第719話 第2章 6-3 カンナの解放
「……いや、これはガリア封じというより、ガリア防御壁だよ……ガリアを遣わないと、通過できる」
「おんなじことじゃないのよお!!」
「い、いっかいガリアを消してから通って、向こう側でまた出せばいいんじゃないかな」
カンナの言葉に、二人がうなずく。
「あったまいい、カンナちゃん! そおよお。あいつら、ガリア封じが破られるなんて想定してないんだわ、きっと」
「向こう側で、また出ればいいけどね……」
ライバが半分笑いながら云う。そう云われると躊躇する。しかし、ここで立っていてもどうしようもない。
と……。
凄腕のガリア遣いだけが分かる、竜の殺気。振り返ると……いや、気がつくと、周囲に幾重にも大小のバグルスの輪ができていた。草原の中や斜面、崖下などから続々と出現する。中には背中に翼を持つ新型のバグルスまでおり、カラスめいて滑空し群がっていた。
その数、視界にあるだけでおよそ数百。
これが人間の兵士だったとしても、侮れない数だ。
中には、ぽつらぽつらと角が赤く光るバグルスが……。ガラネル得意の、ガリア封じの力を持ったバグルスだ!
「……ふぅああああ!」
カンナの全身からプラズマが吹き上がり、共鳴が衝撃波となって地を舐める。ライバとスティッキィはぎょっとして、露払いどころか足手まといになることを理解した。ライバがスティッキィの腕をつかんだがその腕をつかみ返し、
「カンナちゃん! 後方支援と陽動に移るから! ……頑張って」
カンナが左手を上げて返答した瞬間、二人は消えた。
容赦なくカンナが吠える。
「………………!!」
なんと叫んでいるのか分からない。
それほど、雷鳴の大重奏、プラズマ雷の炸裂する大轟音、衝撃波の大圧縮炸裂音、島が揺らぐ音、湖がざわめく音がピ=パ湖とその周辺すべての集落や大地と天空を一片の容赦もなく叩きつけた。聖地の住民の中には、竜世紀神話にある神の降臨と最終戦争の勃発と思ってショック死するものまでいたという。いや、ある意味、竜神話世界の最終戦争の始まりを告げる
たまたま尾根より続く斜面より崖下へ瞬間移動したライバとスティッキィはその地震めいた衝撃と音響に耳を両手でおおって身をすくめた。同じく、ちょうど反対側の山の下から湖畔へ移動していたマレッティたちも、突如として山上より天へ向かって吹き上がる震電と、竜の咆哮のように雲を破壊して天空を歪ませる衝撃波、そして島全体と湖面をゆるがす共鳴の力に腰砕けとなって地面へ横たわった。
「カンナ殿!」
マラカが驚きと喜びの混ざった顔で山を見上げた。
(……さっすがカンナちゃん、ウガマールでさらに強力になったのね……!?)
マレッティは半分恐怖に引きつった顔で同じく山上を見上げる。正確には、ウガマールでの調整もそうだが、これこそがリミッターのかかっていたカンナの力を解放したディスケル皇太子妃のガリアの力である。
(お願い……その力で……デリナ様を……)
もはやカンナを倒すとか殺すという考えは微塵も無く吹き飛んだ。神へ祈るがごとく、カンナへ願いを託す。
パオン=ミは無言でその「超常現象」を見つめていた。あれはもう……人間の成せる所業ではない。
スミナムチは驚愕と好奇心でわなわなと震えたまま動くことができず、ミナモはどこまでも妖狐のような不敵な笑みを浮かべている。
「……さ、行こう。我らは我らの仕事をするのだ。神を
カンナの作る閃光に影を作り、さらりとミナモが云い放ったが誰もその意味を把握するものはいなかった。ただ、再び湖畔の岩窟に隠されている二匹目の対天限儀器をめざす。
いっぽう、その神にも匹敵する一撃をくらったバグルスども、たまったものではない。
至近距離まで迫っていた数十体には容赦なくプラズマ奔流が降り注ぎ、超高電圧と熱抵抗で一瞬で炭化し爆裂した。さらに衝撃波が小型バグルスならば木端微塵にし、重戦闘型をも打ち倒した。空中にいたものなどその両方を食らって跡形も無くなる。さらに共鳴だ。距離を問わず凶悪的な脳震盪を起こし、眼、耳、鼻、口より血を大量に噴き出してひっくり返る。距離が近い者には頭蓋がバックりと割れて脳が飛び出てしまったのもいた。
「フウウゥ……!」
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