第610話 第1章 5-5 霧の湖畔の勝利
だが、この情況では難易度は高かった。首はふらふら動いているし、炎は際限なく噴き出される。試しに狙ってみたが、口をぴったりと閉じられると、口周りの鱗ですら光って光輪を跳ね返す。それはガリアの特性であり、あの竜の口周りが特別に頑丈というものではない。光はそもそも鏡面に反射するものなのだ。つまり、この竜は対マレッティ用の竜と云っても過言ではない。
「あの短矢遣いのやつう、そこまで考えてこいつを用意してたのかしら!?」
と、周囲に赤い煙というか、霧のようなものが立ちこめてきた。確認のため、いったん充分に間合いをとって周囲を確認すると、パオン=ミが何か呪符でこの赤い煙のようなものを出したようだ。それはすぐにわかった。煙のせいで、目に見えない毛長飛竜の飛ぶ軌道が対流を起こして丸分かりだ。
(考えたわね、パオン=ミ……さっすが)
さらに気づく。
赤い
ふとみやると、やや離れた場所でドゥイカがその手鎌のガリア「
霧を呼び寄せているのだ! きっと、竜が湖へ出現し、バーララ達が襲撃してきたときからずっと行っていたのだろう。ようやく霧がたちこめてきた。
そして、いったん霧が出てしまえば、その霧を自在に操るガリアであった。霧が巨大な万力めいて三つの竜の首へ濃厚にまとわりつき、ぎゅうぎゅうと締めつけだした。苦しげに竜の呻くような咆哮がし、炎が吹かれるが首を締められているのでボッ、ボッと不完全燃焼の黒い煙しか出ぬ。
たまらず、一番右端の首が大口を開けた。
「いまだ!!」
マレッティ、
火の代わりに大量の血を噴き出して、断末魔と共に右の首が暴れに暴れた後、ぐったりと波打ち際へ仰け反って倒れ、湖面を赤く染める。
ついに、その巨体が動いた。渾身の力を入れて這いつくばっていた腹を浮かし、地響きを立てて前に出る。それほど苦しがっている。さしもの霧の万力も、抑えがきかなかった。
「……も、もう少し濃くなればちがうんだが、今はこれが限界だ!」
ドゥイカが悔しそうに云い、下がった。
「これでもじょおできよお!」
マレッティは勝算があった。現に火炎放射を封じられ、左の首は泡状の涎を垂らし、呼吸もできなく口をパクパクしている。
背後で、パオン=ミの火炎符の爆発音が聴こえた。こちらも勝負をつける!
「次!!」
マレッティ、小さめの光輪を十ほどだし、細身剣を器用に回転させ、螺旋を描いて飛ばしつけた。それはそのまま左側の頭の口中へ飛びこんだ。そして喉から食道にかけて螺旋に切り裂いた。白銀竜の向かって左の頭は、首が中からズタズタになって血と炎を吹き出し、ほとんど輪切りとなってバラバラと地面へ落ちた。
と、残った真ん中の首が根元より膨れ上がった。吐き口をふたつ失って、真ん中へガスが集中しているのだろうか?
爆発されでもしたらこの距離だ、たまらない。
マレッティがドゥイカへ指示する。
「いったん、ゆるめてちょうだい!!」
ドゥイカがすかさず、締めつけている霧の力を弱める。竜の残った頭が、大きく息を吸った。大量の炎を吐く前の動作だ。
マレッティは大きな光輪をひとつ出し、水平切りでその大口めがけて飛ばす。
果たして、火を吐く寸前の口へ水平に飛びこみ、くわえるように口を閉じたがそのまま口を裂いて顎から上が切り飛ばされる。
瞬間、上半分の無くなった首から大量の炎が真上に噴出した。
「やった……!!」
後ろから、バーララを倒したパオン=ミとマラカが、近づいてくる。
6
再びどっしりと地面へ腹這いとなった三首銀亀竜の巨体は手足がしばらく動いていたが、やがて動かなくなった。五人でその大きくつるつるした白銀の鱗の背中へ上り、そのまま向こう側へ通り抜ける。
「急ごう」
日が暮れる前に湖畔より脱出するため、小走りに進んだ。
まだ冷たい湖へ落ちたずぶ濡れのマラカが、しきりにくしゃみをしだした。
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