第690話 第1章 6-2 咆哮重連
「ふみぃいいいい!!」
カンナが猫めいて全身を逆立てる。逆立ったのはプラズマ流だ。眩しく輝き、熱が周囲を焼く。あまり規模が大きくなると建物が延焼しかねない。ほどほどで、バグルスだけを焼け焦げにしなくてなはらない。
と、そのとき、黒剣が共鳴を探し出した。甲高い共鳴音が周囲を舐めだす。魂が「無い」のに、いったい何と共鳴しているのか?
答えはすぐに判明した。
重戦闘バグルスめ、共鳴に合わせて細かく震え……いや、揺れだしたではないか!
カンナ……いや黒剣は、魂ではなくバグルスの躯体そのものに共鳴振動攻撃を仕掛けだしたのだ!
重戦闘バグルス、それでも何事も無く動き、カンナへ攻撃を繰り出す。カンナは振動と主にさらに電撃を放出する。なんでもいいから共鳴さえすれば、このように雷が現れる。バグルスの攻撃は変わらず機械的であり、当たれば即死は必須の威力だが当たらない。カンナは油断せず、慎重に反撃の機を伺う。
「……!?」
カンナ、自分の振動でバグルスの鋼鉄よりしなやかで堅そうな生体装甲がボロボロと粉のようになって崩れているのを看破した。分子レベルで揺さぶられ、細かく砕けている。
「エイ!」
試しに黒剣を振りかざし、電撃を放つ。パアン! 空気が乾いて裂け、衝撃音が鳴る。本来の轟雷撃の千分いや万分の一も威力のない、カンナにしてみれば静電気程度のものだが、人間の一人など一撃で黒焦げにする威力があるのは先ほど忍者を一人倒したことでも証明済みだ。この場所で、あまりの雷撃や音響攻撃は皇太子を巻きこむ恐れがあるため、これ以上は難しい。
だが通常ならこの程度の電撃ではかすりもしないであろう重戦バグルス、左肩の鎧鱗が砕けて弾け飛んだ。衝撃でよろめき、発光器が激しく明滅する。
それでも、感情を全く表に出さない。カンナへ怒りをぶつけるとか、苦悶に表情を歪めるとか、思いのほか強力な攻撃に当惑するとか、何もない。ただ、ガクガクと揺れながらカンナを探す。その光る眼がカンナを向き、カンナを……いや、ガリアを捕らえる。すると、自動的に動く。
もうカンナ、その動きが不気味に感じ、不快を露わにする。黒剣がそれへ反応し、一気に共鳴が収斂した。
たちまち重戦バグルスがその動きを止める。ビィィイ!! 振動音が響き、バグゥ、バガンと装甲が砕かれてゆく。
好機!
カンナが振動へ電撃を乗せ、右手肩手持ちの斜め上段から一気に袈裟へ叩きつけた。
バズゥ!! ズン!
重い音がして、ばっくりと重戦バグルスの筋骨隆々の肉体が左肩口より胸へかけて裂け砕ける。火と血液と白煙が同時に吹き上がり、ガッ、と片膝と片手をついた。
が、そのまま硬直するカンナへ向けて突進! まるで相撲かアメフトだ!
まともにカンナへぶち当たり、かろうじて音響圧で防護壁を展開したが完全ではない。
カンナは衝撃で浮き上がり、電車道で持って行かれる。そのまま建物の壁へぶち当たって壁を破壊しながらさらに突進し続ける。ホレイサンと聖地の建物は木と紙と漆喰、屋根瓦がせいぜいで、この装甲車めいたパワーのバグルスにとっては障害にもあたらぬ。部屋を七つほど貫き、畳も床板も破壊して梁も柱もへし折り、屋根が落ちる。最後は遮二無二両腕を振り回してカンナをどこかへ放り投げた。
さらに傷が広がって、バグルスが両膝をついた。しかしまだ発光器が消えていない。竜は、この発光器が消えない限りはまだ生きている。
「……こおぉのおおお!!」
屋根の上まで投げ飛ばされたカンナが怒りを爆発させる。メガネが目の奥の電光を反射し、蛍光翡翠に光る。
追い詰めた手負いの竜の恐ろしさは、サラティスのバスクなら嫌というほど知っている。トドメにのこのこと近づいたところを反撃で殺される新人バスクは後を絶たない。だがカンナはそれを知らない。また知る必要もない。
「グゥアア!」
咆哮がし、重戦バグルスが最後のあがきと上空のカンナめがけその口から火炎弾を吐いた。だが空しくカンナの共鳴に霧散して消える。
「……うぅああああ!」
逆に轟いたのはカンナの咆哮だった。
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