第532話 第2章 1-4 蒼い稲妻

 「わあああああ!」

 カンナの絶叫。眼が蛍光翡翠に光り、共鳴と放電で眩しく輝いている。

 「いったい、何と共鳴しているのだ!」

 そして、ウォラ、息をのむ。

 「……まさか……ここに……来ているのか……!?」


 ガクガクと震え、上空を見上げて硬直する。そんなウォラの手を取り、ライバがスティッキィと瞬間移動でその場を離れる。カンナの邪魔だ。


 数回、移動して、ライバが叫んだ。

 「どうしたっていうんですか!? カンナさんは、いったいどんな竜と!?」

 「……おそらく、竜ではない……」

 「じゃあ、なあんなのよお!?」

 ウォラは答えなかった。


 グラグラと地面が地震めいて揺れるほど、カンナの共鳴が高まる。そして、天空の奥から、それは、来た。



 竜巻か?

 いや、蒼い光線?

 あれも稲妻なのか?

 ライバとスティッキィは、それがいったいなんなのか、まったく分からなかった。

 ウォラだけが、厳しい視線で歯を食いしばり、飛来したそれを見つめている。


 カンナが地鳴りの中で雄叫びを上げ、ガリア「雷紋らいもん黒曜こくよう共鳴剣きょうめいけん」を振りかざしているのは、かろうじて見えた。


 共鳴と共鳴がついに衝突し、空気を引き裂いて、衝撃波が周囲をなめつくした。スティッキィが本能的に闇の星を大量にばらまいて楯として、ライバがまた二人を抱えざまに連続移動で安全な距離まで跳ぶ。


 一瞬の差で、三人は竜をも叩きつぶす衝撃波から逃れ、さらに半ルット近く離れたのだった。


 その三人の眼前で、地面から伸びる放射状の白い稲妻の塊と、天空から下りる蒼い稲妻の束がぶつかって、何度も閃光を発しながら、軌跡を引いて、やがて地面の稲妻の塊が空中へ飛び上がって高速で移動し始める。


 「カッ、カンナちゃんなのお!? あれえ!」


 不規則に明滅するまぶしさに目をそむけつつ、スティッキィが叫ぶ。ここまで、衝突のたびに衝撃波が飛んできた。いったい、相手はなんなのか。カンナを相手にあそこまで戦えるのは……ダールしかいない。


 鳴動はさらに大きくなり、地鳴りのような音と、風のうなり狂うような音が上下から襲いかかる。そこで、ライバとスティッキィは、この空を覆いつくす轟音が、ンゴボ川へ近づくほど大きく聴こえていたあの風鳴りだと気づいた。


 「……竜なの……!?」

 「竜……なんだろうか」

 「まさか……あれ……ガリア……」


 スティッキィが驚愕に目を見開いてライバを見つめる。まさか。カンナのガリアに匹敵するガリア遣いが……!?


 そして、二人同時に、ウォラを見た。星明りと閃光にかいま見えるウォラの顔は、見たことの無いほどに厳しい。二人は声をかけられなかった。


 バーン!! ズバア!! バリバリ……!! バッ、ガッ、バチイィッ!! ごおッ……!! グラガララア……ッ!!


 天空をゆるがして、空気が引き裂かれ、白と青の震電しんでんが縦横無尽に走り、二色の光りの塊が激突し、砕け散って微細な火花が星が降ってきたかのように霧散した。それは美しい、言語を絶する光景だったが、あんな力が人間から出ていると思うと、改めてカンナの恐るべきガリアを実感する。いや、カンナは、人間ではない……という、考えてはいけないことも考えてしまう。


 「それでも……あたしは……ついてくってきめた……たとえ………………!!」


 スティッキィが震えながら、自らに云い聞かせる。その手を、ライバが強く握った。


 その二人の眼前で、青と黄白色の二条の線が、縦横無尽に夜空を飛び交い、ぶつかり合い、そして閃光をまき散らす。それは二頭の竜の戦いにも、流星の饗宴にも見えた。


 「…………!」


 だが、しばらく見ていると、おそらくカンナであろう黄白色おうはくしょくの稲妻の塊が、青白い稲妻の塊をしはじめた。ガッ、ババッ、ズガアッ……! ぶつかりあう事に、鈍く重い激突音と、甲高い亀裂音と、空間がひしゃげる圧搾音が、電磁のスパークする音と混じって周囲に幾重にも轟く。


 そして、ついに最後の一撃が圧倒し、青白い光が豪快に弾き飛ばされ、死にかけの蛍めいて地面へ落下した。


 「や、やった……!」

 ライバが歓声を上げる。

 かに見えたが、青白い光は墜落する寸前で復活し、再び浮き上がると光り輝きだした。


 が、そのまま、一直線に、地平線の向こうへ飛んで行ってしまった。それは、ウォラだけが分かったが、ウガマールの方角だった。


 「カンナちゃん、勝ったわけえ!?」

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