高校生の内藤祐哉は、二ヶ月前に母を事故で喪い、父と弟と三人で暮らしている。部活動をやめ、まだ幼い弟・洋介の面倒をみる日々。買い出しに行き、学童に迎えに行き、宿題もみてやらなければならない。
ある日、内藤は、買い物中に同級生の佐竹煌之に声をかけられた。イケメンで成績優秀だが無愛想な佐竹を、内藤は始め敬遠していたが、意外に親切で料理も出来、幼い弟の相手もしてくれるので、次第に心をゆるすようになっていった。
やがて、内藤は悪夢をみるようになる。闇の向こうから彼を呼ぶ声に悩ませられていたが、ある時、闇が空間に口を開け、彼を吸い込んだ。内藤は、咄嗟に連れていた洋介を、佐竹に託す。
しかし、佐竹もまた、友を救うため、その闇の中へと飛び込んで行った。
遠く時空を隔てた異世界。いがみ合う二つの国、別々の時間と場所にたどり着いた二人は、再会し、元の世界に戻ることが出来るのかーー。
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性格の極端に違う主人公二人が、白と黒に象徴される《鎧》によって召喚される異世界FTです。召喚のされ方も、やや特殊です。異世界の構成やそこで暮らす人々の特徴、政治体制や歴史、人間関係に至るまで、実に詳細に創りこまれています。
冷静沈着な剣士・佐竹と、感情的で涙もろい内藤、異世界の二人の王サーティークとナイトをつなぐのは、地球にいる内藤の弟・洋介と、サーティークの亡き妃とナイト王の弟なのだと感じました。それぞれの大切な人の為に、それぞれのやり方で努力する彼等が、実に魅力的です。
長い物語ですが、登場人物たちが問題をひとつひとつ克服していくさまには説得力がありました。彼等の努力が報われる結末に安堵させて頂きました。
芯に一本スジが通ったような、硬質な異世界FTをお好みの方に。お薦めです。
異世界に囚われてしまった高校生がヒーローとして活躍する物語…と聞けば、昨今流行りの漫画チックなライトノベルのように聞こえるが、完全に予想を覆してくれた。
素晴らしい! の一言でしか表現しようがないほどの「王道ヒロイック・ファンタジー」。
世界観、物語の進行もしっかりと構築されていて、知らぬ間にぐいぐいと物語の中に引き込まれてしまう。
物静かで礼儀正しく、女子供に優しく、しかも剣の腕が立つ主人公が、なんともカッコ良すぎ。こちらの世界では高校生の設定だが、異世界に囚われて以降、「本当に未成年?」と言うくらいの存在感を醸し出している。
シリアスなハイファンタジーは読み飽きない! という事を証明してくれる良作を多くの方に読んで頂きたい。
異世界へ招かれる王道なファンタジー物に見えて、細部ではオリジナリティが光っている作品でした。
一般的にイメージされるような中世ファンタジーが舞台ではなく、古代アジアや中国といった世界観。腕に自信があるので、剣で悪い奴らをなぎ倒す……といった展開ではなく、文官としての地位を確立していったり。更には算盤を開発したりと、この作品ならではの展開が繰り広げられ、飽きることなく楽しめました。
そうした異世界の文化、風土が緻密に設計されており、文章と相まってとても丁寧な作品作りであるなという印象を受けました。
派手な描写やスピーディーな展開を求める人には水が合わないかもしれませんが、重厚で骨太なファンタジーを求める人はきっと気に入ると思います。作風は違うと思いますが、読んでいて『十二国記』が脳裏に浮かびました。
個人的に好きなキャラは、ニッチかもしれませんがズールが好きです。最初は卑怯者の小悪党だと思っていたのに……。ネタバレになるので控えますが、ああいう漢気を見せられると好きになってしまいます。ある意味卑怯なキャラですね。
それぞれの『鎧』や世界の真相が徐々に明らかになり。これからが本番といった雰囲気なので、今後の展開に期待したいです。
作品のボリュームに恥じぬ面白さでした。