモノ同士、仲良くできないってことかしら?」

「いいえ、仲良く出来るってことよ」

 フフッとあるみは不敵に笑う。

「なんなの、この二人」

 かなみは今すぐにでもこの場から逃げ出したい気持ちになってきた。

 視線だけでバチバチと火花を散らせる、その様はまるで魔法のようであった。もっとも、魔法少女を名乗る者にしてはあまりにも激しく黒い感情――怒りのモノであった。

「そういった手合いなら慣れたモノなのよね」

「あなた、中々の経験値ね」

「あなたもね。残留思念だけの魔力でみあちゃんレベルだなんて、規格外もいいところよ」

「あなたの言う規格っていうのがどれほどのものか、ちょっと興味があるところだけど。まあ今の私には大した魔力ちからは無いわ」

――みあちゃんと同じくらいで?

 何気なく話しているが、かなみにとっては魔法少女としてかなり上のレベルの話をしている気がしてならない。あるみの言う残留思念が魔力になっているということは理解できた。死んだ人がこの世に残した魔力という意味ではあるみの話からそれほどの量はないはずなのに、それだけでもみあと同じレベルだというのなら、自分よりも実力は上なのではないか。そう考えるとこの千歳という存在に恐怖を覚えずにはいられなくなる。

「それで大したこと無いんだったら、本体はどんだけ化け物なのよ? こっちも興味がわいてきたわ」

「残念ながら本体はもうとっくにこの世にはないのよね」

「あなたほどの魔法少女が死ぬって一体何があったのよ?」

「戦争よ。空襲って言ったらわかるかしら?」

「ああ、私が生まれるはるか前の話ね」

「そんなに歳違わないはずでしょ?」

「へえ、それはあんた歳を数えられないほどバカなのかしら?」

 再び雲行きが怪しくなってくる。もうスコールかサイクロンがきた方が安全なのではとさえ思えてきた。

 なんで、私この場にいるんだろう、と。かなみは己の不幸を呪うばかりである。

「ごめんなさい、結構歳くってるように見えたからね。その若さでその経験値はちょっとずば抜けすぎてるから」

「色々あるのよ。人生色々、女も色々ってね」

「ふうん、あなたの人生も面白いけど……今はそれどころじゃないのよね」

「なに、急用かしら?」

「いいえ、依頼よ」

「依頼?」

 これに反応したのはかなみだった。

「そう、あなた達に頼みたいことがあるのよ」

「ゆーれいが依頼主って報酬は大丈夫なの? うちは零細企業だから報酬無しじゃ動けないのよ」

「この前、結構儲かってたじゃない」

「たまたま羽振りのいい黒服の連中がいたからよ」

「私だって羽振りのいい魔法少女のつもりよ」

「その貧相な格好のどこが?」

「ふうん、どこが貧相なのか教えて欲しいところだけど……!」

 また、どうしてこんな挑発のしあいをするのか、とかなみはまったくもって生きた心地がしないのであった。

「第一、あの身体のどこが貧相なのよ……」

 かなみは密かに呟いた。確かにあるみほどではないが、千歳も相当良い身体つきをしているように見える。特に胸のあたりなんか。

「ま、いいわ。ここであなたとも言い争っても仕方ないわ」

「そうね、時間も惜しいところだし、依頼と報酬を手短に頼むわ」

「命令されるのは気に喰わないけど、そうも言ってられないから大目に見るわ。じゃあ、依頼だけど『私の宝物を探し出す』ことよ」

「あなたの宝物?」

「そう、空襲で家を焼かれそうだったから、家宝を疎開先に埋めておいてそのままにしたままなのよ」

「家宝とは、また大きく出たわね。あなた、良家の生まれなの?」

「それなりにね。まあ、今の貨幣価値にするとどのくらいの値がつくのかわからないけど、それを報酬にしていいわ」

「オーケー、わかったわ。あなたの言うとおり、今は羽振りがいいからね」

「感謝するわ」

「それで、埋めた場所ってどこなの?」

 あるみは書棚から地図を取り出す。

「ここよ」

「まーた遠いところね。日帰りは難しいから泊まりか……」

 そこまで言ってあるみはニヤリとかなみを見る。

「な、なんですか?」

「せっかくだから旅行しましょうか? ちょうど社員旅行ってやつ、やってみたかったところなのよ」

「しゃ、社員旅行!?」

「そうと決まれば、仔魔こうまに報せなくちゃね! あ、かなみちゃん、翠華ちゃんとみあちゃんに連絡よろしくね!」

 あるみはそう言って、上機嫌でオフィスを出て行く。

「まったく、嵐みたいな人ね」

「あはは、巻き込まれるこっちは迷惑なんだけど」

 かなみは乾いた笑いで返す。

「って、なんであんたここにいるのよ!?」

 かなみは千歳が半ば幽霊だということを忘れていたことに気づく。

「だって、今はあなたが私の持ち主みたいなものだから」

「え、えぇ、どういうこと!?」

 わけがわからずかなみは錯乱する。

「まさか、私にとりついたの!?」

 そして、極端な思考に陥るのがかなみの癖であった。

「あわわ!? やめてやめてくださいよ! 私につかないで! 私はおいしくないですよ!」

「あなたが、幽霊をどう思ってるのかも興味深いけど、とりあえず落ち着いて」

「落ち着いてますよ、私はれーせーですよ。だから、私を食べないでください」

「だから、私は取り憑いたりしないし、そもそも食べないわよ」

「嘘よ! だってこの前、みあちゃんにとりついてたじゃない!?」

「ああ、あれは非常事態だったからよ」

「つまり非常事態だったらとりつくってことなの!?」

「あなたって面倒ね、わかったわあなたに取り付かない、神に誓ってもいいわ」

「ほ、ホント?」

「ホントよ」

「じゃ、じゃあ、信用するわ……」

「了解、これでやっと話ができるわね」

 千歳はため息をつく。心なしか少しつかれているように見える。

「あなたが私の持ち主って言ったわけはね。あなたがこの前私を拾ってくれたからよ」

「え、私あなたなんて拾ってなんかいないけど」

「この間の髪裂きカミキリよ」

「ああ、あのあんちくしょうね」

「もっと言葉を選んだ方がいいわよ、ヘンタイとかクソヤロウとか」

「いや、それもどうかと思うんだけど」

 今まで黙っていたマニィが口を出す。

「あ、あんちくしょうといえば!」

 かなみは思い出したように制服のポケットから緑色の髪を取り出す。

「拾ったのってこれだったんだけど……」

 あの髪裂きカミキリを倒したら、落としたのがこれだった。あのヘンタイの持ち物というだけでもゾッとしたが、これを拾わずにはいられなかった。なんだか、拾わなくてはならない不思議な魅力を感じてしまったからだ。

「そう、それよ。それ、私の遺髪なのよ」

「え……?」

 かなみは青筋をたてる。

「髪には私の魔力を大量に込められてるのよ」

「つ、つまり、これがあなたの……!?」

「そう、魔力媒体よ。そこに込められた私の魔力が今の私を形成してるってわけよ」

「――そう、そういうことだったのね……!」

 かなみは静かにそう言って、何かを決意したかのようにオフィスの窓を空ける。

「ちょっと、何するつもりよ!?」

「こんな……こんなものがあるから、あなたが私にとりつくのよ!?」

「だから落ち着きなさいって! 私はあなたに取り付いたりなんてしないわよ!」

「ええい、こんなもの捨ててやる!」

「全然聞いてないわね! ああ、もうしょうがないわね!」

 千歳は高速で動いて、窓際のかなみの文字通り目の前に立つ。

「ひいッ!?」

「いいこと、よく聞きなさい! その髪がないと私はこの場にいられないの! もし捨てたりなんかしたら、末代まで呪ってやるわよ!」

「は、はひぃぃぃッ!?」

「だから大事にポケットにしまいなさい。わかった?」

「は、はい、わかりました……」

「わかればよろしい」

 ヘナヘナとかなみはその場にへたり込む。

「どうしよう、マニィ?」

「仕方ないよ、あるがまま受け入れるしか無いよ」

「その結果が借金まみれじゃない」

「それは星のめぐりってやつだよ。まあ、単純に運が無いともいうけど」

「く……!」

「なんで、こんな娘に拾われたんだろう……? どうせならみあちゃんみたいな子供に拾って欲しかったんだけど」

「じゃあ、みあちゃんにあげます」

「そんなことしたらどうなるかわかってるでしょうね?」

 ニコリと千歳は笑顔で脅す。

「ご、ごめんなさい!」

「あなたが拾ったんだから、あなたが責任とりなさい」

「は、はい……」

 どうしてこんなことに……とかなみは後悔を募らせずにはいられなかった。



 そういうわけであっという間にあるみは鯖戸に話をつけて、無理矢理予定を空けて、急遽社員旅行を決行することになったのだ。

「本当に思い立った吉日を地で行く人よね」

 みあは山を見てはしゃいでるあるみを見て悪態をつく。

「それにしてもあの人、全力で楽しんでいるわね」

「ああいうのを年甲斐も無くっていうのよね。なんとかしなさいよ、部長」

「僕に言われてもな……彼女のああいうところが彼女の強さでもあるから」

「じゃあ、私達もあんな風にすればあいつみたいに強くなれるってこと?」

「それはわからない。魔法の強さは人それぞれだし、魔力っていうのは感情がチカラとして形になるものだから、自分に正直にいるものほど強いのかもしれないってことさ」

「自分に正直に、ですね」

 翠華は念じるように言う。

「かなみさん、私も頑張るわ!」

「え、ええ、頑張りましょう」

 かなみの頭の上には「何を?」の疑問符がついたのは言うまでもない。

「盛り上がるのはいいけど、旅の目的は忘れないようにね」

「はいはい、わかってるわよ。でも、こんな山中でどう探せばいいのよ?」

「それなら心配ないわ。宝には私の魔力を込めているから、あなた達なら察知できるわ」

「法具ほうぐと同じ要領なのね。でも、何も感じないけど」

「そりゃある程度近づかないとダメよ」

「ある程度ってどのくらい?」

「一メートルくらい」

「はあ!?」

 みあは文句の叫びを上げる。

「ちょっとバカ言わないでよ! こんな山ん中でそんな法具を手がかりなしで探せっての!?」

「一メートルは冗談よ。そんなに本気にされても困るわ。そうね、感知能力には得手不得手があるから範囲は人それぞれね。私が見たところ、みあ、あなたが一番得意そうに思うわ」

「え、私が?」

「確かにかなみは鈍感そうだからな」

 余計なことを言うマニィをかなみは「うっさい」と叩く。

「でも感知能力だったら翠華さんもありそうなんですけど」

「かなみさん……」

 翠華は頬を赤らめる。

「子供だから感覚が鋭敏……っていう理論があるわけじゃないけど、あなたの場合それが強い気がする。私とも相性がいい気がするしね」

「なんだって幽霊と相性なんか……」

「だから、最初に会った時、みあちゃんにとりついたわけね」

 こころなしか、かなみは嬉しそうに言う。

「そういうことよ。かなみとも相性がいい気がするけどね」

 かなみはブルッと背筋を震わせる。

「か、勘弁して下さい!」

 かなみは思いっきり退く。

「翠華とは悪いと思うわ」

「よかった」

「――翠華さんが羨ましいです」

「え、ええ?」

 思いもよらないところで尊敬の視線を受けたことで翠華はうろたえる。

「あのね、かなみさん。そういうことで羨ましがるのもどうかと思うんだけど。というより、目が本気で怖いのよ!! あ、でもこれはこれで嫌いじゃない、というかむしろ好きというか」

「はいはい、のろけはそこまでにしなさいな!」

 あるみが仕切りに戻ってくる。

「ここからは二人一組になって、宝探しよ!」

「二人一組?」

「その方が効率的だし、何かあったとき対応しやすいからね」

「でも、私達って五人ですよ?」

 かなみが言うようにマスコットを除くと、あるみ、かなみ、翠華、みあ、鯖戸の五人である。幽霊である千歳ももちろんかなみなのだから数に入れていない。

「誰か一人になるってこと?」

「ああ、仔魔こうまは先に宿をとってもらうから問題無いわよ」

「まったく人使いが本当に荒いんだから」

「先に温泉つかる権利をくれてやるんだから役得もいいところでしょ」

「はいはい、そういう心遣いには感謝するよ」

 そう言って鯖戸はワゴン車に乗り込んで去っていく。

「宿ってこんなところにあるの?」

「なに、みあちゃん? もしかして野宿をご所望だったかしら?」

「冗談言わないでよ! だって、こんな山と畑しかないところでクマにでも襲われたらどーするのよ?」

「クマ鍋にありつけるわ」

「あ、それいいかもしれませんね」

「かなみさん、そういうサバイバルしにきたわけじゃないのよ」

「あはは、毎日がサバイバルみたいなものですから」

 苦笑交じりにそういうかなみを不憫に思う翠華であった。

「ともかくちゃんとした宿だから、お宝を見つけたらすぐに温泉といきましょうか」

「社長、料理はあるんでしょうね?」

「山の珍味がでるはずよ」

「ち、珍味……!?」

「え、そこ怖がるところなの!?」

「珍味っていいふうにもわるいふうにもとらえられますからね」

「ま、それは出てからのお楽しみね。野山を駆けずり回ってお腹をすかせましょう!」

「よおし、お宝手に入れて、温泉入って、おいしい料理を食べるぞお!」

 かなみのやる気は大いに燃え上がる。

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