第330話 第1章 7-1 帰還
ライバを追うのを諦めた三体の兵卒バグルス、シードリィを加勢しようと、急ぎカンナへ向けて走り出したとたん、カンナの巨大球電が炸裂して、その迫力に圧倒され、立ち止まった。
「……シードリィサマ!」
赤茶が爆風に顔を押さえながらも叫ぶ。
振り向いたカンナの眼光が、バグルス達を射抜いた。
恐怖にたまらずその場を脱出したのは、緑のバグルスだった。赤茶が、シードリィの仇とカンナへ向かって突進した。閃光が目を奪い、刹那に轟音が響きわたる。稲妻の直撃を受け、赤茶は衝撃で脇腹から肉体が破裂してほとんど千切れかけ、くの字になって転がった。
ライバの攻撃で足首を失った黒が逃げようと移動するも、その足が枷となって動きが遅い。また、動揺と恐怖で思うように肉体も動かなかった。
カンナが、黒のバグルスを電撃で麻痺させた。
ライバもカンナもいなくなった雪原に、大穴だけが残っていた。
つい先程、カンナの球電が爆発した跡だ。穴の底は地面が見えて、しかも焼けていた。まだこの冷気の下、熱を保っていた。
底に、ぽつりと、シードリィの炭化した右腕の肘から先があった。
また雪が降ってきたが、穴の底へ到達するころには熱で融けて雨になった。たちまち、焦げた右腕の周囲に水たまりを作る。
と、そのときだった。
黒こげのシードリィの
地面が沸騰し、融け、その熱泥の下より、シードリィが這い出てきた。
右手が、完全に死んでいる。
カンナの最終攻撃をくらう瞬間に、足元より超振動を発し、雪も地面も沸き溶かして、一瞬で地下へ避難したが、右腕だけ間に合わなかったのだ。
シードリィは完全に炭化した右腕の肘から先を、左手で砕いた。
「ハア……ハア……!」
苦悶に顔がゆがむ。
戦闘型として調整されているシードリィであったが、このような破滅的なまでの攻撃を相手にするのは初めてで、想定外だった。そもそも、彼女はホルポスの母親であるカルポスが作製・調整したバグルスであり、高完成度とはいえ、世代の古いバグルスだった。対バグルス・ダール戦に特化した「調整」をされているカンナに、勝てる要素が無い。
それでも、生きているだけまだ良かったといえよう。それは、単にカンナの経験値不足のおかげだった。
穴の底から雪の上まで這い出てきて、シードリィはなんとか立ち上がると、よろよろと歩きだした。リュト山脈のホルポスへ、法外で超人的な強さを持つカンナのことを、なんとしても報告しなくてはならない。
7
吹雪の中より、ライバが忽然とトロンバーの敷地の中に現れた。日が落ちる直前で、暁闇に明りを持って移動していた人々は、いきなり右手を血まみれにした、瀕死のフルトが通りに出現したので驚いた。たまたま近くにライバを知っている仲間がおり、抱えると急いでヴェグラー事務所へ向かった。安心したのか、ライバはそのまま気絶した。医者が呼ばれ、止血と消毒を行って、ライバは一命をとりとめた。縫った右手が腫れあがって、処置が遅かったら化膿し、壊死するか敗血症を起こしていただろう。
ライバが気絶してしまったので、エサペカとカンナがどうなったか、周囲は察するしかない。まさか、あのカルマがやられてしまったのかと訝しがるものもいたが、なにせ相手はダールとその配下のバグルスだ。なにが起きても不思議ではない。
「しかし、傷が違う」
医師がそう云った。傷、とは、あの肉体の内部より煮えて胸が破裂した若いフルトのことだ。確かに、ライバの傷は右腕の裂傷だけだった。
「バグルスとは、会わなかったのでは?」
仲間のフルトが囁くも、何も分からない。まして、バグルスにもピンからキリまでいろいろと種類があることは、よく知らないのだ。
夜には、ライバは高い熱が出て、意識混濁に陥った。
ライバは、悪夢にうなされた。
エサペカに続いて、カンナもバグルスにやられ、全身の血液が煮えたぎって死んでしまう。
その様子が、何度も何度も繰り返される。
薬が効いたのか、翌朝には熱もいちおう下がって、小康状態となった。しかしまだ眼は覚まさない。
まだ暗い中、何人かのフルトが見舞いと情報収集に事務所を訪れた。ライバ達三人の次の強行偵察の人員も決めなくてはならない。さすがに、連続で部隊が全滅し、次に予定されていたフルト達は三人とも辞退してしまった。
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