第512話 第1章 2-1 スティッキィ強行軍

 そして、あわててスティッキィへ何がどうなっているのか、ガリアで通信を試みた。

 まるで応答が無い。


 スティッキィは慌てふためいてカンナを追い、夜を徹して街道を転がるように急いでいたので、それどころではなかったのだ。


 サア……と、月明かりが窓より入ってきた。



 2


 必死になって、夜もろくに眠らずに街道を走りに走ったスティッキィ、意外と早くそして簡単にカンナへ追いつくことができた。


 なんといっても、カンナ達が出発してから二刻半、すなわち五時間ほどしか経たずに出発できたのが大きい。


 関所を出て、つい先日、ガラネル(の影武者のバグルス)と死闘を繰り広げた台地をつっきる。おそらくどこにも寄り道しはしていないと判断し、そのまま南街道へ向かう。半日走り、歩いて、夕刻には台地を抜けた。向かって右へゆけばサラティス、左へゆけばホールン川の分岐路までもうすぐだが、休まずに走り抜ける。食事は流石に足を止め、乾パンをかじり、水を飲んで、また進む。街道をすれ違う隊商も何事かと振り返った。また、スティッキィも、何人追い抜いたか知れない。追い抜くたびに、カンナかどうかを確認したが、カンナではなかった。


 夜になって、慎重に街道で休んでいる人たちを確認しながら、スティッキィは夜通し歩き続け、捜し続けた。


 翌日の朝方未明、分岐点に到達する。ここまでカンナがいないということは、カンナたちももしかして夜通し歩いているのだろうか。


 スティッキィは分岐点を迷わずサラティス方面へ曲がった。


 そして、昼前に、ついに街道を歩く三人組を遠目にみつけた。両脇の二人……カンナよりやや背の低い女性と、背の高いがっしりした女性は知らないが、真ん中の華奢なフード姿の人物……なにより、あの妙にひょこひょこした歩き方が、まちがいない、


 「カアアアアンナちゃああああああん!!」

 跳び上がって、カンナ、振り返った。

 「なあああああんで一人で行っちゃうのよおおおおお!?」

 スティッキィ、子供みたいに泣きながら走った。

 「スティッキィ……!」

 カンナも、急に涙ぐむ。


 スティッキィが何度か蹴躓けつまづきながらも、街道を走って、カンナへ取りすがった。


 「スティッキィ、どうし……」


 「だめよお……一人でなんて……わたしは……カンナちゃんから……離れないって……きめたんだからあ……!」


 「ご、ごめん……もうおいてかないから……泣かないで……」

 「うっ……うっ……」


 カンナが周囲を気にしながら、なんとかスティッキィをなだめる。ウォラがこっそりライバへ耳打ちした。


 「……だれだ?」


 「さあ……カンナさんのお仲間のマレッティさんにそっくりですが……お名前が……違うみたい……」


 そもそも、ライバとウガマールの教導騎士にして、キリペの成敗のためにラズィンバーグを訪れたウォラも、どういう経緯で既に知り合いなのか。道すがらカンナへ語ったところによると、こうである。


 カンナを救えとの、まだ余裕のあったデリナの指示により、トロンバーとストゥーリアの中間あたりの寒村で療養していたライバは、ラズィンバーグをめざしたのであった。もちろん、ここのくだりは、それとなくしか話していない。デリナのことは、あくまで二人には極秘だ。


 それで、自らのガリア「次元穴市げんけつ瞬通しゅんつう屠殺とさつ小刀しょうとう」により瞬間移動も行いつつ、街道を急いだが、しかし、スーナー村でカンナたちを追い越してしまったのだった。


 そのため、いくらラズィンバーグでカンナたちを探しても見つからないため、ライバはサラティスへ向かった。その途中で、ガラネルの竜に襲われている隊商と遭遇し、退治をしようとしたのだが、竜退治などしたことのないライバは、えらい手こずった。そこを、助けてくれたのがウォラで、南方人を初めて見るライバが、話題としてウガマールとカンナのことを云うと、ウォラもカンナへ会いにラズィンバーグへ行くこと、そして急ぎ合流しないと裏切者がカンナの命を狙っていることを告げ、協力することになったのである。


 ちなみに、スティッキィがかなり急いで後を追ってもなかなか追いつかなかったのは、もちろん、時折ライバの瞬間移動を使っていたからである。ただ、カンナはその瞬間移動で「酔って」しまうため、時折しか使わなかったのが幸いした。


 そこを追いついたのだから、スティッキィの強行軍がどれほどのものだったのかが窺い知れよう。

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