第510話 第1章 1-3 神の鍵
丸まっている竜皮紙を急いでひらき、自らのガリアの明かりを掌に灯して、食い入る。だが、書かれているのは、文章ではなく、単語だった。それも、よれよれの字で、
「助け
それだけ。
「……え……!?」
マレッティ、意味が分からぬ。
「助け……助けてってこと!?」
思わず、何か隠された暗号でもあるのかと思い、ひっくり返したり、透かしてみたりしたが、何も分からぬ。
「まさか、あぶり出し……とか……いや……」
混乱し、愕然とし、呆然とした。いったい、デリナはどうしてしまったのか。
いや、デリナではないのかもしれない。筆跡が、まったく異なるし……。
とはいえ、これはまぎれもなく黒竜印の
さっぱりわからぬ。
そこへ、ダアン! と音がした。跳び上がって驚き、思わずデリナの密書と
「私だ、開けてくれ!」
アーリーである。
ノックのつもりなのだ。見ると、その一撃で
「マレッティ!」
閂を壊したので、ドアが少し開いた。アーリーは鍵がかかっていなかったと判断し、そのまま入った。
「マレッティ……話が……む……」
マレッティは床へ落とした密書や環を見られたと思った。が、アーリーが発見したのは、床に転がる伝書竜の死体だった。
(……しまった……!!)
もう遅い。マレッティは全身が汗で濡れつくした。
室内へ入ったアーリーが無言で屈み、マレッティのガリアの明かりに照らされる竜の死体を検分した。マレッティは云い訳を縦横無尽に考えたが、何も浮かばなかった。
アーリーが立ち上がる。
そして、赤い瞳で、しっかりとマレッティを見据えた。逆にマレッティは、アーリーの眼を見れぬ。ダラダラと汗を流して、顔を背けた。
「マレッティ……カンナがウガマールへ向かってしまった」
「う……」
何か詰問されると思ったが、予想外の言葉だった。
「カ、カンナちゃんが……!?」
「私はすぐさまあとを追う」
「追うって……」
うろたえつつも、話を合わせる。
「走ってウガマールまで行こうってえのお!?」
「ラッツィンベルクまで行けば……スネア村にカンチュルクの
「あ、あたしも……行くの?」
「いや……マレッティはリュト山脈を超え、聖地へ行け。行って……デリナを助けてやってくれ」
「…………」
マレッティ、時間ごと凍ったかと思った。何を云っているのか?
「デリナは、帝都へ向かっていたはずだ……そこで、ついに
「…………」
「我々は、別の目的があり、別の方向から研究を始めた。すなわち、碧竜のガリアを継承し、自ら遣うもの……人間でもダールでもバグルスでも無く……人間であり、ダールであり、バグルスである者を求めた。常世の蓋を開け閉めする
「…………」
「マレッティ……私はカンナを追う。ウガマールで異変があったのだ。おそらくだが……カンナを試練が待ち受けている。行って
マレッティ、そこで、ようやく、大きく息を吸いこんだ。
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