第335話 第2章 1-2 大隊長

 と、考えたが、マレッティは、実はデリナは密かにカンナを味方につけたいと考えているのではないか? と考えるようにもなっていた。そのための策を練っており、余計なことをさせないために、指示がないのだとしたら。


 (ま、憶測に過ぎないけどお。それにアーリーのことだから、そこまで見越してる可能性もあるし、ね……)


 それまで、ただの腕力バカだと決めつけていたアーリーが、自分とデリナの関係を少なくとも薄々気づきながら泳がせているようだ、とパーキャス諸島で分かってから、マレッティはアーリーを見直すと同時に侮るのをやめていた。アーリーは、下手をすればデリナにも匹敵する……いや、自認するデリナと違い、自らを隠しているという点で、デリナをも超える策謀家だ。


 (いま、余計な口出しや手出しはできないわあ)

 で、あった。



 さて、さっそくその方向で準備が進み、四日目には二百七十人ものヴェグラーのフルトたちがアーリーとマレッティに率いられ、出発した。またガイアゲンの人間がそれらを養う物資を満載した馬ソリを連ねて後に続く。トロンバーでは一気に人口が一割増えるため、その分の賄は自分らで用意しなくてはならない。


 ゆっくり徒歩や運搬用馬そりで進んだため、五日目にトロンバーへ到着した。幸い、五日とも天候は晴れて安定していた。トロンバーでは伝書鳩連絡により報告を受けた先遣隊によって受け入れ態勢が整えられており、街のほうぼうに既に宿舎が用意されていて、すみやかにヴェグラーや商会の要員はそこへ入った。木材と家具製作・建築業の本場ならではの早業対応といえた。


 アーリーとマレッティ、それにヴェグラー幹部の数人は特に防衛隊司令部として、街の中央に用意された真新しい建物に常駐する。


 司令部は、総司令としてアーリー、補佐副司令格にマレッティ、ヴェグラー幹部の女性三人……第一大隊長フーリエ、第二大隊長アーボ、第三大隊長クラリアが陣取る。


 ヴェグラーは立ち上がったばかりなので、これは今トロンバー迎撃戦用の暫定的な組織分けだった。ガリア遣いはピンキリであるばかりではなく、フルトは主戦竜退治や竜との混戦などの、あまり大規模な竜退治の経験がなく、聞き取り調査でサラティスでのバスク経験者やガリアの特性などを考慮し、カンナたちの強攻偵察隊は別にして、便宜上四隊に分けた。第四隊がスターラ防衛隊となる。トロンバー防衛隊の三つの隊は、それぞれ九十前後の大隊とし、十人から二十人までの小隊をまとめて五つから六つの中隊にしている。もちろん、それぞれ中隊長や小隊長を任命した。


 「すっかり軍隊じゃないか」


 それまで云わば自由兵だったフルトたちは、その厳密な組織化に戸惑い、そう反抗してヴェグラーを去った者もいたが、なにせじっさいに竜の軍団は迫っているし、報酬がとてもよかったのでほとんどはそのまま参加している。


 「そうは云っても愚連隊さ。いざ戦いとなると、どこまで効率よく動けるもんかねえ」

 無表情に近い暗い表情で、クラウラがつぶやく。

 「百人規模の戦いなんて、誰も経験がないから~……」

 フーリエも、完全な混戦も覚悟の様子だ。

 「できなきゃ、死ぬだけだよ。なあ、アーリーさん」

 精悍な声は、アーボだった。


 第一大隊長を務めるフーリエはフルト兼メスト。元よりレブラッシュ配下で、信任も厚い。十九歳のトロンバー人で、薄い銀に近い金髪に蒼い瞳の目尻はやや垂れて、中背にどちらかというと華奢でおっとりとした雰囲気だが、そのガリア「丸縁まるぶち銀牙ぎんが円盤えんばん」は恐ろしい。小皿を二つ合わせたような白い円盤で、両手に装備するので二つある。しかも、その合わせ目よりサメの牙めいた刃物が出現する。それが回転して敵を襲うものだが、電磁力で自在に操ることができうえ、カンナほどではないが電撃もできる。当然、先のカルマ暗殺ゲームでは、レブラッシュがこの時のために秘匿していた。レブラッシュ配下の暗殺者でも、筆頭格だった。


 第二大隊長のアーボは、メストではない。正当なフルトで、しかも数年前にサラティスでコーヴをやっていたというので竜退治もお手の物だ。アーリーは、彼女を知っていた。


 「ほとんどカルマだ」


 と、最高級の評価をしていると云ってよい。二十八歳とベテランの域に近く、ガリア遣いにして新レントー流の遣い手。ガリア「蒼天竜そうてんりゅう怒髪鎧どはつよろい」は、スタイリッシュな、一見非実用的なまでの特殊スーツめいた、全身へはりつくような深く青い全身鎧で、兜飾りがまさに髪が逆立っているように見える。あらゆる竜の息を耐え、全身に刃物が仕こまれており、かつ運動能力を数倍に引き上げて竜へ格闘を挑む猛者だった。三人の中では最も大柄で、体格の良いスターラ人。茶金髪に男みたいな骨太の精悍な顔立ちで、アーリーにも雰囲気が似ており、じっさいアーボはサラティス時代よりアーリーを崇敬していた。フルトをしながら、師範として新レントー流格闘術の道場も営んでいる。

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