第527話 第1章 4-7 ラクトゥス灰塵

 「スティッキィ、しっかりしろ!」

 「ごめん……瓦礫に……あたしのほうが足手まといに……」

 「なに云ってるんだ!」

 「二人とも、下がってて」


 見ると、カンナが、燃え盛る炎の向こうでのたうつ怪物めがけ、槍を地面へ突きたて、仁王立ちになっている。


 「わたしの中途半端な攻撃で、街が……もう、あいつはこのまま倒すしかない」

 「でも、カンナさん……」

 ライバの腕を、スティッキィがつかんだ。そして無言で首を振る。

 ライバは、スティッキィを連れ、瞬間移動した。残ったのは、ライバの分身だ。

 「あなたも、下がってて」

 「いいえ」

 カンナが振り向き、ライバの分身が続けた。


 「私は、ウォラのガリアの力が生み出した幻です。貴女を、できる限り助けます。遠慮なく……やっちゃってください」


 「そう……」


 カンナが、共鳴を捜し直す。竜の血に濡れた黒髪が、ビリビリと振動で浮き上がった。超振動が竜の血液を全て粒として弾き飛ばす。すぐさま、共鳴が来る。再び大地と大気をゆるがして、竜とガリアとカンナがつながった。


 バリバリバリ!! 空気を引き裂いて、電流がほとばしる。ライバの分身が、下がって瞠目した。ガリアが震える。


 「うわああ!!」


 また、ガリアがその姿を変えた。槍の穂先が螺旋にねじれ、持ち手の部分は広がって伸び、多関節の脚が突き出て、カンナを支える。これは、パーキャス諸島で出現した、巨大な銃……のようなものの、さらに別の姿だ。肩当てが出現して、カンナの小さな肉体を抱えるようにし、細い黒鉄の棒状のものが一筆書きで、カンナをぐるぐると取り囲んでいるようにも見える。


 その銃口というか、螺旋の穂先というか……それが、百足竜をとらえた。


 竜も、カンナへ気づく。共鳴を打ち消さんと咆哮が轟き、怒りと憎しみの、最後の炎がカンナへむけてその大きな口から吐き出された。


 「こんどは外さない!!」


 カンナの膨大な電流が、プラズマの流れが、螺旋の穂先へ集中し、集束され、収斂する。


 巨大な火炎弾のど真ん中へ、その光線が突き刺さった。

 バアッ! 

 火炎弾が霧散して、蒸発する。

 そのまま、百足竜の大口の中に、稲妻の矢がとびこんだ。閃光が街を照らす。


 バアッ、バアッ、ブワアッ……!! 燃焼爆発が連続しておきて、脳天から竜の巨大な肉体を破壊して行く。燃えあがり、砕け散り、爆発して肉片をばらまいた。独特の油臭い百足竜は、その通り、肉体の細胞の隅々へ脂と油を溜めこんでおり、それが全て燃えて四散した。


 カンナへも、猛烈な火の雨が降り注ぐ。


 カンナは反動で数十キュルトも後ろへ下がり、瓦礫の中につっこんでいた。その身はガリアが護ったが、動けぬ。


 「カンナさん!」


 ライバの分身が急いで瓦礫をかきわけ、カンナを掘り出す。その背中へ、容赦なく火のついた油の塊が降り注ぎ、ライバの肉体が燃えた。


 「に、にげ……」

 「私は……平気……ですから!」


 背中や髪、肩へ火がつき、苦悶に顔をゆがめながらも、ライバの分身は……いや、はカンナの手をとると、瞬間移動した。



 5


 ライバの分身は炎の中で、消えた。焼け死んだのか、死ぬ前に消えたのが先なのか……それはウォラにも分からない。ライバは、ウォラの作り出した分身ながら、幻の自分へ誇りを持った。生命を懸けて、カンナを救い出したのだから……。


 朝になっても街は燃え続け、翌日の昼すぎまで燃えていた。ラクトゥスは灰塵と帰した。もうもうと黒煙が立ち上り、ウガマールからも視認できるだろう。いずれ、遠からず調査部隊が来るだろうが、最悪なことに船がウガマールではなくラクトゥスにあった。ウガマール~ラクトゥス間を往き来する大型貨客船ムーリソン=ポースレ号も燃えてしまった。ウガマールから陸路では、ほぼ十五日はかかるため、調査や救援が来るのもそれ以降だ。


 重症の怪我人は、おそらく助かるまい。

 生き残った人々も、食料はほとんど燃えていた。

 「サラティスへ救援を頼んだ方が早いだろう」


 なにせ、サランテには滞っている船や物資がある。ウォラの指示で生き残った街の上層部が動き、街から離れた船着場にあって難を逃れた平底船でさっそくサランテへ向かった。


 「さて、我等はどうするか……」

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