第572話 第3章 4-2 共鳴剣の威力

 「こいつ……」


 反撃する技術も無くほぼ棒立ちのカンナへ凛々しい眉と眼を吊り上げ、レラ、回転切りで刀を振るい、次々にその黒刀を叩きつけるも、そのことごとくがブゥン、キィュン、ブァン! という耳障りな音によって、カンナの身体をかすりもせずにぶらされてしまう。


 逆にカンナは、レラの刀が目にも止まらず、ことごとく自分の肉体へ届いているのが驚きと恐怖だった。いま、自分はいったい何回死んだのか!?


 「ウ、ワっ……」


 たまらず、もつれる足でなんとか距離をとる。ようやく身体が動いてくれた。が、レラが苦も無くと間合いを詰め、一気に土手っぱらへ正眼の構えから突きを見舞った。


 ブォアッ! 小さな音響壁が破裂し、二人ともはじかれて距離が空いた。レラが狂気的な怒りを爆発させる。


 「そんなガリア……ちょっと年上だからって、なまいきなんだって!」

 「レラ、力づくは向こうに分があるぞ!」


 アートの声がし、レラがびくりと身体を震わせ、舌打ちしてその動きを止めた。アートが自分を無視し、敵の味方をする事実にカンナの心が急激にざわつくも、


 「カンナ、いまはレラだけに集中しろッ!」


 否が応でもこちらもウォラの指示に従う。クィーカの声を思い出すほかはない。落ち着け……落ち着くんだ……。二人は、にらみ合ったまま同じことを思った。緊張しているのは、互いに一緒のはずだ。


 レラが黒刀を正眼に構える。カンナも同じように両手持ちで中段に黒剣を構えた。だが見るものが見たならば、レラもにわか仕込みで褒められたものではないが、少なくとも剣術の構えだ。しかしカンナは構えているというより「持っている」というレベルだった。本来であれば、勝負にはならない。


 「……う、う……」


 レラ、耳鳴りがする。自分の風は、カンナの共鳴に打ち消されている。だが、カンナの共鳴は、どうして自分の脳を侵食できるのだろうか。耳鳴りが広がり、頭痛がし始めた。眼がくらくらする。


 カンナはこれまでの戦いで会得した、レラと共鳴する方法を無意識に使っていた。これが球電や音響弾の攻撃ならば、レラの風や重力攻撃の力と相殺していただろう。それは、表面的な効果に過ぎない。ガリア「雷紋らいもん黒曜こくよう共鳴剣きょうめいけん」の真の力は、そういう表層的な効果ではなく、敵の魂と直接共鳴し、それを共鳴振動で破壊することにある!


 ギィィィイヒイィィィキィィイィン! レラの脳内にとてつもない音響が広がり始めた。黒剣が、レラをとらえたのだ!


 「なあ……ん……だ……!?」


 レラが黒刀を右手で握ったまま、頭を押さえて悶え始めた。頭痛と、なによりこの自分にしか聞こえない何重もの不快な音!


 「うあああああ!!」

 「いまだ、カンナ、行け!」


 ウォラの声に、カンナは我へ返って、バリバリと電光を発する黒剣を振りかざしてレラへ突進した。


 「レラを助けてあげて!」


 クィーカの言葉が脳裏をよぎる。カンナはその記憶を追いやった。手加減していては、自分が死ぬ。


 「こおんちくしょおお!」


 バグルスへ向けてそうするように、カンナがよろめくレラの細い腰車こしぐるまめがけて横斬りに剣を叩きつける。


 その瞬間、カンナはひっくり返ってしたたかに地面へ背中を打ちつけていた。


 レラは割れんばかりの頭痛に襲われながらも、対処のしようのないはずの距離まで迫ったカンナの横払い斬りを避けずに前に出て易々とカンナの間合いに入るや、黒剣を両手で持っているその腕の合間に刀の柄をつっこんで、柄頭へ左手を添え、一気に捻った。するとテコの原理で腕をキメられたカンナ、重心を崩されて肩から傾き、そこを豪快に足払いをかけられたのだ。もし黒剣が自動的にカンナの腕を保護しなかったら、両腕を折られていただろう。


 受け身もとれずに、豪快に背中を打ったカンナ、眼鏡もずれて苦痛にうめいた。

 「死んじまええ!」


 レラが涙目のまま鬼みたいな形相で、仰向けに横たわるカンナめがけ、右手で刀を突き立てる。


 カンナが、こちらも必死の形相で奥歯をかみしめ、剣を遮二無二、振り回す。ギィン! 同じく半透明に黒光りする剣と刀がかじりあって、火花を散らした。


 「おまえなんか……!」

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