第547話 第2章 6-3 レラ
スティッキィが不審げにウォラを見つめる。もう、ウォラも信用できない。いや、スティッキィはウガマール全てが信用できなくっていた。カンナのためにならないのであれば、カンナを連れて逃げ、ウガマールとも戦う覚悟がいる。そう思った。
その思いを見透かすように、ウォラが冷たい眼をスティッキィへ向ける。
「それはない。あの
「じゃあ……相手は何なのよお」
「カンナの妹だ」
「いもおとお!?」
スティッキィの声が、しゃっくりめいてひっくり返った。
「カンナちゃんに妹がいたのお!? それも……おんなじくらい強いい!?」
「まさか!」
ライバが息をのむ。
「まさか……二人目の……?」
「察しがいいな、ライバ」
ウォラがにやりと笑う。
「八十八人目だ。カンナの後、その成功例の再現と製法の確立をねらい十一人を一気に試し、十人が早々に死んだ。が、一人残った。奇跡だよ。この短期間で二人目などと。まったくの奇跡だ。カンナ以上の」
「二人目……」
スティッキィも目をむく。あんな、カンナと同じほどのガリア遣いが、もう一人いるというのか。
「だがな、問題はそこではないのだ……。我々にとっては単なる予備の急造品だが、それを担ぎ上げる者たちがいる。性能はカンナと大差ない。いや、凌ぐ部分もあるだろう。だがカンナに一日の長があると我々は観ている。むこうはどう考えても調整不足に経験不足だ。つい、二か月前に覚醒したばかりだからな……。いま、突貫で調整しているだろうが……どこまで通じるものか。だいぶん、精神的に不安定と聞いている」
「そ、それって……ウォラさん……まさか……あの……」
「そうだ」
ウォラが二人の前に、右拳をつきだした。
「ンゴボ川で見ただろう。カンナと戦った、あの暴風の化身を!」
「げえ……」
神々の戦いのように感じた、あの夜の戦い。あのような戦いが、この世にあり得るのだろうかと思ったが、夢ではなかった。あの青白く光り、高速で宙を舞う稲妻の塊が、カンナの妹……?
「で、でも、あの時は、カンナちゃんが勝ったわあ!」
「たまたまだ。カンナの意識がなかった。無意識ではカンナは強い。しかし、あの子は優しい……自らと同じ運命の相手へ同情するだろう。だが相手は憎しみしかないぞ。カンナに対する。そういう調整を受けているからな。まして、いちど負けている。その屈辱を雪ぐため、牙を研いでいるだろう」
二人は深呼吸めいて大きく息を吸った。精神が混乱する。
「……なんていう名前なんです? その、二人目の……」
二人目の、なんなのだろう。カンナは、何と呼べばよい存在なのだろう。ライバは、その問いを認識して途方に暮れた。
「レラ。レランカームィだ」
ウォラは顔を歪め、そのゆがめた表情を見られまいと、窓の外を向いた。
松明が、まだ蠢いている。
7
時系列は少々、さかのぼる。
ンゴボ川でカンナたちと戦い、思わぬ強さにひるみ、叩きのめされた相手……。
その夜、そのままウガマールまで一直線に逃げ帰った。
まるで流星めいて、その青白い軌跡は
「ハア……ハア……」
全身から白い煙を発し、建物の屋上へ下りたレラは、荒い息を吐いてうずくまっていた。
ここは、奥院宮の神殿の一つだ。ほぼ左右対称に作られた奥院宮の神殿群のうち、奥へ向かって右側が神官長が日々の執務や祭祀を執り行い、左側が大密神官たちが執務や祭祀を行う場となっている。大密神官は現在七人おり、筆頭がムルンベ大密神官。そして全員が反神官長派だ。
「どうした、レラ!」
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