第691話 第1章 6-3 忍者全滅

 黒剣がスパークして光り輝き、音響の刃を槍めいて突き出して一直線にバグルスめがけて落ちる。バグルスが初めて驚いたような顔を見せた。両腕を交差して防御の構えを取ろうとし、左腕が上がらなかったので右腕だけで防御する。カンナはその分厚い手甲のような装甲版のついた腕へ落ち、黒剣が深々と腕を貫いた。


 刹那、バグルスが呻いて腕を振り回したが、黒剣が共鳴と電撃で腕ごと破壊するのが先だった。結果としてバグルスの肩と二の腕だけ動き、カンナは空中へ止まったままだった。そしてそのまま、すとんと下に落ちて、上向きの胸元へ突き刺さる。


 そして、直接共鳴振動を叩きこむと同時に大電流の放出! バズン!! バッ、バッ、バツッ……! バグルスの胸部から上が組織崩壊を起こし、細かく爆発して砕け散った。



 「……観たか」

 「ハッ」


 観戦武官の忍者二人が、バスクスの力の一端を見届けて、屋根の上から闇に消えた。

 さらに、闇の奥からカンナの戦いを見届けていたものが二人。


 くるの皇子みことアラス=ミレ博士だ。

 「観たか? 博士」

 「見ましたとも皇子様!」


 皇子はいつもの妖狐めいた笑顔をカンナの照らしだす球電の光へ浮かべているが、そんな皇子よりも博士のほうが興奮している。


 「あれが……あれがウガマールの作り出した奇跡の産物……! バグルスと人間を的確にして最大効果を発現させる配合で融合させ……さらにダールの天限儀てんげんぎをその魂魄の一部ごと写し取って移植する……よくもまあそんなことを考えつき、実行し、そして成果を出したものです……! まったくもって信じられません!!」


 思わず博士は闇から出て、もっとよく観察しようと瓦礫から出てきたカンナへ近づいていた。


 「待て待て……落ち着け、博士」

 その襟首を皇子がつかまえる。

 「お楽しみはまだ残っている……今日のところは帰るぞ」


 「し、しかし皇子様……標本の一つでも入手できるときに入手しておかないと……」


 博士は、カンナの髪の毛でも採取しようと考えていたのだ。

 「皇太子殿下へ頼んでおこう。部屋に抜け毛くらいあるだろう」


 「でも……」

 「よいから……我らは我らの仕事をするのだ」


 しぶる博士をなだめすかし、狂皇子は一息ついているカンナを後ろ眼にしてその場を去った。



 カンナが重戦バグルスを倒したとき、さすがに屋敷内に轟く程度の轟音が鳴った。


 「……!!」


 皇太子を襲っていた別同部隊の生き残りが、明らかに動揺する。皇太子近衛のディスケル帝国の屈強な兵士たちにくわえ、スティッキィとライバが加勢している。四人の忍者程度では、どうにもならない。分身の秘術を駆使する香炉の天限忍者に当初こそ苦戦したが、その天限儀士もスティッキィとライバの二人のガリア遣いにより倒され、形勢が逆転した。そしていま、表玄関では切り札の重戦闘バグルスが倒された。


 顎で指示を出し、残った二人の忍者が煙幕弾を床へ叩きつける。


 一人がすかさず天井まで跳び上がり、予め確保していた脱出ルートの一つである天井板を拳で打ち破って天井裏へ逃げる。も、そこには既にライバが瞬間移動で待ち構えていた。


 「!!」


 その忍者が暗闇の中で見たものは、ライバの持つ食肉解体用大型ナイフのにびた光だった。


 さらに、もう一人が襖を突きやぶって廊下に脱出する。そこにも、闇の中へ既にスティッキィの闇の星が大量に潜んでいた。まさに蒔き菱めいて廊下にばらまかれた細かな闇星を踏みつけ、忍者は驚いて立ちすくんだ。しかもガリアだ。右足などは、甲から先が切断されて肉と骨がと血液が飛び散った。


 「ぐぅ……!」

 硬直する忍者めがけ、その後頭部にひときわ巨大な闇の星が突き刺さる。

 これでゲームオーバーだ。


 天井裏からライバが跳び下り、スティッキィが闇の星を全て消すと、戦闘が終了した。圧勝と云ってよいだろう。いや、こうなることは分かっていた。


 「聖地も焦っているのか、それとも他の目的があったのか」


 近衛将軍が忍者の死体を検分しながらつぶやく。竜泰斗殿を襲ったような強力な爆弾でも持っていたら事だった。幸い、煙幕弾程度しか持っていなかった。


 「両方であろうなあ」

 皇太子が泰然として、云った。


 玄関先では急に訪れた静寂の中で、カンナが夜空を見上げていた。

 月の中を、知らない竜が飛んでいる。

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