第536話 第2章 3-1 トトモス
翌日より、四人は旅を再開した。街道は川を離れるが、川とほぼ平行にずっと下り、密林地帯の端をぐるりと回って海まで出る。途中で砂漠を突っ切ってきた大河ウガンと合流し、そこから二日ほど歩いて巨大なデルタにたどり着くと、そこはもうウガマールであることは既に記した。またその合流地点から、船も出ている。
川のすぐ近くに街道がないのは、ンゴボ川がごく稀に氾濫して水位が上昇するためだった。
あの妙な風鳴りはまったく息をひそめ、旅は気温が高いのを除けば完全に平穏だった。竜も出ないし、盗賊もいない。
その暑さ、スティッキとライバも慣れてきた。暑いといっても、真夏にはストゥーリアもこれくらいにはなる。それが、一年中続くか、十日ほどで終わるかの違いだった。
村で奉納された中に衣類もあって、砂漠用の頑丈で薄いマントやフード、靴、顔などに巻く長布を装備し、ウガマール語の稽古を続けながら、旅は続いた。
三日もすると、気候が少し変わった。それまで乾燥しきっていたが、向かって右手に鬱蒼とした森林が現れると、湿度がぐんと高くなる。やっと高温に慣れたが高湿度に慣れないスターラ人たちが、さっそく不調を訴える。うまく汗をかけない。
「なんか、息苦しいですね……」
ライバが、グイと服の胸元を開けて声を発する。それはもう、ウガマール語だった。
「なかなかいい発音だ」
ウォラがうなずく。ウォラとカンナは、けろりとしている。特にカンナ、風呂はないが、清浄で大きなンゴボ川で既に二回、水浴びができた。それだけでうれしい。川までは片道で一刻ほど歩くが、彼女にとってその価値はあった。いや、ライバの瞬間移動を使ってでも行く。
3
それから四日たって、景色が一変した。
街道の先に町があった。船着き場もある。ンゴボ川と大河ウガンの合流地点だ。町の名を、トトモスという。
「こんな町、あったっけ?」
カンナは驚いた。全く記憶にない。
もっともそれどころか、ウガマールからサラティスへ歩き通した記憶自体が、薄れているのだが。
それは、サラティスでバスクになってからのこの一年の経験が濃すぎて、それ以前の記憶が薄れているのだと思っていた。
街へ入る前に、街道は川岸へ近づき、高台よりその絶景を眺めることができる。すなわち、そのまま飲めるほど清浄で透明なンゴボ川と、砂漠や荒野、密林を抜けてきた泥水のウガン川が合流し、白と茶の流れがくっきりと二筋の流れとなって眼下を二色に染めている。この流れはしばらく二色のままだが、やがて完全にまじりあい、薄茶色の大河ウガンとなってウガマールへ続いている。
「ひゃあ……まさにこの世の果てってかんじよねえ」
ストゥーリアよりほとんど出たことのないスティッキィが、感嘆し、半ば茫然としてその景色を眺めた。こんな景色は、想像だにしていない。
「わたしも、トロンバーでクピイラ(オーロラのことである)を見たとき、おんなじように思った」
クピイラはスティッキィの原風景だろうが、カンナにとってはこの砂漠色の大河こそが、懐かしいウガマールの原風景の一つである。
「まだ、ここから南には古代より続く南部王国がある。バスマ=リウバという。私もまだ足を踏み入れたことはない。この世の果てなど、我らには、一生見ることもないだろう。ここは、サティラウトウ旧帝国の領土内だぞ」
「へえ……」
スティッキィの顔が、違う驚きに満ちる。話には聞くが、その「旧帝国」というのは、どれだけ広く、どれだけ発展していたのだろうか。
「当時は、竜はいなかったのでしょう?」
少なくともライバは、そう習っている。
「いなかったというか……帝国と、連合王国の滅亡により今となってはウガマールでも詳細は不明なのだが、こちら側の竜神を滅ぼして、初めて人の治める国として成り立ったのがサティラウトウと云われている」
ウォラは、そこまでしか云わなかった。
「そして、今でも竜神がいるのが……ディスケル=スタルやその周辺というわけか」
ライバが、しみじみとつぶやいた。
「ま、とにかく、行こう。ウガマールへ。船を使えば、明日にも着く」
三人は、中継港町トトモスへ入った。こちら側の流通は止まっていないようで、町はそれなりに
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