8 愉

 シャワーと後始末を終え、ぼくがベッドに戻ると井芹さんが布団の中にいる。

 もちろん部屋の電気は消えている。

 テーブルの上のスタンドだけが明度を落とされ、灯されている。

「裸体かな」

「下着を脱がせるのが好きだったとか」

「いや、どちらかというと苦手かな」

「そんな感じだよね」

「では改めて……」

 そう言ってぼくが井芹さんが横たわる布団に入り込み、キスから再開。

 また口の裏を味わい、ぼくの中で知らない井芹さんが減っていく

 それから舌で首筋と項を攻めつつ反応を覗う。

「あああ」

「弱点見っけ」

 そこから降りて胸を味わう。

 男なら誰でも好きな女性の部位だ。

「うーん」

「ここも弱点か」

 左胸を舌で右胸を指先で弄ぶ。

 徐々に先端がコリコリとした感じに変わる。

 ついで適度に硬くなったところを歯で攻める。

 犬の甘噛みと同じだが、ぼくの妻はこの行為が好きではない。

 ぼく自身も奉仕以上の感覚はないので妻とのセックスでは舐めるだけだ。

 けれども井芹さんは気持ちが良いらしい。

 少し離れて顔を盗み見てもそれがわかる。

 それからさらに皮膚を降り、腹部を味わう。

 井芹さんは、

「くすぐったいわ」

 と囁くが、ここも弱点の一つらしい。

 ついで下腹部まで進んだところで少しじらして背中にまわる。

 つまり井芹さんを仰向けからうつ伏せになるようにくるりとまわしたわけだ。

 手で触った肩甲骨がすごく華奢で、それが井芹さんに対するぼくの愛おしさを倍加させる。

「ああ、ああ、ああ……」

 と連続的に井芹さんが声を出す。

 確かにその声は小さく、誰かが部屋のドアの前に立ち、聞き耳を立てても聞こえないかもしれない。

 それで、ぼくはつくづくと行為中に大きな声を出す女性を誘うならシティーホテルか二重防音のラブホテルでないとダメだな、と思う。

 一瞬だけそう思ってから、また関心を井芹さんに戻す。

 胸から腹部を手で抱くように探りながら背骨の上に舌を這わせる。

 尻まで降りて、今度は両手で井芹さんの尻の丸みを味わいながらアナルを攻める。

 無論、嫌がる可能性もあるから反応を探りながらだ。

 すると――

「いや」

 と小さく井芹さんが囁き、身をくねらせる。

 そこで確認のために人差し指を入れようとすると井芹さん自身が手を動かしてそれを止める。

「今日はいやよ。また別の機会に……」

 開始してまださほど時間も経たないというのに、すでに息も絶え絶えに井芹さんが懇願する。

 だから、ぼくは井芹さんのアナル攻めを止める。

 そろそろ頃合かと見計らい、井芹さんを仰向けに戻して秘所を攻める。

 攻めるというより、ぼくが味わう。

 しばらく前から井芹さんの秘所が愛液で濡れ、膨らみ始めていることにぼくは気づいている。

 その感覚を愉しみながら、ぼくが井芹さんのクリトリスを味わう。

 人によって大きさや形はまちまちだが、井芹さんのそれは小さな豆のようだ。

 それが男の陰茎でいえば、ほぼ勃起した状態になっている。

 発生学的には男性性器に相当するから井芹さんの興奮度がわかる。

 そしてぼくの性器もそろそろ興奮してきたようだ。

「そろそろ入れたいけど、いいかな」

「うん」

「コンドームは井芹さんがつける」

「そうだな、やってみようかな。ふう」

 そう言ってゆうるりと井芹さんがベッドの上で起き上がる。

「取って来て」

 と言うので、ぼくがコンドーム箱を取りに行く。

 箱を明けて一袋を取り出し、井芹さんに渡す。

「暗いわね」

「スタンドの明かりが淡いからです」

「強くしていいわよ」

 それで、ぼくがスタンドの明かりを強くする。

「あ、それくらい」

「オーケイ」

「上手く付けられるかな」

「旦那さんにしてるんでしょ」

「だって宮野さんのペニスとは大きさも形も違うもの」

 そう言いながらも井芹さんが器用にぼくの性器にコンドームを巻きつける。

「はい、終了。電気は消して」

 それで、ぼくがスタンドの明かりを完全に消す。

 その直後、ぼくの視界が闇になる。

 スタンドの明かりを消すときにぼくがスタンドに目を近付けていたのだから当然だ。

 けれども徐々にぼくの目が闇に慣れる。

 夜になってから空が曇ったようで月明りはないが、それでも町の灯りが窓ガラスを通じて入ってくる。

「次はあるのかな」

「まだ、始まってさえいないのに」

「そうだね」

「うんと愉しませて」

 そう囁く井芹さんの瞳が濡れている。

 もしかしたら、ぼくの瞳も濡れていたかもしれない。

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